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彼女と彼の日常4

キーナは背中に賑やかな雰囲気を受けながら、火照った顔を冷ます為に自分の誕生日会が行われている会場からバルコニーへと出た。


白いワンピースの裾が風に揺れ、レースはパールのようにキラキラ月の光を反射している。


流石に一国の王と王子がこの宴に参加する事は出来ないため、せめてと陛下と殿下が用意してくれたものだ。



発端は二日前。

キーナがこの城に来て今日で2年、誕生日を覚えていない代わりにこの日をキーナの誕生日として祝ってくれた。


気の合う少数の仲間で開かれたささやかなパーティー。


嬉しくないはずがない。

けれどキーナは心にポカリと穴が空いたような気持ちだった。

理由は分かっている。


グエンダルがこのパーティーには居なかった。


勿論グエンダルも(ついでにアレン)誘ったが遠征が入っていたのだ。


それさえもアレンからの伝えだった為最近グエンダルに会っていない。


仕方の無いことは分かっている。だが理性とは別の所で彼に今会いたいと自分が叫んでいる。


段々と気温は涼しくなり、夜は肌寒くも感じる。


去年の今頃は、仕事を覚えるのにただ必死だった。


2年前はどうだったか。


陛下の恩情も皆の優しさも気遣いも気にする事なんて出来ていなかった。ボロボロだった。



あの時はまだグエンダルの事を追いかける事になるとは思っていなかった。


むしろ苦手、否、煩わしく感じていたかもしれない。


あの冷たい雰囲気も、隙の無い背中も、そして何よりあの瞳。


こちらの考えを見透かす様な、それでいて彼は何を考えているか分からない美しい翡翠。


警戒したければすれば良い。無駄な事だ。そんな風に思っていた。

好んで近付こうとも話そうともしなかった。


それが変化したのはある夜の事。


部屋から抜け出し辿り着いた先にグエンダルが居たのである。


月が雲に隠れ、そんな暗い中やけに彼の存在だけが大きかった。


そこで吐いた言葉。今思い出せば感情的で恥ずかしい。


そして、グエンダルに言われた言葉。


悲しいと思った。悔しかった。

だがそれ以上に救われた気がした。


あの日から自分は彼を追いかけようと思ったんだ。


残酷な人

冷たい人


けれど彼が呼ぶ自分の名はいつも何かをもたらせてくれる。


低く、滑らかな声の。



「キーナ。」


そう、こんな風な。風、な?


「グ…ッ!!?」


人間本当に驚いた時は声が出ないらしい。グエンダルの名が出てこず、キーナは驚愕に目を開き口をパクパクさせた。


「落ち着け、阿呆。」

そう言ってまさに先程まで思い浮かべていた人物が近づいて来る。


「え、ど、い…っ!」

言葉になっていない。

どうして、いつ、来れないはずなのに。


「何故とは陛下に呼ばれたからだ。来たのは今しがた。遠征から帰り、そのままここへ来た。」


本来なら報告書があるのだがその前にギルヘルムに呼ばれた。来てみればパーティーが開かれているではないか。


「そ、うなんですか…。」


嵌めたギルヘルムもやけにニヤニヤしながら見送ったアレンへの苛立ちも、目の前で顔を赤くしながら間抜けな顔をしている娘を見れば気にならなくなる。


「あの、今、グエンさんの事、考えてたんです。」


嬉しい。

会いたかった。

そう顔に書いてある。


分かりやすいキーナの頭をグエンダルはほぼ無意識に撫でた。

それだけで目を細め鼻をすんすんさせるキーナに、グエンダルは微かに上がりそうになる口元を引き締めた。


「贈り物など無いぞ。」それを少し後悔している自分には気付かないようにする。


「いいです!会えただけで、凄く嬉しいです…。」


そう、はにかんだキーナへ胸に広がった思いは何だったか。



「ただ、あの…。代わり、に。」


「…?」


「えと、ぁ…。」


「はっきり言え。気色が悪い。」


「う゛。だ……せんか。」


はっきりとも言わずもしょもしょ言うキーナにグエンダルは背を向け帰ろうとする。


「だっ、抱きしめてくりぇましぇんか!!?」


ハッ!

と焦りグエンダルの服の裾を握り叫ぶ。


それが自分にとっての最高のプレゼントになるのだが…。


「………………。」


ち、沈黙が痛い。


「あ、の。やっぱりいいふぇぶ!!」

強かに鼻を打ち可笑しな声が出る。


体の震えが伝わってきて、グエンダルが笑っている事が分かった。

それに気付くほど二人の距離は近かった。


「色気の無い。」


抱きしめようとした訳ではない。気付けば腕の中に居たと言えるが、それに動揺も無い。


ただキーナらしい声と今まで以上に赤く染まった首や耳を見て気分が良い。



「…あ、の。お、おめで…とうって…言ってくれませ、ん、か?」

耳の辺りでドクドクと音がなりジンジンする。これは自分の鼓動だ。


一瞬の沈黙の内


「…おめでとう、キーナ。」


大きな風が吹いた。

だがもう肌寒くも無い。

逆に暑すぎるくらいだ。



「…すき、グエンさん。」



すきなの。

グエンダルの背中に腕を回し、ゆっくり顔を上げたキーナの目は潤み黒曜石の様にキラキラしている。



グエンダルの手がキーナの頬を包み、親指で優しく目の下の薄い皮を撫でる。


段々己の顔がキーナへと近付いている事に彼は気付かない。


キーナもまた無意識に自分の瞼を閉じようとしている。


その距離は最早愛し合う者同士。


そして…。




+++++


「おひゃようキーナひゃん。」


「うわ、お化け!」


挨拶をしてきたアレンの顔の右半分が紫色になりかなり腫れている。


「失礼らぞ!まったく…こんな男前の顔をこんなにひやがって。」


「自業自得ですよーっだ。」


あの夜、無意識に顔を近づけていたグエンダルは不穏な気配により正気になりキーナを己からひっぺ返してしまった。


後ろを向けばバルコニーの窓に張り付く出歯亀達。


これ以上無いほど腹立つ顔のアレン、顔を両手で隠しているが隙間からバッチリ見ているシェリー、少女の様に目をキラキラさせる侍女長。



正気に戻ったグエンダルは自分が今何をしようとしていたかと言うことを自分の中で全否定し、キーナを置いて取り敢えず腹立つアレンを狩りに行ってしまった。


キーナはキーナでその20分後程に正気に戻ったが「いやいや、グエンさんがまさかキ、キ…。するはずないだろ!妄想?私が作り出した妄想なの!?」などと言う結論に達した。


もし邪魔が入っていなければどうなっていたか。


きっと二人をずっと見ていた月にさえ真相は分からない。




余談だがその日まるで肉食獣と草食獣のように、追いかけるグエンダルと逃げるアレンが城内、さらには城下で目撃されていたとかいなかったとか。



甘め(^O^)

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