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彼女と彼の日常7

なぜこんな状況になった。


キーナは目の前の光景、もとい空気も凍る冷ややかな雰囲気にため息をついた。


久しぶりの城下に朝まではルンルン、買い物をしていた時点でもルンルンだったはずなのに。


目の前にはおいしそうなパンケーキ。


そして右にはキーナを見つめてニコニコとする近衛兵であり以前キーナのお菓子…と言うか物体Xの試食をしてもらった事がきっかけで仲良くなったリムル・ダンシー。


左にはキーナを射殺さんばかりに睨み付けこれ以上無いほど眉間にシワを寄せている想い人のグエンダル・ハズウェル。


もう一度言う。

なぜこんな状況になった。

いや、原因なら分かっている。

ここには居ない顔だけの幸薄不憫野郎、アレンのせいだ。


それは一時間ほど前に遡る。



+++++++++


「本当に良かったんですか?せっかくのお休みなのに…。」


「いいんだよ、キーナちゃんと僕の休みが被るなんて事滅多にないからね。それに僕の買い物にも付き合って貰っちゃったし。ありがとう。」


「いいえ!私の方こそ買い物に付き合って貰って嬉しかったです!」

久々に貰えた休日、キーナはリムルと城下へ来ていた。

立ち話をしていた際自分と彼の休みが重なっているのを知り、リムルが誘ってくれたのだ。


「それに今から行くパンケーキ屋も楽しみなんです~!行きたかったんですけど休みも無いし、何より一人で行くのは。って…。」


「僕も楽しみだよ、今話題だし甘い物大好きだしね。」

うう~ん、リムルさんの笑顔プライスレス。素敵です!まぁグエンさんが一番だけど!


そんな事を考えつつ目的地へ。

そこはもう外観からして可愛らしいお店だった。

今話題のパンケーキ屋。


本来ならグエンダルと来たいと思うキーナだが、グエンダルの外見もこの店には合わないし性格など話にならない。

いつもはグイグイ押すくせにこのような事は無駄に空気を読む。


「うわぁ~、可愛いお店ですね!」


「そうだね、女の子に人気なのが分かるな。天気も良いしテラス席にでもしない?」


「いいですね!」

そうして二人でテラス席に座り注文を取った。

甘い匂いが絶えず漂い、ケーキが来る前から涎が出そうだ。


「はぁー、いい匂い。そうだ!今度はパンケーキにも挑戦してみます!」


「はは、形になると良いね。」


「はい!」


ああ~楽しみ!今から来るパンケーキもだけど、料理上手なシェリーさんに教えて貰えるか聞いてみよう。それで、教えて貰えたら練習して…


「あれ?キーナちゃんじゃない。」

その時、キーナが聞き慣れた声が彼女を呼んだ。


「え…?アレ…グエンさん!?」


「せめて最後まで名前を呼んで欲しかった。」

そこにはガックリと肩を落としているアレンと普段通り不機嫌そうな顔のグエンダルがいた。


「ま、まさかの出会い!これぞまさしく運命!」


「…。」


「いや、ただの仕事帰りだから。」


「(そうだったんですか、お疲れ様です。)うるさいな、少しは感動に浸らせて下さいよシェリーさんに捨てられろ。」


「気付いてないだろうけど、今多分思ってる事と言う事逆になってたぞ!」


「あは、つい。」


「わざとか!確信犯だな!」


「それはさておき。グエンさん!お疲れ様です!」


「…。」

キーナに出会ってから顔の筋肉を1ミリも動かさないグエンダルにいつもの笑顔を向ける。

しかし普段なら何かしらの反応をするはずのグエンダルは無表情さらには無言でキーナを見詰めたままだ。


「…?グエンさん?」

「…。」


「キーナちゃん、君こそ何しているの。デート?」


「デ…!別にただ一緒に買い物してこれからお茶してるだけ…ん?」


十分デートっぽいかも。

と言うよりそのニヤニヤ顔はなんだ幸薄…いや、アレンさん。


「僕はデートのつもりだったよ。まだ手は繋いでないけどね。」


うぐ!お茶目なウィンクを投げないで下さいリムルさん!萌えます。


「ふぅん…。まだ、ね。」


「ええ。まだ、です。」


「?」

ヒヤリとした空気が流れた気がしたが、リムルから目を外したアレンはキーナにフワリと微笑んだ。

普通の女子ならば頬を染めるだろうが、キーナはアレンのソレに鳥肌を立てた。


な、何だろう。胡散臭すぎる…!


「そうだ、グエンもパンケーキ食べて行けよ。」


「「は!?」」

キーナとリムルの声が重なる。(ちなみに片方は何言ってんだテメェの意味である)


「馬鹿か。こんな気色の悪い店で、しかもこんな者達となど時間の無駄としか思えない。」


「そうですね、お偉い隊長様には似合いません。気にせず立ち去って頂いて結構です。」

初めて反応したグエンダルとそれに返すリムル。どちらも辛辣だ。


「グエン、お前この店の事調べてただろ。男1人じゃ入りづらいだろうがキーナちゃんが居てくれてちょうど良かったな!」


「そんな事、」


「あれ、違った?でも調べてたのは事実だろ。ケーキを食べたかったんじゃないのか?それとも食べる以外にこの店を調べる必要があったとか?」


「お前には」


「関係ない?そうだな、でも余裕でいたら違う奴に大事にしてたものを食われちまいそうになってる戦友を放って置けないだろ。」


「……。」


寒い、グエンさんのブリザードが!ケーキなんていつでも食べれるんだからアレンさん黙って下さいよ!


「ね、いいよねキーナちゃん。君が居てくれればグエンも気を使わないでここで食べれるだろ?」


「ぅえ!?は、はい全然!」


「ちょっと待って下さい、僕たちは二人で…」


「ありがとう。じゃぁグエンはこっち座れよ、ほらほら。」


話を振られてドギマギするキーナを置いてアレンは無理矢理グエンダルを空いている席に座らせる。

そして爽やかに「じゃ!」と手を上げて去っていった。


ど、どうしろと言うのだ!


残されたのは笑っているが何処と無く怖いリムルと視線で人を殺せそうなグエンダル、顔を青くしたキーナで。

そうして今の状況が出来上がったのだ。


「キーナちゃん、出来立ての内食べちゃいなよ。」


渡りに船!


「ああ!そうですね。じゃぁお先に頂きます。」


ぱく

……………

…………

「んーっ!美味しぃい!」

ふわふわの生地にトロリとした甘い蜂蜜と滑らかな舌触りのクリームがかけられている。


今の気まずい状況を忘れ、キーナは上機嫌に食べ、そして彼女を見つめるリムルは蕩ける様な目をして微笑ましそうにしている。


「可愛い。」


「はい?」


「食べちゃいたい。」


「ふふ、リムルさん食いしん坊ですね。食べますか?(パンケーキ)」


「いいの?…甘くて柔らかいんだろうね、病み付きになるような。」


「確かに嵌まりそうです!ふわふわで甘くて…あ~、幸せ!」


「ふふ、クリーム付いてるよ。」

リムルの指がキーナに伸びる。

いつも柔らかな光を灯しているリムルの瞳は今は熱を宿し、そしてキーナに絡み彼女の動きを封じた。

しかし無防備なその柔らかさをリムルが感じる事は出来なかった。

何故なら彼が欲した無垢なソレは、彼の反対側から伸びてきた手に包まれたからだ。


「グエンさ…」

グエンダルはキーナの頬に付いたクリームを取った指を舐める。

じ、とキーナの瞳を見詰めたまま。


「…甘い。」


「っ!」

貴方がね!!!


「キーナ・・・、「…隊長さん、邪魔しないでくれませんか?」


「何の事だ。」


「あの、リムルさん?」

お怒り!?

リムルの聞いたことも無いくらいの低い声に一瞬前の幸福が吹き飛んだ。


「ごめんなさ・・・。」


「状況を見ればわかるでしょう、それとも分かりませんか。」


「・・・・。」

リムルの目は鋭くグエンダルを見つめている。


私に怒ってるんじゃない?だろうけど・・・なんだろう、よくない雰囲気なのはわかる。


「貴方は彼女をこんなもの呼ばわりしたでしょう、こんな気色の悪い店にこんな彼女といる時間が無駄だ、と。」


「言ったな。」


「あ、あの~言われ慣れているんで!」


「言われ慣れている・・・そう言わせるなんて。なぜ彼女が貴方を、だなんて理解できない。」


「私であっても理解不能だ。」


「じゃぁ別に彼女が例え違う男に目を向けてもいいんですね?」


「私が関与する事ではない。当人の自由だ。」


リムルから引き出されるグエンダルの答えにキーナは俯いた。


「なら、譲ってくれますよね。僕が初めに彼女と共に居たんだ、………新参者は退いて下さい。」

ね?とリムルにゆったり首を傾げられグエンダルは静かに席を立った。


「…あ。」

知っていた、分かりきっていた事だけど…グエンさんがわざわざ私と一緒に居ようなんて思わないのに。


そのままグエンダルはキーナの横を通り帰ってしまう。


そうキーナもリムルも思った。


だがグエンダルはそのまま立ち去ること無く、キーナの横に立ちその腕を取って立ち上がらせた。


「何しているんですか!」

リムルも椅子から立ちキーナの腕を掴んでいるグエンダルを睨み付ける。

だがグエンダルはそれよりも更に冷たい目で返した。


「私は“者達”と言ったんだ。共に居る煩わしい者など1人で十分。そして、何を勘違いしているのか知らないが新参者は……お前だ。」

その目に揺らいでいるものは何かリムルには分からない。


しかしそれは確実にリムルの闘志を萎えさせた。


「言っただろう『こいつはお前には、惚れない』と。」

リムルはその場面を思い出す。あの時も今のように目の前の男に少女の手を取っていた。


「退いてろ。」

そう言い、グエンダルはキーナと共テラス席から出て行った。



残されたリムルは脱力するように椅子に座った。

間違いなくこれから二人が交わすであろう言葉を想像すると彼でさえ砂を吐きたくなる、と言うよりあの男に投げ付けたくなる。


無自覚なのか確信犯なのか。

手離す気はないくせに入り込ませもしない。

そんな男とこの先キーナが一緒居て幸せになれるとは思えないのだ。


「すいませーん、季節の果物のパンケーキ下さい。」

取り敢えず今は甘い物で疲労した心を安らげよう。


ファンシーな店のテラス席で、リムルは今度は二人でこの店へ来るだろう憎々しい男と愛らしい少女を思って溜め息をついた。



久々です(汗)


スランプ中なのでリハビリとして日常を書いてみました。


本編に戻れるよう頑張りますので亀更新ですがよろしくお願いします!m(__)m



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