男と狂喜
時系列は「彼女と闇」と同じ時です。
薄暗い部屋の中、揺らぐ蝋燭の光をただ男は見詰めていた。
広い部屋にはベッドすら無い。
真ん中に一人掛けには大きく豪華な椅子が置いてありそこに男は座っていた。
鮮血よりも更に濃い紅い目は暗い闇が横たわり、人間の温かみが少しも感じられない。
赤茶の髪は長く肩の横で結び垂らしている。その頭には様々な宝石が付いた王冠が鈍く輝いていた。
「アルメデス様。」
何処から入ってきたか。黒い布を纏い目しか覗いていない声からして男が、椅子の傍らに跪づいた。
アルメデスと呼ばれた男はチラリとそちらに目線を向け促す。
「やはり、今一度影共を潜ませた方がよろしいのではと。」
ルディースル国の城に潜ませた密偵。何の手掛かりも掴む事も出来なかった無能な集団だが、何人かの行方不明者が出ている。
つまり何者かが排除していると言うこと。もしかしたら自分達が探している魔物が関与しているかもしれない。
役には立たなかったが囮にはなるだろう。
黒ずくめの男はそう思っていた。
だが椅子に座った男は杯を傾けながら気だるげに言った。
「影はもう要らん。…いや、既にもういない。」
ハッ、と黒ずくめの男が顔を上げる。
「役立たずは必要無い。…お前も、これ以上手こずるなら同じだ。」
なにも写さない目を見て自分の体に震えが走るのを感じた。
「いや、既にお前には失望させられているな、サン。」
「……っ。」
紅い目が黒ずくめの男、サンを捉え、長い指がゆっくりとサンに伸びる。
サンは動かない。否動けなかった。今彼を支配しているのは純粋たる恐怖。
だがその指が彼に届く前に男は椅子から勢いよく立ち上がった。
杯は床に落ち毛の長い絨毯に赤い染みを作った。
男の目は先程までのなにも写さないモノではなく、ギラギラとした激情が見えている。
口端はぐ、と上がり整っている筈の顔に浮かぶのは笑顔とは言えぬ凶悪なものであった。
「………見つけた。」
言葉には隠せない程の歓喜が出ている。
サンはその発言に驚く。
自分達が探し求めていたモノか確認をしたかったが、何も言う事が出来ない。
「見つけた…見つけた…っ!く、はは、はははは!!!見つけたぞ、やっと!くく、ははは は は は!!!」
それは正に狂喜。
見つけた。
私の化け物 !!!
ああ。
どれだけ探したか。
やはりあの国に居た!
憎い、憎いあの国に!!
扱いが甘過ぎたのだ。優しくし過ぎた。次は逃げ出さない様に手足を切り捨てて首に鉄鎖を巻こう。
「サン、あの国への訪問を早めろ。アレはそこに居る。」
「…承知致しました、アルメデス皇帝。」
サンは現れた時同じく闇に溶け込むかの様に消えた。
残された男、若きカルト国の皇帝は微弱でも魔物の気配を感じ取れる自分の魔力の高さに感謝し、狂ったかの様に笑い続けた。
「ふはははは、ふ、ふふっあはははは!!く、くは はははは!……もう、逃がさない、………紀衣菜。」
うっとりと狂気のまま呟いた、その、名は。