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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第51話 魔導ゲーム機の開発、あるいはピコの暴走

 魔王城での雑用係としての日々に、異世界勇者ショウは確かな手応えを感じ始めていた。

 ガンドルフォとの服飾開発に続き、彼は次なるプロジェクトに着手していた。


「できた……。ついに完成したぞ」


 地下の工房、かつて物置だった場所で、ショウは歓喜の声を上げた。

 彼の目の前にあるのは、木箱に魔石を埋め込み、複雑な回路を描いた奇妙な装置だ。

 その箱からは二本のコードが伸び、先端にはボタンのついた小さな板が繋がっている。


 そう、家庭用ゲーム機だ。

 ただし、電気ではなく魔力で駆動する、この世界専用の魔導ゲーム機である。


「名付けて『魔導遊戯箱(マジック・コンソール)』! これさえあれば、娯楽の少ないこの世界に革命を起こせる!」


 ショウは拳を握りしめた。

 前回のトランプでの敗北は痛かった。魔族たちは刺激を求めている。ならば、視覚と聴覚、そして操作感を刺激するアクションゲームこそが正解なはずだ。

 彼が固有スキル『想像創造イマジネーション・クリエイト』を駆使して再現したのは、かつて熱中したレトロな格闘ゲームだった。

 魔物との戦闘経験がないためレベルは1のままだが、日々の雑用やガンドルフォとの服飾開発でスキルを酷使し続けた結果、その熟練度だけは飛躍的に向上していたのだ。


「最初のテストプレイヤーは……よし、あの子にしよう」


 ショウは自信満々にゲーム機を抱え、部屋を飛び出した。


 ◇


 中庭では、破壊神ピコが巨大な岩を放り投げて遊んでいた。

 ドガァン! という轟音と共に岩が砕け散る。

 相変わらずの破壊力だ。


「ピコちゃん! ちょっといいかな?」


「ん? 新入りなのだ。また掃除当番を代わってほしいのだ?」


 ピコが土埃を払いながら振り返る。

 彼女の中でのショウの序列は、今のところ「便利な下っ端」止まりだ。


「違うよ。今日は面白いものを持ってきたんだ」


 ショウはテラスのテーブルにゲーム機を設置した。

 そして、モニター代わりの水晶板に接続し、魔力を流し込む。

 ブォン、という音と共に、水晶板の中にドット絵のキャラクターが浮かび上がった。


「な、なになのだこれは!? 絵が動いてるのだ!」


 ピコが目を丸くして食いつく。


「これはゲームって言ってね、この手元の板……コントローラーを操作して、画面の中の人形を戦わせる遊びなんだ」


「戦い!? やるのだ! ピコ、それやりたいのだ!」


 狙い通りだ。

 戦闘狂のピコなら、格闘ゲームに興味を持つと踏んでいたのだ。


「よし、じゃあ対戦しよう。操作は簡単だ。この十字のボタンで移動、丸いボタンでパンチとキックだ」


 ショウはピコにコントローラーを渡し、自分も対戦席に着いた。

 画面には「READY? FIGHT!」の文字が表示される。


「行くのだー! ピコパンチなのだー!」


 ピコが猛然とボタンを連打する。

 画面の中のキャラクターが、目にも止まらぬ速さで拳を繰り出す。

 だが、ショウは余裕の笑みを浮かべていた。


「甘いな! 俺は学生時代、ゲーセンに通いつめた男だ!」


 ショウは巧みな指捌きでピコの攻撃をガードし、隙を見て必殺技コマンドを入力する。

 波動の拳がピコのキャラクターを直撃した。


「あべし!」


 画面の中のキャラが吹き飛び、体力がゼロになる。

 『K.O.』の文字が点滅した。


「……負けたのだ?」


 ピコが呆然としている。

 彼女にとって、敗北という経験は新鮮であり、同時に屈辱的なものだった。


「へへっ、まだまだだなピコちゃん。もっと練習しないと俺には勝てないよ」


 ショウは少し大人げなく勝ち誇った。

 日頃、こき使われている鬱憤を晴らすチャンスだと思ったのだ。

 だが、それが間違いだった。


「……もう一回なのだ」


 ピコの声が低くなった。

 彼女の体から、赤い闘気が立ち上り始める。


「お、おう。いいよ。何度でも挑戦を受けて立つぜ」


 二戦目。

 ピコは学習能力が高かった。先ほどの動きを真似て、ガードや回避を使い始める。

 だが、ショウには「ハメ技」という卑怯な知識があった。

 画面端に追い込み、起き上がりに合わせて足払いを重ねる。


「わわっ! 動けないのだ! 卑怯なのだ!」


「これも戦術のうちさ! 勝てば官軍!」


 ショウは容赦なくコンボを叩き込み、再びピコをK.O.した。


「……うぅ」


 ピコの手が震えている。

 握りしめられたコントローラーが、ミシミシと悲鳴を上げている。


「ピコちゃん? 大丈夫? コントローラー壊れそうなんだけど」


「……許さないのだ」


 ピコが顔を上げた。

 その瞳は、完全に据わっていた。


「画面の中で勝てないなら……リアルのお前を倒せば、ピコの勝ちなのだ!!」


「えっ」


 理屈が飛躍した。

 ピコはコントローラーを放り投げ、本物の戦斧を掴んだ。


「待って! それはルール違反! ゲーム外乱闘は禁止だよ!」


「問答無用なのだ! 死んで償うのだー!!」


 ドゴォォォン!!

 ピコが戦斧を振り下ろす。

 ショウは紙一重で回避したが、テーブルとゲーム機が粉々に粉砕された。


「ああっ! 俺の自信作が!」


 ショウが悲鳴を上げる間もなく、第二撃が迫る。

 本気の殺意だ。

 ただのゲームで、ここまで本気になれる魔族の情熱が恐ろしい。


「逃げるなー! 正々堂々と殴り合うのだー!」


「無理無理! 死んじゃう!」


 ショウは中庭を逃げ回る。

 その騒ぎを聞きつけて、テラスにアニアスが姿を現した。


「……うるさいな。何事だ?」


 アニアスは昼寝中だったのか、少し寝癖がついている。


「あ、アニアス先輩! 助けてください! ピコちゃんが暴走して!」


「お兄ちゃん! こいつが卑怯な手を使ったのだ! 成敗するのだ!」


 アニアスは粉々になったゲーム機の残骸と、涙目のショウを見て、状況を察したようだった。


「……はぁ。またお前か、ショウ」


 アニアスは呆れたように溜息をつき、ひらりと手すりを乗り越えて中庭に降り立った。


「ピコ、武器を収めろ。庭が穴だらけになる」


「でも! 悔しいのだ! 負けたままじゃ終われないのだ!」


「なら、ショウが創ったやつで勝てばいいだろ。暴力で解決しようとするのは、負け犬のすることだぞ」


 アニアスの言葉に、ピコがピクリと反応する。

 負け犬。その言葉は、誇り高き破壊神にとって最大の屈辱だ。


「……うぅ。でも、機械が壊れちゃったのだ」


「直せばいい。ショウ、予備はあるか?」


「あ、はい。部品ならまだありますけど……」


「なら急いで直せ。今度は俺が相手をしてやる」


「えっ、先輩が?」


 アニアスの提案に、ピコもショウも驚いた。

 アニアスは機械に疎そうに見えるし、そもそもゲームなど興味がなさそうだ。


「ただし、俺が勝ったらピコは一週間、おやつ抜きだ。ショウは庭の修復作業な」


「ええっ!?」

「嫌なのだー!」


「嫌なら勝ってみろ。……さあ、修理だ」


 アニアスの有無を言わせぬ圧力に、ショウは泣きながらゲーム機を修理した。

 数十分後、再試合の準備が整った。


「まずは俺とショウでやる。見ておけピコ」


 アニアスがコントローラーを握る。

 その構えは、剣を持つ時と同じように自然体で、隙がない。


「手加減しませんよ先輩! 俺のハメ技で……」


 ショウが意気込んでボタンを押そうとした瞬間。

 画面の中のアニアスのキャラが、残像を残して消えた。


「え?」


 次の瞬間、ショウのキャラが空中に打ち上げられ、地面に落ちる間もなく連続攻撃を浴びていた。

 パンチ、キック、必殺技。

 流れるようなコンボ。

 ショウは何もできないまま、自身のキャラがK.O.されるのを見つめるしかなかった。


「……な、何が起きたんですか?」


「『反応速度(レフレックス)』の問題だ」


 アニアスは涼しい顔で言った。


「お前がボタンを押そうと指を動かした瞬間、俺は既に入力を終えている。画面の情報を見てから反応するんじゃ遅いんだよ。『気配』で読め」


「ゲームのキャラに気配なんてないですよ!」


「あるさ。魔力の流れ、処理のタイミング、そしてお前の殺気。すべてが情報だ」


 アニアスにとっては、ゲームも実戦も変わらないらしい。

 超人的な動体視力と反射神経があれば、どんなクソゲーも神ゲーに変えられるのだ。


「……すごいのだ。お兄ちゃん、最強なのだ」


 ピコが目を輝かせて見つめている。

 彼女の怒りはいつの間にか消え、純粋な尊敬へと変わっていた。


「分かったかピコ。強さっていうのは、力任せに振るうものじゃない。技術と、冷静な心だ」


 アニアスはコントローラーをピコに渡した。


「さあ、やってみろ。ショウ、相手してやれ。今度は手加減なしでな」


「……はい」


 ショウは完全に心が折れていたが、ピコの練習台として付き合うことにした。

 アニアスのアドバイスを受けながら、ピコはメキメキと上達していく。

 単純な連打ではなく、相手の動きを見て技を出すことを覚えた彼女は、もはや初心者ではなかった。


 数時間後。

 そこには、互角の勝負を繰り広げ、楽しそうに笑い合う二人の姿があった。


「やったー! 勝ったのだ!」

「くそー、強くなったなぁピコちゃん!」


 アニアスはテラスで茶を飲みながら、その様子を満足げに眺めていた。

 ゲーム機という異世界の異物は、アニアスの介入によって、ただの争いの火種から、健全なコミュニケーションツールへと昇華されたようだ。


「……平和だなぁ」


 アニアスは呟く。

 庭の穴はまだ埋まっていないし、ショウは疲労困憊だが、みんなが笑顔ならそれでいい。

 魔王城の日常に、また一つ新しい風景が加わった。


 だが、アニアスはまだ知らない。

 このゲーム機が後に量産され、魔王軍兵士たちの間で大流行し、業務に支障が出るほどの社会問題になることを。

 そして、その対策として「ゲームは一日一時間」という条例を制定するために、また一苦労させられることを。

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