表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/22

013.ぼっち、クラスメイトに囲まれる


 翌日。

 学校へ登校しながら考えるのは、はぐれゴブリンを倒したあとのことだ。


(結局、なんだったんだろう……)


 さすがに調べるべきだろうと、ダンジョンの奥へと進み、リリィは様子を伺った。


 あのダンジョンは、エントランスを抜けると小さな部屋がいくつか連なり、進んでいくと大きな部屋に出る。

 洞窟のような土壁をした、けれども畳敷きの和室のようなその大きな部屋で、ダンジョンは終了だ。


 分岐というのも特になく、小さな部屋に時々モンスターが発生している程度のダンジョン。それが、リリィの秘密基地たるダンジョンの全容である。


(いつの間にか開かなくなっていた和室正面の鍵付き(ふすま)……。

 相変わらず開かなかったけど、似たような襖が左右に生まれてて、しかも開いた……)


 ダンジョンの主たるボスモンスターのようなものもいない。簡素なダンジョン。モンスターの発生率も低く、発生サイクルも長いので、放置しててもしばらくは平気だと思っていたのだが。


(ダンジョンの構造変化は珍しいけどゼロじゃあない。でも、構造変化というには微妙だし、別に出現モンスターの変化や、発生率の増加も感じなかったもんなぁ……)


 だけど開けた先にあるのは廊下だけ。しかも一番奥にある襖は開かなかった。

 道中にも(ふすま)障子(しょうじ)はいくつかあったけれど、それらも結局開かない。


(ダンジョンは人の感情や精神、想い出の影響を受けて発生するコトもあるとは聞くけど……。あのダンジョンの発生源となってる人がいて、その人に何かがあったから変わった……とかかな?)


 考えたところで答えはでない。けれど気にはなってしまう。

 だとしたら誰かに相談するべきだろう。だけど相談すると知られてしまう。

 誰にも教えたくない。けれども、はぐれのことを考えると教えないといけないとは思う。


 そんなジレンマに悩んでいると、お腹がくぅと鳴った。


(そういえば……昨日、池から出た後にそのまま帰っちゃったから、ご飯食べてないんだよね……。

 カエルの換金もしそびれちゃったし……あ、カエル焼いて食べれば良かったかな……)


 今日の放課後に何をするかはまずギルドで換金してから考えよう。


 そうやって学校前の通りをヒヨコやハトを思わせる足取りで歩いていると――


「おはよ。最果(モトクワ)さん」

「え? あ。富鐘さん……」


 ――クラスメイトの富鐘(フドウ) 蓮花(ハスカ)に肩を叩かれた。


 昨日の朝、嫌なことを口にして逃げてしまった自分に対して、何一つ思うことなさそうな笑顔で挨拶してくる。


 どうしようかと一瞬迷うが、こういう時は挨拶を返すものだと、なんとか思い出す。


「えっと、おはよ……ございます」


 すると、蓮花は笑顔で「うん」とうなずく。

 その顔に、なんだかリリィの心は温かくなったような気がした。


 だからこそ、あまり仲良くなりたくないとも思う。

 人の心を温かくするような人が、傷ついて欲しくないから。


「昨日色々言われて考えたんだけど、私さ、諦めないコトにしたから」

「諦めない?」


 リリィがリスかハムスターを思わせる動きで首を傾げると、力強く蓮花はうなずき返す。


「最果さんと友達になるコト」


 木漏れ日が、まるでスポットライトのように、リリィにうなずき返した蓮花を照らしている。

 キラキラ、キラキラと。


「え!?」


 言葉への驚きと、とても輝いて見える蓮花への、どちらともとれる驚嘆をリリィが漏らす。それに対して、蓮花はしっかりと告げた。


小・中(しょう・ちゅう)と何があったか知らないし知りたくもない。私が知ってるのは高校生の最果さんだけ。私を助けってくれたカッコ良くて優しい最果さんだけだから」

「…………」


 カッコ良くて、優しい?

 それは一体誰の話なのだろうか。


「とりあえず、今はそれだけ。それじゃあ、また後で教室でね!」


 そうしてパタパタと手を振ると、あっという間に居なくなってしまった。


 戸惑っていると、彼女を照らしていた木漏れ日(スポットライト)が自分に向いているような気がする。


 キラキラ、キラキラと。

 日陰者(ひかげもの)の自分には似合わないはずの、綺麗な綺麗な、日向(ひなた)の光。


「…………」


 不思議と胸がドキドキしている自分がいる。

 グレートマンダーと戦った日から、なんだか妙に自分の周りに人が増えている気がする。


 だけど、思ったよりもそれが嫌ではない自分もいて……。


「……ともだち……つくって、いいのかな?」


 付き合った相手を不幸にするような人間に、友達を作る資格はあるのだろうか。


 友達は欲しい。でも自分みたいな矮小(わいしょう)な人間とすら仲良くなってくれるような人に不幸になって貰いたくない。


 自分は仲良くした人を不幸にしてしまうから。


 けれど、ならば――そんな不幸を()()けるくらい強い人なら仲良くなれるのでは? そうは思う。


 麗麻や衣乃ならあるいは?

 だとしたら、富鐘さんはどうだろう?


 でもどんなに相手が良い人だろうとお話をするのは怖い。結果として自分と仲良くしたせいで不幸にしてしまったなら、どんな人であれそれはいやだ。


 色んなことがいっぱいで、心と頭がぐちゃぐちゃになっている。

 だけど――それが思ったよりも不快ではない自分もいて……。


「とりあえず、学校……行かないと」


 友達を作るって、モンスターを倒すよりも、ダンジョンの最奥に待ち構えるボスモンスターを倒すよりも、難しいのかもしれない。


 そんなことを思っているうちに、リリィは学校へと到着する。

 下駄箱で靴を履き替えて、ぽてぽてと歩いて教室に向かうのだった。


     ・

     ・

     ・


 真中(マナカ) (アキラ)が教室に入ると、教室は自分以外の話題で持ちきりだった。


 何があったのかとクラスメイトに聞いてみれば、それなりに有名なダンジョン配信者がイレギュラーに襲われ、それを颯爽と助けた探索者が話題になっているという。


「有名配信者のピンチ助けたくらいで話題になるんだから無名の探索者なんてラクなもんだよな」


 自分が今の閲覧数を稼ぐのにどれだけがんばってきたのか知らずに、話題になりやがって――そんなことを思いながら、カバンを置くと、女友達の一人が駆け寄ってきた。


「ねぇアキラくん。今、話題になってる人……うちの学校の生徒みたいだよ」

「え?」


 思わず、胸中で「最悪だ!」と叫ぶ。

 この学校で一番話題になるのは自分のはずだ。その地位が脅かされるなど、心中穏やかではいられない。


 あの人に認めてもらうには、学校で一番くらいは軽々やっておかなければならないのだから。


「誰だ?」

「これが、その動画なんだけど……」


 そうして見せられた動画には、話題作りの為なのか、メイド服というツマラナイ発想の格好をした女が必死な様子で逃げている姿映っている。


 近くに誰かいたのか、メイド服の女は「逃げろ」と呼びかけている。

 必死アピールのツマラナイやらせのような場面へ現れたのは――


「なんだ、これ……!」


 先日、自分に食ってかかってきた一年のチビ女だ。

 自分の体格よりも大きい手入れされていないような無骨な剣を振るって、メイド女を襲っていたサンショウウオのような姿をしたモンスターを(ほふ)っている。


 だが、どう見たってやらせだ。

 あんな弱っチョロい姿の女子が、こんな剣を背負って、こんな大きなモンスターを倒せるワケがない。


(いや、内容の真偽の問題じゃあないッ!)


 この動画が出回っているせいで、完全にこのチビが学校における話題筆頭になってしまっていることだ。


「このちっちゃいの、俺への嫌がらせのつもりでバズったのかね。随分と必死じゃないか」

「あー……なに、そういうの?」

「どう考えてもやらせだろ、これ」


 そう言いながら、アキラは思考を巡らせる。


(やっぱダンジョンか。ピンチを颯爽と助ければバズってんなら、その手法パクらせて貰うのも悪くない)


 となれば――


「なぁ、放課後集まれるか?」

「みんなにLinker(リンカー)のメッセージ投げとくね」

「頼む」


 前々から考えていた、最近多発している極小ダンジョンとやらと、ピンチのマッチポンプレスキューを組み合わせれば、かなりバズれるのではないだろうか。


 放課後にみんなで集まった時、それを基盤にした企画を出してみよう――アキラはそう考えて小さく笑った。


     ・

     ・

     ・


 リリィが教室の扉を開けて中に入った時――


「……!?」


 ――一教室にいたクラスメイトたちから一斉に視線を向けられて、リリィはハデにビクついた。


最果(モトクワ)さん、来た!」

「待ってたぞー!」


 頭の周りに疑問符を浮かせながらも、その場から逃げだそうとする。


 ……しかし回り込まれた!


 そのままクラスメイトたちに手を取られて、教室に引きずり込まれる。


(ひーん……! なに? なに? なに~!?!?)


 リリィが涙目で戸惑っていると、クラスメイトの一人がスマホの動画を見せてきた。


「ねぇねぇ、これって最果さんだよね?」

「?」


 目の前に出されたスマホを見ると、どこかのダンジョンの動画が映っている。

 内容は、グレートマンダーから逃げているメイド姿の麗麻だ。


(あ、これって……)


 自分が麗麻を助けたところでは――とそう思った時、颯爽(さっそう)と自分が現れてグレートマンダーを倒した。


(は、恥ずかしすぎる……!)


 ただ、これでようやく状況を理解した。

 昨日ネットで自分が話題になっていると常連さんに聞いたのは、これなのだろう。


「これがWarbler(ワーブラー)で大バズりしててさぁ……あ、最果さんってWarblerやってる?」

「やって、ない、です……SNSはなにも……というか、わーぶらーっていうのも良く知らなくて……」

「えっと、百四十文字くらいの短文を投稿しあうSNS?

 うちらの少し上くらいの世代が一番やってるSNSなんだけど、まぁSNSの中だとやってる人が一番多いやつ? なんかそこでバズると、結構他のSNSにも転載されてバズりまくる感じ?」


 よく分からない説明だが、ともあれ人気のあるSNSで話題になってしまったということなのだろう。

 その為、昨日までの探索者の中でだけ話題……という状況から、一般にも出回って、クラスメイトたちが湧いているというところまで来てしまったということか。


「バズるってすごいコトじゃん!」

「最果さんってすごい人だったんだね!」

「なんで言ってくれなかったんだよー」

「ねぇねぇこの逃げてるロゼって人はやっぱリアルでも美人なん?」

「探索者してるなら言ってよ~」


 周りから一斉に色々言われて、頭がぐるぐるしてくる。

 どうして良いか分からずにアワアワしている時、一つだけしっかりと聞き取れた言葉があった。


「なぁなぁ、やっぱ探索者ってピンチの人を助けると話題になれるんだよな?

 どうやってたらピンチの人に出会えて、どうやったら助けられるんだ? オレもバズりてぇ~!」


 それを発したのは、クラスでは一番のお調子者だろう田中だ。

 その質問に他意はないのかもしれない。普段通りの軽い調子の、何も考えてない発言だったのかもしれない。


 だけど、リリィの耳にはハッキリと届き、同時にそれはリリィの思考スイッチを切り替えさせるのに十分な言葉でもあった。


「……田中くん。一緒にしないで、ほしい」

「え?」


 リリィの雰囲気が変わったことに正しく理解できたものは周囲にはいない。


 ただ、必要ならみんなを止めに入ろう――と、様子を見ていた蓮花だけは、小声でも(かす)れた声でもなく、どもることもなく、ハッキリとした声色と言葉で口を開きだしたリリィに、ギョッとして目を見開くのだった。


(最果さんのアレ……田中くん、敵認定されかかってない?)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の連載作品もよろしくッ!
《雅》なる魔獣討伐日誌 ~ 魔獣が跋扈する地球で、俺たち討伐業やってます~
花修理の少女、ユノ
【書籍化】異世界転生ダンジョンマスターとはぐれモノ探索者たちの憂鬱~この世界、脳筋な奴が多すぎる~
迷子の迷子の特撮ヒーロー~拝啓、ファンの皆様へ……~
【書籍化】鬼面の喧嘩王のキラふわ転生~第二の人生は貴族令嬢となりました。夜露死苦お願いいたします~
フロンティア・アクターズ~ヒロインの一人に転生しましたが主人公(HERO)とのルートを回避するべく、未知なる道を進みます!~
【連載版】引きこもり箱入令嬢の結婚【書籍化&コミカライズ】
【完結】リンガーベル!~転生したら何でも食べて混ぜ合わせちゃう魔獣でした~
【完結】レディ、レディガンナー!~荒野の令嬢は家出する! 出先で賞金を懸けられたので列車強盗たちと荒野を駆けるコトになりました~
【完結】その婚約破棄は認めません!~わたくしから奪ったモノ、そろそろ返して頂きますッ!~
【書籍化】魔剣技師バッカス~神剣を目指す転生者は、喰って呑んで造って過ごす【コミカライズ】
コミック・サウンド・スクアリー~擬音能力者アリカの怪音奇音なステージファイル~
スニーク・チキン・シーカーズ~唐揚げの為にダンジョン配信はじめました。寄り道メインで寝顔に絶景、ダン材ゴハン。攻略するかは鶏肉次第~
公爵家のメイドは今すぐ職場に帰りたい[引きこもり箱入令嬢の外箱]
紫炎のニーナはミリしらです!~モブな伯爵令嬢なんですから悪役を目指しながら攻略チャートやラスボスはおろか私まで灰にしようとしないでください(泣)by主人公~
愛が空から落ちてきて-Le Lec Des Cygnes-~空から未来のお嫁さんが落ちてきたので一緒に生活を始めます。ワケアリっぽいけどお互い様だし可愛いし一緒にいて幸せなので問題なし~
婚約破棄され隣国に売られた守護騎士は、テンション高めなAIと共に機動兵器で戦場を駆ける!~巨鎧令嬢サイシス・グラース リュヌー~
【完結】シグレ諦観剣~異世界不老少女交刃譚~
約束守りの図書館令嬢
【完結】巻き戻り悪役令嬢の奔走~ルツーラと引きこもらなかった箱入令嬢~[引きこもり箱入令嬢の外箱]
ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有のマイペースダンジョン配信~



短編作品もよろしくッ!
オータムじいじのよろず店
高収入を目指す女性専用の特別な求人。ま…
ファンタジーに癒やされたい!聖域33カ所を巡る異世界一泊二日の弾丸トラベル!~異世界女子旅、行って来ます!~
迷いの森のヘクセン・リッター
うどんの国で暮らす僕は、隣国の電脳娯楽都市へと亡命したい
【読切版】引きこもり箱入令嬢の結婚
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ