表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮の天狼  作者: 弥七
第二章 悪魔の幽山
19/100

第十九話 占い少女、新たな街

「私、これから王都にある師匠のところに行こうと思ってるんです。よろしければ、途中まで一緒に行動しませんか?」

 マナは申し訳なさそうに尋ねるが、紅が手を合わせて喜びながら答えた。

「私たちも王都に行くんだよ! ね、シリウス、一緒にいてもいいよね?」

「ああ、まぁ……」

 シリウスは何か考え事をしているようだ。

「あのさ、もしかして、その師匠ってのは……」

「はい、グラン・マチレアです」

「んのクソババァ……弟子なんて取らないとか抜かしてたくせに……ああ、マナは悪くないよ」

 シリウスは思わず悪態をついてしまい、マナに急いで謝罪した。

「いえ、私はマチレアの孫に当たりますから」

「マジかよ!?」

 シリウスは椅子から飛び上がるほど驚いた。

「ねぇねぇ、誰なの? その人」

「ん、王都の腕利き占い師さ、俺も縁があるんだが……まぁ、厄介なことこの上ない」

「ふうん」

 紅は、占い師と聞くと、水晶やタロットカードを思い浮かべるが、まさかそれにも魔法的な効果があるのかと思うと、ちょっと楽しくなった。

「そうだ! マナちゃんは占い出来るの?」

「はい、一応……」

 そういいながら、荷物の中からバスケットボール大の水晶玉を取り出す。

「あ、名前聞いてませんでした」

「私は紅、それで、こっちがシリウス」

 紅が言うと、マナは「姓も教えてくれますか?」と問うた。

「俺はいい、お前がやれよ」

 シリウスが興味なさげに言うので、紅は渋々、「雛沢紅……」と教えた。

「ヒナサワさんですか。ムムム、これは……?」

 マナは水晶とにらみ合っている。なにやら水晶の中が靄みたいなものでモヤモヤしているが、マナは何かを読み取っているようだ。

「過去が見えませんが、まあいいでしょう。あなたには……これから……何か……大変な……出来事が……」

「偉く抽象的だな……」

 シリウスがげんなりしながら言った。

「はわわっ、すいません。普段はもっとよく見えるんですけど……」

「ババァなら、名前を言う前に不吉な予言を言うけどな」

「おばあちゃんは熟練だから……私なんてまだまだ見たいですね」

 えへへ、と笑うマナに、紅は「大丈夫、気をつけるから」と励ました。

「初めて会ったのに、なんだかすいません」

 マナが感謝をこめて言うと、

「当たり前じゃない。困ってる時はお互い様、助け合わないと」

 紅は当然のように返した。

 

 

 突然、ボックスと通路を遮るカーテンが取り払われた。

「見ぃーつけた、お嬢ちゃん」

 ぬぅっと顔を突き出してきたのは、厳つい格好の、おそらくトレジャーハンターと見える大男、その後ろに、バーテンダーのような長身の男、用心棒のような鎧の男が立っている。

「何だ? 用か?」

 シリウスが立ち上がり、男達の前に仁王立ちになった。

「あん? テメェ誰だよ、俺はそのお嬢ちゃんに用があんだよ」

 酒臭い息をシリウスに吹きかけ、手に持っていた金属製のとげのある棍棒をちらつかせる。

「この人たちです……」

 マナが小さく紅に囁いた。


「……うわ、すごい三下の台詞ね」

 紅もシリウスに倣い、マナをかばうように立ち上がる。すると今度は男達の反応が変わった。

「いいねぇ、こっちの嬢ちゃんもなかなか……しかもこっちは俺らの好きに出来んじゃねえか?」

 にやけながら紅を指差すと、後ろの二人もゲラゲラ笑い始めた。

「いい加減……」

「あん?」

「酒くせぇんだよ!!」

 シリウスの突然の頭突きが、大男の鼻面に直撃する。思わず仰け反り、後ろの二人に支えられる。

「こんの野郎!」

 棍棒を力いっぱい振り回すが、バスの通路は狭く、壁やらに当たって上手く振れない。シリウスが攻撃を避けてしゃがみ、足払いをすると、大男は無様に転んでしまった。

「おいおい、足腰がなってないな。三人で女の子追い掛け回して、恥かしく無いのか?」

「黙れ、クソガキ!」

 後ろに立っていたバーテンダーの格好の男が、ポケットからナイフを取り出し、素早くシリウスに振りかざす。だが、その刃がシリウスの肌を切り裂く前に、腕をはたかれ、ナイフが床に落ちる。

 すかさず、シリウスが天井についている荷台を掴み、バーテンと、トレジャーハンターの男の顔面に蹴りを入れる。狭い車内で吹き飛ばされたため、壁に激突する。

「さあ、もう終わりか……」

「やめなさい! 全員下ろしますよ!」

 男同士のぶつかり合いに、どうやらバスの乗組員らしき、細身の男が制止に割り込んできた。シリウスが憮然とした表情で紅と目配せしたが、紅はむしろ止めてくれてありがたかった。

「チッ、退くぞ」

 男のうち、一人が言うと、三人組は去っていった。


「くだらねぇ。中途半端だ」

「こら、シリウス。弱いものいじめは良くないよ」

 紅はしかりつけるように言ったが、「それもどうかと思います……」というマナの一言が聞こえた気がした。

「あなた達も気をつけてくださいね? この辺り、なにやら怪しい組織が渦巻いているようですから」

「大丈夫だ、気にするな」

 乗組員の親切な忠告にも、素っ気無く答え、席に戻った。

 バスはそれからも、素知らぬ顔で荒野を駆け抜けた。

 

 

「ふ~、やっと着いたの?」

 バスが、それから半時ほど走り、やっと終点の山の麓までやってきた。バスの機動力の問題で、山を駆け上ることが出来ないので、ここからは徒歩での移動になる。

「よし、今からこのジリル山の中腹辺りにある鉱山都市・グレイバレーに行くぞ」

 シリウスとマナもバスを下り、山道の方を見上げる。人が通りなれた道は、舗装こそされてないものの、人が通るには申し分ない道だ。


「あの、よろしければ案内しましょうか?」

 バスの乗組員の細身の青年が、顔色を伺いながら申し出た。

「いいんですか?」

「はい、僕もちょうどグレイバレーに向かう所です。人が通りなれた道と言えど、野生生物も多いですし。……ああ、僕はアーバスっていいます、そちらは?」

 軽く自己紹介を済ませ、歩き始めた。

 野生生物といえば、いつかの森で魔力を持つ熊に遭遇し、大波乱があったことを思い出すが、シリウスいわく、あれは稀、との事。

 アーバスの後に続き、シリウスと、その後ろに紅とマナが山道を登る。


「わひゃぁい!?」

 奇妙な悲鳴とともに、マナが道に突き出た木の根に足を引っ掛け、転んでしまった。そのはずみに、バックから水晶玉が転がり出た。

「あっ、大丈夫?」

 紅が手を貸して起こしてあげると、急いで水晶玉の様子を確かめ始めた。

「よかった、割れてませんでした」

 心底安心したような表情で、水晶玉を抱きしめる。その様子を苦笑しながらシリウスとアーバスが眺めた。

「大事なもののようですね?」

 アーバスが尋ねると、まるで聞いて欲しかったかのようにマナが頷く。

「はい、祖母からもらった大事なものです。修行の最後にこれをもらったときはうれしかったなぁ……」

 まるで遠い日の思い出にふけるようなマナに、アーバスは「そうですか」と一言。


「ねぇ、それよりもまだ街に着かないの? 疲れちゃった」

 紅は、足が確実に重くなるのを感じながら前を行く男二人に尋ねた。

「もうすぐですよ……ほら、見えてきました」

 アーバスが指差すその先には、山肌を強引に切り崩したかのように平たい面が続き、その中に多くの家やら建物がひしめき合っていた。所々に坑道のような穴も見える。

「ここが鉱山都市・グレイバレーだ」

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ