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彼女と彼の過去

キーナがあまり良い子で無いです



本物の彼を初めて見たのは、私に宛がわれたらしい部屋に国王陛下が私の様子を見に来た時だった。


その瞳は冷たく、ヒタリとこちらを見据え。


私は目の前に居る恩人ではなく彼を守る様に後ろに控える翡翠を馬鹿みたくずっと見詰めていた。



+++++


最後の気力を振り絞った逃走は暗い森に逃げ込んだ所で力尽き、この国に保護されたらしい。


らしい、と言うのは保護された際私は私としての意思を確立していなかった。それくらい心身共にボロボロだった。



侍女長とシェリーと名乗る美しい女性に看病をされつつここで働く為に城の人達と触れ合う日々。


初めは警戒していた人達もそれが薄れ、同情しているのか良くしてくれる。


12歳程に見られているらしいけどその方が色々都合が良い。


体の傷が癒えたらこの城を出て闇を探そう。その後はまだ分からないけれど。


それまでは傷付き怯える子供としてここに居よう。


利用している事に罪悪感なんて無い。私は世界が嫌いだから。


あの国もこの国も私にとって同じだ。





この城の人達は随分と慈悲深い。もちろん皮肉で言っている。


今では侍女長もシェリーさんも料理長も庭師も、あの騎士団の人達ですらも私にお菓子を寄越す。


ヤサシイ皆様はカワイソウな娘を放っておけないのだ。

まぁ貰える物は貰うけれど。





治療を初めて一月、私を保護した男であるこの国の王には四回ほど面会した。


王と言う立場上気軽に私の元へ様子を見に来れない事を謝り、甘いお菓子をいつも土産に持って来て手ずから私に食べさせるのだ。


「今は傷を癒す事を考えるのだぞ。」


「…はい。」


そして花の砂糖漬けを口に入れてくる。


甘い。



そんな国王陛下の後ろに居る、彼。


ただ佇んでいるだけに見えるが私が少しでも可笑しな動きをしたら斬り捨てられる様にどこにも隙がない。



この人は初めて会った時から苦手だ。


こちらの考えを全て見透かしているかの様な、国王陛下を守ると言うより私を監視しているかの様な瞳。


こんな小娘一人に一体何が出来ると言うんだろうか。疑いたければ疑っていれば良い、無駄な事だ。監視すべきは私なんかではないのに。


そう思って居るはずなのに、私の目は彼へと向いてしまう。


それは私にとって煩わしい事だった。




作法や礼儀を教えて貰い侍女長やシェリーさんに仕事を教わり城の人達と交流する。


たまに見舞いに来る国王陛下や何故か新しく見舞い客として来る様になった殿下と話す。


そんな風に私の過ごす日々はあの国に見付かる事なくあっと言う間に過ぎて行った。


変わらないのはグエンダル・ハズウェル彼だけ。


一歩下がった所から私を監視する。


私はそんな彼に目を向けないようわざと視界をずらす。


それで良いと思っていた。

どうせ此処から去るのだから。


そう考えていた私は、だが半年を過ぎ傷が癒えてもまだこの国を出ていなかった。


その頃の私の心の中は常にモヤモヤとしていて自分を掴む事が出来ず漠然とした不安が巣食い、言葉や態度には出さないが苛々としていた。



城の人達は相変わらずヤサシイ。


そしてそれが漠然とした不安に更に拍車をかけていた。




「今日の作法の授業は体に響かなかった?辛くなったら言うのよ。」


「…はい。」

嗚呼



「キーナちゃん!そんな細っこい体じゃ仕事なんざ出来ねぇだろ!俺特製のスペシャルランチ食べてきな!」


「…はい。」

嗚呼



「お、キーナちゃん。俺の部屋を掃除してくれたんだってな、ありがとう。」


「…はい。」

嗚呼



「キーナ、最近はどうだ?余は堂々とそなたを呼ぶ事は出来ぬからな。何かあったら申せ。」


「有難い言葉です、国王陛下。」

嗚呼





嗚呼、ああ、アア


ヤ メ テ



気付いた時辺りは夜になっていて、私は何処かの部屋の冷たい石のバルコニーに座り込んでいた。



さっきまで何をしていただろう。


ああ、そうだ。久しぶりに国王陛下と会い変わりは無いかと聞かれ、話をしていたんだが突然私が部屋を出て行ったんだ。


がむしゃらに走り、鍵が空いている部屋に滑り込んだ。



何故部屋から逃げ出しか私にも分からない。


早く戻らなくちゃ。


ここで可笑しな行動をすればまた警戒されて面倒になる。



ゆっくりと起き上がった所で後ろに誰か居ることに気付いた。

月が雲に隠れ暗い中、ヒヤリとする存在感を醸しながら此方を見詰める男。



グエンダル・ハズウェル



ドキリと心臓が跳ねる。

それが嫌なものと言うのはジワリと浮かんだ手汗で分かる。


さっき逃げ出した事で警戒を深めたか。



彼がゆっくりと歩いて来る。

身を固くした私に構わず、こちらに彼は手を差し伸べる。



それに戸惑いながらこれ以上失態しないよう素直に取ろうと手を伸ばす。


「…ぁ、ぁりがとぅ…ございま…。」



けれど私の言葉は最後まで言う事なく彼が私の胸元を引き上げ首に抜き身の剣を当てた事で途切れた。


奇妙な沈黙。

ごくりと私の喉が鳴り、彼が話し出す。


「私に、同情されると思うな。…いつまでもここで甘えられる事は無いと思え。」


その言葉に目を開く。


「…な、んで…。」

それは何に対しての質問か。情けない程に掠れた声だった。



「何故?当たり前だろう。何を企んでいるかは知らないが、自分達を信用してない者を信用する筈が無い。必ず綻びが出るだろう。」


「なに…。」


「陛下は既に気付かれている。しかし、あの方は最後まで貴様に手を差し伸べるだろう。そう言う人だ。」



『もう、大丈夫だ。』


ふと脳裏に浮かぶ太陽の様な人。トロリとした暖かい黄金の瞳。



「だが私はそんなに甘くはない。最後と言わず今すぐにでも終わらせてやろう。」


「…私を、殺すの。」


「必要があれば。だが陛下はそれを望んでいない。侍女長も、シェリー・ノーベルも、他の者達も。」



ヤサシイ人達



「私は貴様を信用などしない。何かすれば斬り捨てる。」


私の首に刃が切れない強さで食い込む。けれど、私の中に恐怖は既に無く代わりに浮かんだのは悔しさとも怒りとも思える感情だった。


それに突き動かされるかの様に叫ぶ。



「誰が…ッ!誰が同情してなんて頼んだ!!そんなモノ貰っても私は戻れないのに…ッ!可哀想?私に優しくなんてしてる彼等の方がよっぽど可哀想!!」

彼は黙って聞いている。言うべきでない言葉が、溢れて止められない。私の立場を危うくする事は言わない方が良いに決まっているのに。



「貴方も可哀想!私を監視したって無駄なのに。…同情なんて、優しさなんて要らないッ!!」


はぁはぁ、と私の荒い息が響き冷たい風が彼の前髪を揺らす。


「……では、何故貴様は此所に居る?」


傷はとうに癒えているのに。

離れようと思っていたのに。


「そんなの、私だって知らない!」


それは余りにも拙い言葉だったが彼は黙って聞く。


「知らない!私は、何を…何で…。」


漠然とした不安、苛々



「甘えるな。」


ハッキリとした声に俯いていた顔を上げる。そこにあったのは。


「貴様が何を考えているか私が知るわけ無い。」


雲から現れた月の光に照らされた白銀の糸、白い頬、通った鼻梁、そして翡翠の様な瞳。



「唯一確かなのは貴様は応えるべきと言う事だ。


ただ受けるだけの同情?甘えるな。貴様は其れを返す義務がある。


例え彼等が望んでいなくても、貴様は何物にも代えられない命を救われたのだから。」



だから、甘んじるな。

現状を同情を優しさを甘んじるな。


「信じて欲しければそれ相応の態度を示してみろ。同情など期待するな。」


彼はゆっくりと私の首から剣を離し収めるとその場から私を残し去って行った。


私は呆然と彼を見上げた姿勢のまま光る月を見詰めていた。



戻れない日常

暗い牢獄

人間扱いされない自分


世界の全てを憎んだ。


憎悪、恐怖、諦め、絶望


『もう、大丈夫だ。』

その先に辿り着いた太陽。


私は世界を憎まなければならない。あの国もこの国も、全てを。


けれど彼等の優しさが、同情が、私の暗闇に小さな光を落としていく。



優しくしないで。(優しくして)


同情しないで。(同情して)


そんな目で見ないで(私を、見て)



ぬるい温かさは私をこの場所に縛り付け、相反する思いが罪悪感へ変わり漠然とした不安になる。


憎まなければならないのに、彼等の差し伸べる手にすがりたい。


独りになりたくない。

憎みたくない。

もう暗い感情に支配されたくない。



「ムカツクなぁ…。」

呟いた声は震えていた。

きっと私の顔は泣いている様な笑っている様な顔をしているだろう。



全然優しくなんか無い、氷のような人。


「少し位、優しくしろバカ。」

此処に居て良いと言われた気がした。実際は警告の様なものだが。



救われた命、同情、優しさ。


「恩返し…とはまた違うけどさ。」



報いよう。私の全てで。

此処を、彼等を憎めないならもう考えなくて良い。


世界は私に恐怖を、彼等は優しさと罪悪感を、彼は死を。


ならば私は?

何を与えられるか。




「お腹、減った。」


私の1日は朝早く夜遅いから、しっかりと食べないと体力がもたない。


あの元気な料理長のスペシャル料理を食べなきゃやってられないんだ。


陛下や侍女長やシェリーさんにも謝らなくちゃ。



逃げ出した部屋に戻るために出した足は今までに無く軽い。



あの頃に戻ることが出来ないなら進むしか無い。


まだ一人で進む事は出来ないから、追いかけてやる。


「覚悟しろ、グエンダル・ハズウェル…グエンさん。」


貴方が悪いんだからね。

私に冷たい優しさをくれた貴方が。





++++++


眩しさに目を開ける。

カーテンの隙間から太陽の光が伸びていた。


夢を見ていた。

私に目を付けられた可哀想な彼。



「よし!今日も頑張りますか…って、ん?太陽…?」


キーナの朝は早くいつもなら太陽が昇る前に起きている。と、言うことは…。



「ね、寝坊したー!!!あわわわわヤバイヤバイシェリーさんにシメられるぅうぅ!!」


バタバタと準備をし、廊下を走っていく。


すれ違う人達が笑いながら挨拶をしてくる。



これからきっとシェリーに怒られ、侍女長に小言を言われて。陛下とのお茶の約束があるから美味しいお菓子とお茶を貰って、しかめっ面の彼は嫌々ながらも一緒に来てくれるんだろう。


それが私の日常。


私の1日が始まる。




あと少しですかね。どうしてもシリアスになってしまう…。


甘さがほしい!

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