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紅蓮の天狼  作者: 弥七
第一章 出会いと始まり
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第四話 罪と魔法

「それで、どうして森へついてきた?」


 日は完全に落ち、部屋の中は月明かりと松明の明かりで満たされている。

 ここは宿屋の二階にある一室で、二つの向かい合ったベットにそれぞれシリウスと紅は座っている。

「だって……話したいことがあって……」

 シリウスの傷には、しっかりと包帯が巻かれている。

 中にはすりつぶした薬草が詰まっていて、これも魔力植物というものらしい。


「ふん……俺は犯罪者だって言っただろ。話すことなんてない」

 シリウスは村についてからはずっとこんな調子だ。

 それもそのはず、紅がついてこなければ彼はもう森を抜けていたはずだからである。


「そんなことないよ、少なくともシリウスは悪人には見えないよ。私をかばってくれたし」

「っ……」

 シリウスは気まずそうに言葉を詰まらせた。

 なんとなく間を持たせるためにシリウスは別なことを尋ねた。

「そういえば、まだ名前聞いてなかったな」


「あ、そうだね。私は雛沢紅。紅でいいよ」

「ヒナサワコー? どこの出身だ?」

 「どこって……」と、言いかけたところで思い出す。

 自分はどうやってここに来たのか。ここはどこなのか。


「……まあいい、それで、お前はこれからどうするんだよ」

「私は……」

 どこへ行けば帰れるのか、何も解らない。八方塞りだった。


「私の話は後にして、先にシリウスのことを話してよ」

 話題をそらされた気がした紅は話題を戻す。


「ちっ、何を話せばいいんだよ。何を話したって俺が犯した罪は消えないんだ」

「それでも良いから。聞かせてよ」

 シリウスは悪人ではない。これは紅の直感にすぎないが、それでも時折見せる悲しそうな一面、困っている紅を助けること等、本当は、その罪は彼にとっては正義……とまでは行かなくても、悪意ではないのではないか。


「分かった、お前が満足するなら、話してやるよ」

 シリウスは釈然としない感じで、不承不承話し始めた。


「昔、王都に暮らしている一つの家庭があった。そこには高位な職の父と、病弱だが優しい母の下に生まれた、幸せな少年が居ましたとさ。

 少年は何一つ、不自由なく育った。そして、それはこのまま続くものだと思っていた。

 しかし、不意にそれは綻び始めた。

 母が病気を悪化させた。元々病弱な彼女は、少年を産んでからは少しずつ弱り始めていた。それが少年の五歳の時、悪化し、やがて息を引き取った。

 だが、まあ、母の病気は誰もが知っていることで、いつかはこんな日が来ることも、心のどこかで悟っていた。だから少年と父親はそれからも前を向いて生きていくことを決めた」

 ここでシリウスは一息ついた。


 自分の出来事を物語のように話すシリウスに、紅はどこか、彼自身がこの昔話を自分のものと捉えたがらないような、そんな気配を感じた。


「母の死別からしばらくが経った。父は仕事が忙しく、少年も趣味の一つぐらいで武術を始めていた。別に武術なんて裕福な少年には必要ないものだったが、同じように裕福な家庭の奴らを見てると、弛んでいて自分もそうなるのが嫌だったからかもしれない。もしくは、何かにうち込みたかっただけかもしれない。

 ある日、転機が訪れた。父の再婚がいつの間にか決まったのだ。父は忙しいのであまり少年の面倒を見てやれないので、母親代わり、育ての親が必要だと考えたのだそうだ。でも少年は、本当の理由をすぐに知った。

 その女性はとても美しかったからだ。まるで聖母のような微笑、……まぁ言い切れないほどの美しさだった。もちろん性格も優しく、面倒見もよい人だった。

 そして、その人には既に子供が居た。少年の二つ下の女の子だった。彼女も母のように美しく、引っ込み思案だが、徐々に少年とも打ち解けていった。

 こうして再び、家庭には束の間の幸せが訪れたわけだ。

 だが幸せはそう長く続かない、また突然、悲劇は訪れた。

 今度は母の行方不明だった。

 そして、今度は父が、その突然の出来事に耐えられなかった。父は誰よりも彼女を溺愛していたのだろう。そのせいでショックから立ち直れず、様子がおかしくなり鬱になり始めた。

 少年は、妹が居たから、自分だけでもしっかりしないとと思っていた。その時少年は十五歳だった。

 父はそれからも悲しみにくれ、いろんな人に頼んで母を捜索したが見つからない。そのまま時間が解決してくれるのを待つしかないと思った時、父は末期になった。

 父は母の美しさに惚れ込んでいた。そして、その深い愛情を今度は娘に向け始めた。執拗に、嫌がらせのように娘を歪んだ愛情で愛し始めた父はある晩、娘を犯そうとした。

 幸運なことに、その場面を少年が目撃した。そして妹を守るために彼は父を攻撃した。

 背中から、装飾品だった剣で一刺しだった。

 装飾品の剣にも刃はついていた。

 そして……父を殺した。

 殺してしまった。

 それが、罪。

 少年の罪。


 その後、少年は牢屋にぶち込まれ、王都に妹を一人、残してきてしまった。結局、少年は守ることも出来ず、一人ぼっちにしてしまったとさ。だから今も、少年は妹の元へ行くため、王都を目指すことにした」

 全部話し終えたシリウスは一息ついて紅のほうを見た。


「っておい、なに泣いてんだ?」

「だって……悪いのは少年じゃなくて父親でしょ?」

 涙目になった紅を見てシリウスはたじろぐ。


「それでも、他の方法があったはずだ、それに泣くほどのことじゃない」

「泣いてないもん……」

 袖で目をゴシゴシこすりながら言ってもいまいちだが、シリウスはお構い無しに聞いた。

「さぁ、次はお前の番だ」


「うん……私ね、たぶんこの世界の人じゃないと思うの」


「……あー、悪い。聞かなかったことにするわ」

 その直後、紅はそのシリウスの態度にプンプン怒りながら今までのあらすじを説明した。

 初めは疑っていたシリウスだが、話を聞いている間に納得してくれたのか、真剣に考えてくれた。


「つまり、それは一種の召喚魔術だな」

「召喚魔術……」

 召喚なんていうと、ゲームや漫画でモンスターを呼び出したりすることを連想する紅だった。

「ところで魔術ってナニ?」

「……ほんとに違う世界の人なんだな。ただの馬鹿にも見えるけどな」

 シリウスに馬鹿にされても、ここは言い返せない紅はぐっとこらえる。

「まあいいか、俺も専門外だから期待するなよ?」

「うん」

 シリウスは魔術について説明し始めた。

 


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