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彼女と決意と思惑

「戦争?」



黒い瞳を大きく見開き、キーナは物騒な単語を口にした。



「えぇ。隣国のカルト国と。何でも、カルト国に武器商人が集められている、って聞いたわ。」




外は雨。

薄暗い馬車の中、城下への用事を済ませたキーナとシェリーは顔を近付け合い、小声で話していた。





「で、でもそんな事陛下が許すはずありません。」


「元々カルト国は武器商売の国だから、その歴史を祝し、1年に一度お祭りがあるの。

それには世界中の武器商人が集まって、仕事を忘れて騒ぐのよ。だからカルト国に武器商人が集まるのはあり得る事だけど…、不自然なの。」



「不自然?」


「ええ。今回集まっている商人達の中にはカルト国反対派が含まれてる。」


「カルト国と仲が悪い商人って事ですか?」



「ええ。いくら反対派とは言え取り引きなら別の話よ。彼らはビジネスには忠実だから。」


「……だから戦争に向けての準備ではないか、と。」





ふるり、


俯いたキーナの肩が震えるのを見てシェリーは焦ったようにその肩を擦った。





「怯えさせる事言っちゃったけど大丈夫よ、陛下が見過ごす筈ないもの。


それにグエンダル様もいるしね。」


「…はい。」


「でも今話したことはあまり知られてないから内緒にしてね。」



「ちょ、そんな事私に話しちゃっていいんですか?」


「えー?まぁキーナだし。」



「漠然だな!」



「でも言わないでしょ?」


「それは、まぁ。でもこんな事聞いて私どうすれば…。」



「生きる事を考えなさい。」



キーナの手に自分の手を重ね、微笑む。



「陛下もグエンダル様も私も貴女を守るわ。」



「シェリーさんも?」



つられて微笑むがシェリーの目は冗談を言っているものではなかった。



「私の家は曾祖父から魔術院の元帥をしているの。私も魔術院の出だし、戦争になれば呼ばれるわね。」



魔術院

騎士団と並び多大な魔力を有したエリート達が通う学校。


その元帥ともなればその力は推し量ることは出来ない。



「シェリーさんが…。」

「侍女長だって昔は優秀な魔術師だったのよ。だから彼女もきっと。…昔って失言だったわ。」



「侍女長も!?」



「ええ。だからきっと大丈夫よ、キーナ。」



もし本当に戦争になったとしたら、自分は守ってもらう事しか出来ない。



シェリー程の魔力があれば何か役に立てたかもしれないが、自分の魔力は極端に少ない。



自分の身を守れるかさえ危ういのだ。



ならば逃げる?

彼女達が命を懸けている時に。あの国に再び奪われる?




その時キーナの脳裏に浮かんだのは、白銀の、彼。



血を浴びた、残酷で美しい優しいあの人。




……………させない。

そんな事は絶対に。



迷わない


恐れない


また大切なモノを奪われるなんて真っ平ご免だ。



絶望し、死を望んでいたあの頃の私では無いから。



この国に救われた命、


ならば彼等を守る為に使おうじゃないか。



「…うん、大丈夫だよシェリーさん。」


シェリーの手を握り返す。



守ってみせるよ、グエンさん。




猫の、鳴き声が聞こえたような、気がした。







++++++++++



「シェリー。」



城が寝静まる時刻。

するりと扉の間から滑り込んで来た人影を見て、シェリーはその人物に両腕を差し伸べた。



「アレン。」



そんなシェリーを優しく腕の中に迎え入れる男。



「様子は?」


「ええ、何か考えがあるようには見えたわ。」


「そうか。」



そこで、ふとシェリーの不安げな瞳が アレンを見つめた。



「でも、まるであの子を利用するようで…。…グエンダル様は一体何を考えているの?」



利用するようで。ではなく事実、利用するのだろう。…言わないが。



「さぁな。アイツ、俺にも何も言わない。陛下とグエンの間のモノらしい。」


「そう…。」




戦争があるかもしれないと言う話はこの国でも一握りの者達しか知らない。


だがあえてソレを彼の少女に言った。


目的は何であれ好ましいものではない様な気がする。



工作員、密偵としても優秀であるブロンドの女は、黒髪の少女の安息を願う事しか出来ない。


小さく、太陽の様なあの子が幸せでいれるよう。


きっと自分を抱き締めている彼も同じ考えだろう。




思いながら、降ってくる唇にシェリーは目を閉じた。




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