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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第6話 魔王城の四天柱、あるいは変人たちの集い

 食後の優雅なティータイムを終えた後、魔王リーズヴェルトは「少し執務を片付けてくる」と言って玉座の間へと戻っていった。

 魔王といえど、組織のトップだ。書類仕事からは逃げられないらしい。


 一人残された勇者アニアスは、暇を持て余していた。

 あの最高のベッドで二度寝を決め込むのも魅力的だったが、満腹状態で寝ると牛になると村のバアちゃんが言っていたのを思い出し、腹ごなしに少し城内を散策することにした。


「……広いな」


 アニアスは、見上げるほど高い天井の廊下を歩きながら呟いた。

 床は大理石で磨き上げられ、壁には歴代魔王の肖像画や、禍々しいがどこか芸術的な武具が飾られている。

 すれ違うメイド服を着た魔族や、鎧姿の兵士たちは、アニアスの横を素通りしていく。

 誰一人として、彼が「勇者」であることどころか、そこに「人間」がいることにすら気づいていない。


「……うん。通常運転だな」


 アニアスは安堵の息を吐いた。

 彼の固有スキル『影薄(かげうす)』は、魔王城でも絶好調のようだ。

 これなら、快適な引きこもりライフも夢ではない。そう確信して、アニアスが角を曲がろうとした、その時だった。


「――それでェ? 魔王様のご様子はどうなのよォ?」


 鼓膜を直接震わせるような、野太い、しかし妙に(なまめ)かしい声が聞こえてきた。

 アニアスは反射的に壁の陰に身を隠した。

 心臓がドクンと跳ねる。本能が告げている。「関わってはいけない」と。


「ご機嫌麗しゅうございますわよ。なんでも、今朝は『マブダチ』と朝食を召し上がったとか」


「マブダチィ? 何それ、新しい必殺技?」


「違うのだガンドルフォ! 『マブダチ』とは、魂の友のことなのだ! 魔王様がそう仰っていたのだ!」


「うるさい……。声がデカい……。眠い……」


 廊下の向こうから歩いてくるのは、明らかに「カタギ」ではないオーラを放つ四人組だった。


 先頭を歩くのは、全身をショッキングピンクのフルプレートメイルで包んだ、身長二メートルを超える大男。いや、口調からしてオネエか。背中には身の丈ほどもある巨大なハルバードを背負っている。


 その隣には、自分の体ほどもある巨大な戦斧を引きずっている、ゴスロリ衣装の幼女。頭には可愛らしいリボンがついているが、その目は猛禽類のように鋭い。


 さらに、宙に浮くクッションに乗って熟睡している、クマのぬいぐるみを抱いた少年(?)。


 最後尾には、杖をつきながらヨボヨボと歩く、全身が包帯だらけの老人。


(……なんだあれ。お化け屋敷のパレードか?)


 アニアスは息を殺して覗き込む。

 彼らこそ、魔王軍最強の幹部にして、魔界全土にその名を轟かせる『四天柱(してんちゅう)』たちであった。


「あらァ、でもおかしいじゃない? 昨日は確か、『勇者』が攻めてくるって話だったでしょォ?」


 ピンクの鎧――魔将軍ガンドルフォが、小首をかしげる。その仕草だけで、鎧がガチャリと重い音を立てる。


「勇者はどうなったんじゃ? 魔王様が消し炭になされたのかの?」


 包帯の老人――魔導老子ゼムが、しわがれ声で問う。


「知らなーい。でもぉ、魔王様が元気ならそれでいいのだ! ピコは、勇者が来たら真っ二つにしてやるつもりだったのに、残念なのだ!」


 幼女――怪力無双のピコが、ブンッと戦斧を振り回す。その風圧だけで、廊下の窓ガラスがビリビリと震えた。


(ヒッ……)


 アニアスは青ざめた。

 あんなもので殴られたら、影が薄いどころか存在そのものが消滅してしまう。


「……勇者……」


 クッションで寝ていた少年――死霊王ネクロが、むくりと起き上がった。虚ろな目が、ふらふらと宙を彷徨う。


「……勇者の気配が、しない……。死体も、ない……。どこ……?」


「やだァ、ネクロちゃん。まさか逃げちゃったのかしらァ? それとも、魔王様が秘密の地下牢で飼ってらっしゃるとか……ンフフ、背徳的ねェ♡」


 ガンドルフォが顔を赤らめて身悶えする。


(ち、違う! 飼われてない! いや、ある意味飼われてるけど、そういうのじゃない!)


 アニアスは心の中で全力で否定した。

 このままでは、変な誤解が広まってしまう。しかし、今ここで飛び出して「俺が勇者です!」と名乗り出る勇気など、アニアスには微塵もなかった。


 四天柱たちは、アニアスが隠れている角のすぐ近くまで迫っていた。


「……ん?」


 突然、ガンドルフォが足を止めた。

 鋭い眼光が、アニアスの隠れている柱の方角へ向けられる。


「どうしたのじゃ、ガンドルフォ」


「……今、あそこから『視線』を感じた気がしたのだけれどォ……」


 アニアスの心臓が止まりそうになる。

 バレたか? まさか、この完璧な隠密スキルが?


 ガンドルフォは柱に近づき、その巨大な顔を近づけてクンクンと匂いを嗅いだ。


「あらァ……? 何もいないわねェ。気のせいかしらァ?」


「最近、お肌の曲がり角で神経質になってるんじゃないのかー? キャハハ!」


「お黙りピコちゃん! アタシの肌はいつでもプルプルよォ!」


 ガンドルフォはピコの頭を軽く(といっても岩を砕く威力で)小突き、再び歩き出した。

 四人の異様な集団は、そのまま廊下の向こうへと消えていった。


「……はぁ、はぁ、はぁ……」


 アニアスはその場にへたり込んだ。

 生きた心地がしなかった。魔王リーズヴェルトは話が通じる相手だったが、あいつらは間違いなく話が通じないタイプだ。特にあのピンクの鎧は、生理的に無理だ。


「……部屋に戻ろう。絶対に戻ろう」


 アニアスは固く決意した。

 やはり、引きこもりこそが正義だ。外の世界は危険がいっぱいだ。

 彼は抜き足差し足で、誰よりも素早く、そして誰にも気づかれないまま、安全地帯であるVIPルームへと逃げ帰った。


 だが、彼はまだ気づいていなかった。

 先ほどのガンドルフォが、去り際にわずかに口元を吊り上げていたことに。

 そして、魔王城での生活において、彼ら『四天柱』との接触は避けられない運命にあることを。


 勇者アニアスの平穏な引きこもりライフに、ピンク色の暗雲が立ち込め始めていた。

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