表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮の天狼  作者: 弥七
第六章 最後の審判
80/100

第八十話「結託のきっかけ」

 王都付近の荒野。明朝の明かりは、ぼんやりと辺りを照らす。

 緑豊かな中央平原からやや逸れたこの場所には、枯れた草木や荒々しい土の地面が続き、旅の人間はまず通らない。

 そんな場所に、朽ち果てた馬車と抉れた大地など激しい戦闘の爪痕が残されていた。

 そこに、1人の女性が倒れていた。


「やれやれ、またひどくやられたね」


 感情の読めないニコニコ笑いを顔に貼り付けた男が、歩み寄りその女性の傍にしゃがみ込む。

 ニコニコ笑いの男、カークスは女性にそっと回復魔術を施す。

 元々、女性に外傷は無い。少しばかり、体力を回復させれば意識を取り戻した。


「う……ここは」

 女性、アイリーンは目を覚ますと、一瞬で状況を把握した。

 傍で助け起こしてくれた、グリフォンクローの情報屋、カークスに飛びつく。


「彼は!? 彼はどこ!?」

「まあまあ、落ち着いて」

 その彼女を、カークスは肩を押さえ落ち着かせる。

「ごめんなさい、カークス。あなたが助けてくれたのね」

「いやいや。君を回復させたのは僕だけど、救ったのは違う。おそらく彼だろう。騎士団の連中を退ける代わりに、彼自身は連れて行かれたようだね」

 その言葉を聞き、今度はゆっくりと立ち上がる。

 その傍らには、持ち主を失った平べったい大剣が刺さっている。それは、グレベインの所有していた武器だ。

 その所有者は、既に騎士団の手によって埋葬されているが。


「彼を、助けないと」

 その言葉に、カークスはニコニコと頷く。


「彼は、私を見殺しにする選択肢もあったはず。逃げるなり、私ごと攻撃すれば勝算はあったかも知れない。でもそうしなかった。それは、彼がまだ正義のために戦っているからだって信じてる」 

 アイリーンは、彼のことを思い返しながら呟く。


「……どうして、そんなに信じられんだい?」

 そんなアイリーンに、カークスは普段よりもわずかに目を見開き、尋ねる。


「だって私、悪い人を見ると放っておけないの」

 アイリーンは、決意に満ちた表情で言った。


「うんうん、君はそういう人だったね。……君に情報を持ってきたよ」

「情報?」

 いつもの調子で話すカークスに、アイリーンは少しペースを乱されながらも、改まって問い直す。

「そうそう。まずは1つ目。連れ去れれた彼は北の聖地に向かったようだ」

「そうだとは思っていたわ。そこで行われるのは、彼の処刑ね」

 その言葉に、カークスは首肯で応える。

「そして2つ目。どうやら、魔術兵器とされているものも、北の聖地に向かっている。つまりそれは」

「処刑のための兵器だった……というわけ?」

「うんうん、理解が早くて助かるよ。それは即ち、ダルク君も北に向かうことになるだろう。これは心強いよね。そして最後の3つ目だ」

 カークスは指を三本立てて、話を続ける。


「我々の他にも、兵器の奪取に挑んでいる勢力がある」

「それは、まあ周辺の勢力の何処かで間違いないでしょうね」

 アイリーンは思い当たる候補を想像しながら頷く。


「うんうん、まあ情報を聞くに、ワイルクレセントの使いだろう。王都市街で戦闘があったようだ」

 カークスは、昨晩にあったヴァージルと、少年と女騎士の戦闘の情報が書かれた書類を見ながら言った。

「だけどね、僕の見立てでは、彼らとは利害が一致するんじゃないかな」

「兵器を奪うことは騎士団の企みを止めること、になるということね。そして、彼の処刑も防ぐことができると」

 アイリーンは、相変わらずの情報の速さに半ば呆れながらも言葉を継ぐ。

 まさか、カークスは霧にでもなって、そこかしこに出没しているんじゃないかしら、と頭の中で呟く。


「そうそう。これは僕の私案なんだけどね。彼の処刑は、やろうと思えばいつでもできたんじゃ無いかな。だって天罰術式が彼にダメージを与えることが出来ることは、これまでの戦闘を見れば明らかだ。それでは、彼を処刑できない理由が見つからない」

 これまでは、強すぎる彼の魔力のせいで拘束をするのがやっとであるため、監獄島の奥深くに封印されているものだと推測されていた。

 

「やっぱり? ……それなら、機を待つ必要があったと?」

 言葉の意味を慎重にかみしめながら、アイリーンは腕を組む。

「確かに、終戦二十周年というのは1つの節目だ。けれど、それと処刑を同時に行う必要性はない。それに、危険因子は早く処理してしまう方が賢明だからね」

「何かのために、処刑の機をうかがっていた……?」

「そう、それはもしかしたら、兵器の方、つまり処刑を行う道具の方が必要だったんじゃ無いかな」

 カークスはあくまでも推測という体で、情報をくれる。けれどアイリーンは、彼はもうすべてを理解しているのではないかと疑ってしまう。

 

「……なんとなく分かったわ。ただの騎士団と王都の政治的目的とかじゃない、もっと大きな事が起きようとしているのね」


「うんうん。僕の予想では、この大陸全土を巻き込む、巨大な力が生まれようとしていると思う。だからこそ、全ての勢力は力を1つにする必要があるんだ」

「ということは、そのワイルクレセントの使徒の、力を借りるべき、という事ね」

 アイリーンはニッと笑みを浮かべた。


 向かうは北の聖地。

 そして、その道中で色々と会うべき人が出来たと、彼女は考えた。



***



「彼女は、おそらく北の聖地に居ます」

 ベアトリクスは、リベンジに燃えるシャンクスにそう言った。

「北の、聖地……」

 シャンクスは、おとぎ話のようなその場所を、うわごとのように呟く。

「ええ。この大陸の最果ての地にして、騎士団の総本山。その場所に彼女は居るわ。ここからなら、馬を駆れば半日でたどり着けるはず」

「行くに、決まってるだろ」


 そんな会話の後二人は、夜が明ける直前、王都の貸し馬屋から一匹の馬を拝借し、駆けだした。

 まだ薄暗闇の中、ベアトリクスを前に二人を乗せた馬は大地を疾走する。


 魔術兵器を奪取するという任務の為に。

 そして、一人の少女を魔の手から救うために。


 二人は夜明けを目指すかの如く、疾走した。




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ