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彼女と彼と花畑

濡れ場&残酷表現がちょこっとあります


薄暗い一室。



濃密な空気が部屋を満たし、そこにある大きな寝台からは水音と女の矯声が聞こえていた。



「あ…っあぁ!…ん、ふぁっ!」



薄茶の豊かな巻き髪と豊満な胸が揺れる女のその赤い唇からは悦びが溢れていた。




そんな女をただ無表情で見下ろす紺色の髪の美しい男。

蝋燭だけの室内では闇夜の様な色にも見える。



その男は唐突に動きを止めた。


女は蕩けた目を訝しげに潜め、男を見た。



「ん、…ぁ。どうした、の?」


「いや。ふと、黒の森の件を思い出しただけだ。」


「もう。ムードが無いわ。………まぁ、必死になるわよね。国が探すモノだもの。


幸いルディースル国は黒の森の資源を狙っていると思っているけど。」



「間抜けだな。」



男の口端が歪みまたゆっくりと動き出す。




「は、…あんっ!…ふふ、確かにね。ただの魔物だと思っていたけど、少しは知能があるのか、…んっ、上手く、隠れてるみたい。あぁっ!」



男の動きが速くなる。



「だが、其を手に入れるのはこの国。」



「ふぁあっ!そ、うね。ルディースル国の間抜け面を見れるわ!………ひ、ぎゃああっ!!」


美しい体を艶かしく動かしていた女は突然の激痛に醜い悲鳴を上げた。






「…間抜けなのは、国の事情をペラペラ話す貴様だ。」


女の首にナイフを刺さした男は己を下の物体から抜き、物言わなくなった女を振り返る事なく部屋を後にした。



「…………魔物、か。」



表情を削ぎ落としたかのような男の瞳だけが、月明かりに照らされユラリと光っていた。





++++++++++


「らびゅっ、らびゅっ、グエンさ~んいつも不機嫌グエンさ~んだけどたまに~デレるのよ~っ。」



自作の歌を歌うキーナはご機嫌だった。


何故なら今日はグエンダルとの2回目のお出かけであったからだ。


しかもこの間の様に無理矢理こじつけた約束ではなくグエンダル自らが乗ってくれた。




まぁ真相は、馬に乗ってみたいと言ったキーナを無視していたグエンダルだが、彼の代わりにアレンが乗せようと言ったら



「お前は書類整理が残っていただろう。……騎士の仕事を優先しろ。この阿呆は俺が片付ける。」



などとキーナ曰くのデレを発動したのである。


(ここでキーナが満面の笑みで礼を言い、グエンダルは視線を逸らす)


またもやアレンがもう何なんだお前ら!的な雰囲気になったのだが。




「ご機嫌ねキーナ。」


「シェリーさん!!」


ご機嫌なキーナの前に現れたのは侍女先輩シェリーである。



「今日は!なんと!グエンさんと遠乗りなんです~っ!!」


「そうなの。(おおぉ!)…え、でも、その格好で行くの?」


「?はい。」



キーナの服装は乗馬様の灰色一色のシンプルな…否、地味すぎるドレスであった。



「貴女…嘗めてるの?馬鹿?ねぇ馬鹿なの?そんな格好でデートなんて片腹痛いわッ!!」


「ちょ、え、目が怖いです!」


「来なさい。私のお古だけど似合うドレスを貸してあげるわ。馬の操縦なんて男に任せておけばいいのよ。」


「え、や、私は操縦をした、あぁあああ引き摺らないで~っ。」





乗り場にやって来たグエンダルは姿を変装させていた。


城下でも有名であるため、変に注目を浴びない様、珍しい白銀の髪を蜂蜜色に染め


白いシャツに黒のコートを羽織った簡素な姿をしている。


だがその美貌までは隠す事は出来ていない。



そして。




「……それで馬に乗る気か?」



グエンダルの目の前には今、何とも可愛らしい少女が立っていた。


言わずもがな、シェリーによって着飾られ薄化粧を施されたキーナである。


光沢のある、袖や裾に薄黄色のレースがあしらわれ襟が詰められたクリーム色のドレスに、


黒い髪をみつあみにし結っている姿はいつもの間抜けさを感じさせないほど少女らしかった。


「う…っ、すみません似合いませんよね!こんなフリフリッ!すぐに着替えて着ますっ!…え?」


パッと踵を返したキーナの腕をグエンダルが掴んだ。


「お前の着替えに時間を無駄に出来るか。…今日は特別だ。」


「うわぁ!」


何とも色気の無い声と共にキーナの体が浮き青毛の馬に乗せられる。



次いで後ろにグエンダルが乗り、キーナを腕に囲うようにして手綱を持った。



ふぎゃぁああ!

と内心鼻血が出そうなキーナ。


嬉しい状況だがそこは一応乙女。自然とグエンダルに触れないよう前のめりになってしまう。



「…不安定な体勢を取るな。」


グエンダルの手がキーナの肩に添えられ軽く後ろに引かれる。

背中に感じる鍛えられた体。



「う、うぅうう~ッ!!!」




真っ赤だ。

絶対今の自分は茹で蛸に違いない。



ふ、と笑う気配がした。



「力を抜け、キーナ。」


グエンダルの声が耳を掠る。


「ひゃ、ん、耳…っ!」


「耳がどうした。」


「ふ、~~~っ、早く出発しましょう!!今、丁度町外れの丘でリリーの花が見頃なんです!さ、早く!!」




真っ赤になりながら叫ぶ。


耳が弱いなんて恥ずかしいよ!てか絶対分かってるよグエンさん!



今日のグエンダルは機嫌が良いらしい。





暖かな日差しの中、ゆっくりと馬は歩く。


やがて緩やかな坂の上にある丘に辿り着くと、そこには一面黄色の花が咲いていた。




「うわぁ~っ!綺麗!ねっ、グエンさん!!」


馬から降りたキーナは花畑の中でクルリと回りグエンダルを振り返る。


ドレスの裾が動きに合わせて膨らみ、黄色の小さな花びらが舞う。


自身も馬から降り、リードを繋げたグエンダルはリリーの花畑の中に居るキーナを見て目を眩しそうに細めた。



「…転ぶなよ。」


「ふふ、分かってますってぇああ!!」



「!」



後ろ向きに歩いていたキーナは見事にリリーの花畑に背中からダイブした。



「え、へへへ~。…すみません。」



グエンダルは寝転がるキーナに近づき彼女を見下ろした。



「………。」


「?グエンさん?」



黒い瞳

黒い髪

小さな鼻

ピンクの唇

象牙の肌



「―――。」


「わ、わ!」



ボソリとグエンダルが呟いた言葉を聞き取る事は出来なかった。


聞き返した瞬間腕を引かれ強制的に起き上がらせられる。


自分の体が引かれた力によってグエンダルにくっつく。



「グ、ググググエンさん!?」


握られたままの手に力が込められ、離される。



「…言ったそばから転ぶな、間抜け。」




…っ。

デレ!!?今日はデレ日なの?グエンさん!?


アレンが居たら砂を吐いていたかもしれない。



その後、可愛らしい花を見ながらキーナ特製のサンドイッチもとい、物体Xを顔を青くしながら食べ(ならば食べなきゃ良いじゃんなどと言う突っ込みは無粋である。)



シェリーとアレンへの土産にリリーの花を摘んだり花冠を作ったりなどして過ごした。


勿論グエンダルが花を摘むなどするわけが無いが。




気付けば夕方。

夕日が花畑を照らしていた。



「よっこいしょ~!随分摘んだなぁ…。グエンさん、そろそろ戻りましょうか。」


本当はもっとグエンダルと居たいが帰らねば城に着く頃には暗くなってしまう。


でも、その前に。



「はい、グエンさん。」



キーナはグエンダルの頭に花冠を載せた。

シェリーの物と一緒に作っていたのだ。



「いつもありがとうございます。グエンさん、大好きです!」

いつも辛辣な言葉を投げてくるグエンダル。


けれどキーナの存在を無視するなどと言う事はしない。



「私、グエンさんに救われたんです。」



あの胸を占める絶望の中


暗い暗い憎悪


溢れる疑問



同情の目で見る周りの人達


私は、可哀想?




そんな目で、私を見ないで!




『信じて欲しければそれ相応の態度を示してみろ。同情など期待するな。』



今と変わらない辛辣な言葉。


けど、どれだけ救われたのだろう。



「優しいグエンさんも、不機嫌なグエンさんも、剣を握ったグエンさんも全部大好き。」



ありがとう。


と、もう一度グエンダルの目を見ながら微笑む。


自分を煩わしいと思っている事は知っている。


けれど伝えたかった。



グエンダルの微かに息を飲む音が聞こえた気がした。



二人の間に沈黙が落ちる。



突然グエンダルがキーナに背を向ける。



「グエンさん?」


花畑から一本、可愛らしい花を摘み再び戻ってくるとそれをソッとキーナの耳の上に挿した。


「………私は。俺、の手は血に濡れている。………例え仲間であったとしても、敵になれば躊躇いなく剣を振るうだろう。…それでも。」


それでも?



グエンダルの手を握りそれを自分の頬に持って行く。



「…それでも。きっと、グエンさんに終わらせて貰えたら、幸せだと思います。」


その人生を。私の命を。



「………。」



頬に添えていたグエンダルの手がキーナの輪郭を確かめるように頬から顎に流れる。


「…戻るぞ。」


「はい。」




城に戻るまで二人は無言だった。


ただ、キーナはグエンダルにそっと寄りかかり、グエンダルはその腕でキーナを囲っていた。


どんなに血に濡れていても。


残酷で冷酷であっても。



その手で終わらせてくれるのならば、私はきっと幸せ。




++++++++++


「…カルト国が狙うは資源では無く、魔物である。と?」


「…カルト国があれだけ探してまだ見つからないと言うことは、既に黒の森から出ている可能性があります。…陛下が言った通り、奴等の間者は我が国にも居るようです。」



「ふむ、ただの間者では無く、その魔物を探って…か。…引き続き情報収集を、グエンダル。」



「…は。」





黒いマントを翻せ、王室を後にするグエンダルの髪は紺色に染まっていた。




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