表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/41

彼と昔と彼女

鍛錬場に横たわる死屍累々。



その原因は言わずもがな銀王ことグエンダルであった。



「何度鍛練が足りないと言った。一度死ななければそれが分からないか?」


「殺しちゃマズいだろうよ。今年入隊したての奴等だ。少しは多めに見てやれ。」



意図せず殺気を放つグエンダルを諌めるのは彼の戦友、アレンである。



赤銅色の髪が緩くウェーブし、髪と同色の気だるげな垂れ目と目元のホクロが何とも言えない色気を出している。


グエンダルと同じ位の長身で体つきもしっかりしており、女性に人気がありそうな容貌だ。



彼とグエンダルは12歳頃の寄宿学校から何となく行動を共にしている。


「新入隊員と言えども国に選ばれた騎士達。この程度ならば使い捨ての駒くらいにしかならないだろう。」



そう言って隊員を無機物を見るような目で見つめるグエンダルにアレンは嘆息した。



「全く。最近いい兆しが表れてきたと思ったが根本的なものは早々変わらないか。……昔からそうだがよく考えろよ。人間、一度壊れれば元には戻れない。」


「壊れれば良いだろう。早々に役立たずが排除出来る。」



変わらず無表情なグエンダルを見て、これ以上言っても無駄だと悟ったアレンは、隊員に休憩を告げ歩けないものを医務室へと連れて行った。




鍛錬場に残ったグエンダルの意識は先程のアレンの言葉から昔の思い出と遠ざかる。

今も昔も自分は変わらない。


化け物と呼ばれた、昔と。






初めて人を殺したのは、まだ臍の緒が母親と繋がっていた時だった。



グエンダルの巨大な魔力は生まれる前から顕著であった。

母体に居るときから外界に溢れる程の魔力。


初めの頃は国家騎士団の一員であった父親もそれに歓喜した。


母親も我が子に期待をかけ生まれてくる事を望んだ。




だが、彼の母親はグエンダルを生んだ引き換えに死んだのである。


母体が強すぎる魔力に耐えきる事が出来なかったのだ。



母殺し



そう、周囲は陰でグエンダルを呼んだ。



父親は妻が死んだことに対し何も言わない。


しかし歩くのが覚束無い頃より手減無くグエンダルに稽古をつける姿は、愛する我が子への感情が見える事は無かった。



12歳で寄宿学校に入る頃には表情とは無縁の少年になり、そして既にその剣術や武術は父親をも越えた。


将来、国家騎士団の入団を約束されたようなグエンダル。



そんな彼に喧嘩を売る学校の輩は多く、そして彼らを半殺しにする。


その繰り返しによりアレンが現れるまで彼の周りは常に空間が空いた。



19歳で国家騎士団になったグエンダルの傍にはアレンの他にもう一人の青年が居た。


屈託無く笑う、笑顔が似合う青年。




恐れられていたグエンダルに臆する事なく話しかけ、気づくとよく三人で行動をしていた。





その青年を、殺した。

それが自分が手にかけた二人目だった。


他国の間者であった。




昨日まで同じ釜の飯を食べていた。

共に稽古をした。

小さな戦にも出て、背中を預けた。


屈託無く、笑う、青年だった。


周囲は恐れた。

軽蔑をした。



助けを乞う青年を、無表情で迷うこと無く殺したグエンダルを。




しかしグエンダルにとっては当たり前の事だった。



“敵”

であるのだから。



もし今アレンが敵だと知っても自分は迷うこと無く彼を斬り捨てるだろう。








祖国の為。と言えば聞こえは良い。

だが自分は本当に忠誠を誓っているのか?


偶々この国に生まれたから他国の敵を排除しているだけ。



ただただ淡々と。

それ以外は知らないかの如く。


否。

自分は本当にそれ以外の生き方をしらないのだ。



邪魔なら消せば良い。



羨望も、

軽蔑も、

恐れも、

欲望も、




…ー“化け物”ー…





消えろ


ー…さん、


消えろ



ー…ンさん、



消えろ



ー…グエンさん大好きッ!!!




「…ッ!」


……………すぅ、…はぁ…。



随分と思考が飛んでいたらしい。


もう殆どの隊員が復活している。






「変わらない。今も、昔も。」




兆しなど無い、必要すら。

邪魔は、させない。


翳る翡翠。




「おーい、グエーン。」

医務室へ行ったアレンが戻ってきた。

その隣には。



「まいすいーとらびゅーグエンすわぁんッ!!」


………何か居る。



「……………。」


グエンダルは自分の瞳孔が開いたのを感じ取り、


アレンは殺気を感じ取り、



「あぁッ!不機嫌なグエンさんもス・テ・キ。」


その物体だけは空気が読めていなかった。




「貴様は、何しに、来た。」

一語一語切るグエンダル。



「や、落ち着けグエン!俺が連れてきたんだ!!」



グエンダルは身の内の感情を持て余した。



何故こんなにも苛々する。

苛々している事に更に腹が立つ。


あぁ、やはり煩わしい。




「私が、貴方に、会いたかったんです。」


交差する闇夜と翡翠




「貴方に、会いたかった。」



何故、そんなにも穏やかに。



「ふふ、呆れますよね。」


「……はぁ。……あぁ、呆れるな。」


フッ

とグエンダルの瞳なら翳りが無くなる。




「へへー、愛が溢れちゃうんです!」


「要らん。それしか言えぬかヘドロめ。」


「生物ですら無い!!この間はまだゴミ虫だったのにーっ!」


「や、それでいいのキーナちゃん…?」


「失礼であろう。ゴミ虫に。」


「うぉーい!容赦してあげて!!せめてミジンコとかで!」


「貴様ー!影薄なんちゃって副隊長め!!貴方には言われたくないですッ!!」


「誰が髪薄じゃー!!!!!」


「ハーゲ!将来ハーゲ!!」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人は再びグエンダルの殺気によって戻ってくるのである。




「おい。貴様、邪魔だ。出ていけ。」


「キーナです。」


「出ていけ。」


「キーナです。」


「………キーナ。」


「はい!!では失礼しました~。」


ニコニコしながら戻るキーナの後ろ姿に溜め息を吐く。



全く煩わしい。



だがそう思うグエンダルの顔が先程とは異なり、幾分穏やかになっているのに気付くのは、やはり気苦労性の副隊長だけ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ