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闘いの終わり

生暖かい肉に自分の腕が埋もれている。

その感触にキーナは抜こうとしたが、それは彼女の腕を締め付け動かせもしない。

既に息をしてないだろう目の前の男が死してなおキーナを離そうとしないのだ。


男に守られたアルメデスが腕を振りかぶる。


「!」

気付いたキーナは男と共に後ろへ跳び去った。


「お前ッ!」

自分を守った人間と共に斬り捨てようとした…ッ!


「ふふ、何故そんな恨めしそうに睨むんだ?そいつはお前の敵だろう。」


「自分を守って死んだ家臣へ何の思いも無いと言うの!?」


「思い、ねぇ。…まぁ中々使える奴ではあったよ。」


「……っ外道が。」


「今更、だろ?それにお前も人の事は言えまい。」


確かにそうだ。戦争や殺人などテレビの中の出来事だったはず。なのに今の自分はどうだろうか。


キーナは男から抜けた血だらけの腕を見下ろした。


こんな姿を後ろにいるアレンやギルヘルムに見られたくなんてなかった。ましてや、グエンダルに。

こんなにも汚れた姿を。



キーナの意識が流れたのをアルメデスは見逃さなかった。

赤い風を皇帝が纏う。魔力は膨れ上がり、太い血管が顔や身体中に浮き出る。


ぐ、とアルメデスの筋肉に力が入ったと見えた次の瞬間には、キーナはグエンダルが崩した城の瓦礫まで吹き飛ばされていた。それと共にグエンダル達の防壁も消える。


「………ッ!」

グエンダル達は言葉も出せない。

そんな彼等の前にアルメデスはゆっくりと歩み寄る。


「ギルヘルム、お前が守ってきたこの国は私が貰う。キーナは闇に絡められ、民は堕ちる。だが……二人も君主はいらないだろう?」

残忍なその笑みは昔の面影もない。


「死ね。」

グエンダルが前に出ようとするが、それは下から生えてきた縄によって妨げられる。


そして、アルメデスが放った刃は庇ったアレンと共にギルヘルムの腹を貫いた。


「ぐ…っぁ!」


「…っ……っ!!!」

縄は身体中に巻き付き身動きもできない。グエンダルは口も塞がれたまま、血を流して二人が倒れていく様を見るしか無かった。



「……ふ、はは、…あははは、遂に殺したぞ!ははハハは!!私が…私が唯一の王だ!!」


動かないキーナとアレンとギルヘルム。

跪いたグエンダルにアルメデスが狂気の目を向ける。


「無様だな死神、何一つ守ることも出来ないただ奪われるだけの弱者になったんだ!!……魔物にしようと思ったが…もういい。弱さを悔いて、―……お前も死ね。」



赤黒い血が抉られた地面ボタボタと落ちた。

グエンダルを戒めていた縄が消える。



「紀、衣菜…っ!」

アルメデスの右胸辺りから生える黒い刀。


自身の血に濡れたキーナが、アルメデスの背後から皇帝を貫いていた。


「く、…油断した、ぞ…だが、これくらいでは私は死なない!」


ぐぐ、と力を入れられたアルメデスの翼が逆立ち、キーナの肌を傷付ける。それでもキーナは刀から手を離さない。


「確かに、この刀だけじゃお前は死なない。だから…、」


ゴゥッ!とキーナを中心に黒い霧が渦を巻く。

息を飲んだのはアルメデスか、それともグエンダルか。


彼女の魔力がどんどん上がっていくのだ。

サンを殺した攻撃で最早底をつきそうだと思っていた、魔力が。


「な…っ!どこにこんな力が!?」


「私を呼び出したのはお前だと言うのに忘れたの?魔物は何を糧に力を振るうのか。」


魔物の糧、それは恐怖、絶望、憎悪そして―……


契約者の命


「お前は私の契約者だ。」


「な、んだと!?だがあれは契約の為の儀式があった筈だ!!」


魔方陣の上でお互いの血を交わし、真名を呼び合う。


アルメデスはハッとして己の下を見た。そこには恐らくキーナの血で描かれたであろう魔方陣が。


「ただ私がお前の攻撃を受けているだけと思った?…お前が、私の名前をきちんと発音出来て良かったよ、『アルメデス』」



渦はキーナとアルメデスを囲み大きくなり、それに連れてアルメデスの逆立った翼が砂になっていく。


「貴様ぁ…ッッ!契約者が死ねば魔物も死ぬんだぞ!」


「知ってるよ。契約を解除しないかぎり、契約者の魔力が無くなれば魔物も死ぬ。」


「くッッ!!!」

アルメデスが力を出そうとすればそれは根こそぎキーナへと流れる。

だがアルメデスの魔力の最後が近づいくと言うことは、キーナの最期が近づくと言う事だ。


―…さようなら、グエンさん…っ


最後だと刀に力を込めたその時、自分の手の上に大きな手が重なった。


「!」

それはグエンダルであった。

キーナを後ろから抱き締めるかの様にグエンダルはキーナの手に己の手を重ねていた。


「言っただろう、貴様は信用しないとな。お前だけではこの男を殺せるか心配だ。だから、私の手を取れ。…呼べ、私の名を。」


「何、」


「呼べ!私の名を!!」


「だ、だめ、そんなのっ!」


「呼ぶんだ、『紀衣菜』!!!」

「……ッ!」




一瞬、白い光に包まれたかと思った次の瞬間、爆発かとも思える衝撃が空気を震わせた。


その衝撃に弾かれ、地面に倒れたアルメデスは右胸から血を流しながら驚愕に言葉を失った。



銀と黒の霧が渦を巻いて空に昇る。

その渦から出てきたグエンダルはキーナの肩を抱き寄せ、彼女と共にアルメデスに黒い刀を向けていた。


そのグエンダルは、キーナの手に重ねた手の甲から服が破れて剥き出しになった左肩まで黒い蔦模様が描かれ、キーナの蔦模様も顔まであったものが、袖が破れて血が滲む右肩までになっている。


契約の上書き


契約する魔物に契約者が居たとしても、それを無効にし自分と契約させる。

それには契約する魔物及び契約者よりも高い魔力がなければならない。


グエンダルはじっ、と膝を着きながら己の魔力が満ちるのを待っていたのだ。


銀と黒の霧は地に伏したアレンとギルヘルムの腹を覆う。そして、それが無くなると二人の貫通した傷は跡形もなくなっていた。


「アルメデス、お前に1つだけ言っておこう。……こいつは、紀衣菜は渡さない。例え契約者としても。」


「-…!」


「消え失せろ。」

キーナとグエンダルの魔力が混じり合い、刀に巻き付いて力を形成していく。


---そして、全ての音が無になった。

――――――――――――

――――――

―――

――



体から魔力がまるで砂のようにこぼれていく。既に人ではなくなったアルメデスは心臓を潰されても生きていた。だがその意識を保てるのもあと僅かだろう。


二人の力はアルメデスの心臓を貫いた。


アルメデスは残った僅かな力を振り絞り、心臓を貫かれた際に共に砕けた赤い石の欠片に手を伸ばした。それは肌身離さず胸元に首から下げていた赤い石の首飾り。


ぼんやりとその欠片を眺めたアルメデスの視界の向こうには、己を身を挺して守った緑の男。


「サ…---。」

呟いた声は掠れて音になる前に消えた。


世界の頂点に立とうとした男は、砂のように崩れ、それも吹き抜けた風によって跡形もなくなった。




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