彼女と彼の日常2
ぐらぐらする…。
その日は朝から体調が悪かった。しかし侍女見習いに休んでいる暇などない。
次から次にくる仕事に休憩時間も削ったのがいけなかった。
失敗ばかりの自分が仕事をこなすためには時間がかかる。
けれど今更ながらにキーナは自分が迂闊だったと思った。
きっと具合が悪そうにしていたらシェリー辺りが気づき無理矢理休まされてしまう。
次は愛しのグエンダルが所属している隊舎の清掃だ。
会えないかもしれないが会えたら超絶ラッキーであるから行きたい。
パンッ、と両頬を叩き気合いを入れる。さらにクラクラしたが。
+++
いつ来ても隊舎は慣れない。
グエンダルの隊長室やアレンの副隊長室はこんな汗臭い…と言うより男臭くないのに…。
具合の悪さにコレはキツイ。
グエンさんも居ないし、頑張って早く終わらそう。
「お、キーナちゃんじゃん。」
「ホントだー。お疲れー。」
早く終わらそうと気合いを入れたのにガヤガヤと鍛錬が終わった若い隊員が帰ってきた。
グエンダルに冷たくされているキーナに隊員は優しい。
いつもは嬉しいが。
「ぅえっ、あ、汗臭い…っ!!」
若い故か人数が多いからか更に男臭い。
「なんだと、おチビ。」
「臭いってヒデーなぁ。」
「隊長に扱かれたんだから女の子には優しくされてぇわ。」
家柄などではなく実力がある者で構成されたこの騎士団は庶民もいる。
その為か柄が悪い者が多い。
「う゛…っ、ちょ、近付かないでください!」
皆には悪いが、気持ち悪いさが増し吐きそうだ。
「なんだとコラ!」
「…………っ!!」
一人の隊員が男臭い体で抱き着いてきた。
そのままギュウギュウと絞められる。
「うげー!はは!」
「わはははは!」
「うわ!最悪だぞアイツ!」
「おぃ、可哀想だぞ。」
「どうだ、おチビー!!参ったか!」
参ったも何も…っ!
「…ぅ、く。」
もう、だめ…。
「何をしている!」
意識がブラックアウトする直前、愛しい人の声が聞こえた気がした。
キーナ!
あぁ、でもあの人がこんな焦った声出す筈が無いか…。
そこでキーリは気を失った。
「…ん、」
サラサラと前髪をくすぐられる感触がする。
まだ微睡みが強く目蓋をあける事が出来ない。
震える目蓋を何かが触れるか触れないかで優しく撫で
そのままそれが頬へ、そして唇へと移動する。
唇を2,3回柔らかく押された所で目を薄っすら開けた。
「起きたか。」
「グエン、さん。」
顔に触れていたのはグエンダルの指らしい。
「隊舎で倒れた。覚えているか?」
触れた指はそのままでグエンダルが話す。
意識ははっきりしているので恥ずかしくて顔が熱くなる。
「あ、あの、はい。覚えています。あ!別に何かされた訳じゃないですよ?」
「あぁ。具合が悪かったのだろう?」
指が唇を擦る。
な、なんだろうこの甘ったるい雰囲気は!
「今度からは倒れる前に休め。…心臓が止まる思いをした。」
言いつつ、目は柔らかく蕩けている。いつもの鋭利さが無い。
「あっ、の、はい、すみませ…!」
うわぁあ駄目だ!!
堪らずキーナは顔を横に向けた。
「…キーナ。」
目蓋に影が差したと思ったら不意の力強さに顔を戻される。
グエンダルが両頬を手で包み上かに被さる様な体制になっていた。
「グ、エンさん?な、に?」
驚きすぎて小さな声で言う。
「……キーナ…。」
グエンダルはおでこに、目蓋に、目尻に、頬に己の唇を滑らせる。
「…!!あ、…やっ、グエンさ…っ!」
何が起きている!!?
ちゅ、とやけにリアルな音がして唇が離れた。
「あの、あの、グエンさん、どうしたんですか!?」
嬉しい。夢みたい。だけど恥ずかしすぎて目が潤み始める。
「少し、黙れ…。」
だが問いには答えず、また指で唇を撫でられ、トロリとした翡翠の瞳がそこに向く。
グエンダルの匂いが近いてきて、キーナの顔に白銀の髪がかかり
そして………。
「って所で目が覚めてしまいました!つまりは続きをぷりーず!!!」
「一生夢の中に居ろ。」