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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第50話 ショウとガンドルフォ、異文化交流あるいはファッション革命

 魔王城での生活にも慣れ始めた異世界勇者ショウは、雑用係としての業務をこなしつつ、自分の居場所を確保しようと必死だった。

 何しろ、ここの住人は強烈な個性の持ち主ばかりだ。ぼんやりしていると、破壊神ピコに狩りの獲物にされるか、死霊王ネクロの実験台にされかねない。


 そんなある日の午後。

 勇者アニアスは、いつものようにVIPルームのコタツで茶を啜りながら、廊下の向こうから聞こえてくる騒がしい声に耳を傾けていた。


「いや、だから! 俺はそういう趣味はないんですって!」


「あらァ、つれないこと言わないでよォ。新入りちゃん、絶対似合うと思うのよォ」


 ショウの悲痛な叫びと、魔将軍ガンドルフォのねっとりとした声だ。

 どうやらまた、ショウがガンドルフォのアトリエに連れ込まれそうになっているらしい。


「アニアスよ、助けに行かなくて良いのか?」


 向かいで蜜柑を食べていた魔王リーズヴェルトが尋ねる。


「……ショウには悪いが、ガンドルフォの相手は骨が折れるからな。若い奴に任せておこう」


 アニアスは非情な決断を下した。

 ガンドルフォのファッションへの情熱は、時に暴走する。以前、自分がランウェイを歩かされた時のことを思い出して、アニアスは身震いした。あんな目に遭うのは二度と御免だ。


 だが、騒ぎは収まるどころか、ヒートアップしていくようだった。


「待ってください! 俺、もっとすごい服を知ってますから! 俺の世界の服を見せますから、勘弁してください!」


「あら? 異世界の服ですって?」


 ショウの声に、ガンドルフォが興味を示した気配がする。

 アニアスは少し気になった。異世界の服。ショウが着ていたヨレヨレの仕事着のようなものだろうか。


「……ちょっと覗いてみるか」


 アニアスは重い腰を上げ、野次馬根性で部屋を出た。


 ◇


 ガンドルフォのアトリエは、ピンク色の布地とレース、そして魔獣の皮革やミスリル銀の糸で埋め尽くされていた。

 その中央で、ショウが必死の形相で固有スキルを発動させていた。


「『想像創造イマジネーション・クリエイト』! 出ろ、ファッション雑誌!」


 ポンッ、という音と共に、ショウの手に分厚い冊子が現れた。

 表紙には、奇抜な格好をしたモデルたちがポーズを決めている写真が印刷されている。


「こ、これです! 俺の世界の最新トレンドが載ってる本です!」


 ショウは震える手で雑誌を差し出した。

 ガンドルフォはそれをひったくるように受け取り、パラパラとページをめくる。


「……何よこれ」


 ガンドルフォの手が止まった。

 その目が、真剣な職人のものへと変わっていく。


「素材感が全然違うわねェ……。それにこの縫製技術、魔力を使わずにここまで精密に? ……あら、このシルエットは新しいわ」


 ページをめくる速度が上がる。

 ガンドルフォの鼻息が荒くなっていく。


「な、なんてこと……! こんな発想、魔界にはなかったわ! この『ゴスロリ』ってやつ、ピコちゃんに絶対似合うじゃない!」


「でしょ!? あと、こっちの『ストリート系』なんかは、動きやすくてカッコいいんですよ!」


 ショウが調子に乗って解説を始める。

 最初は身を守るために出した雑誌だったが、ガンドルフォの反応が良いことに気を良くしたようだ。


「ふむふむ……。このダボッとしたズボン、機能的かつ反骨精神を感じるわねェ。ドワーフの工夫たちにもウケそうよ」


「そうなんです! あと、こっちのページ見てください。これは『原宿系』って言って、とにかくカワイイを詰め込んだスタイルなんです!」


「ハラジュク……? どこの聖地かしら? でもこの色彩感覚、アタシの魂が共鳴するわァ!」


 ガンドルフォが絶叫した。

 ショウの持っていた雑誌は、どうやら若者向けの奇抜なファッション誌だったらしい。極彩色の服や、過剰な装飾品を身につけたモデルたちの写真は、ガンドルフォの派手好きな感性に突き刺さったようだ。


「新入りちゃん! アンタ、なかなかやるじゃない!」


 ガンドルフォがショウの背中をバンと叩く。ショウが「ぐえっ」とひしゃげた。


「気に入ってもらえて何よりです……」


「気に入ったわよォ! これ、参考にして新作を作るわ! アンタ、手伝いなさい!」


「えっ、俺がですか?」


「当たり前でしょォ! この『ジッパー』とかいう金具の構造、詳しく教えなさい!」


 いつの間にか、二人の間には奇妙な友情が芽生えていた。

 ショウは命拾いした安堵感と、自分の知識が認められた嬉しさで、喜んでガンドルフォの助手になり下がっていた。


 アニアスは物陰からその様子を見て、そっと胸を撫で下ろした。


「……上手くやったな、ショウ」


 犠牲にならずに済んだ。それどころか、魔王軍随一の厄介者であるガンドルフォを手懐けてしまったようだ。

 あいつ、意外と世渡り上手なのかもしれない。


 ◇


 それから数日間、ガンドルフォとショウはアトリエに籠もりきりになった。

 時折、爆発音やガンドルフォの奇声が聞こえてくるが、創作活動は順調のようだ。


 そして、お披露目の日がやってきた。

 夕食後の大広間。

 ガンドルフォが自信満々に新作を発表した。


「皆様、お待たせしましたわァ! 異世界の文化と魔界の技術が融合した、革命的な新作コレクションよォ!」


 ジャジャーン! と効果音が鳴り、モデルたちが登場する。

 モデルを務めるのは、ショウに言いくるめられたスケルトン兵たちだ。


「まずはこれ! 『ネオ・魔界パンク』!」


 登場したのは、鋲のついた革ジャンに、安全ピンを刺しまくったズボンを履いたスケルトンだった。

 骨のボディにハードなファッションが妙にマッチしている。


「おお、強そうだな!」


 リーズヴェルトが目を輝かせる。


「次はこれ! 『マジカル・デコラ』!」


 続いて現れたのは、全身にカラフルな魔石やぬいぐるみをジャラジャラとつけたスケルトン。

 歩くたびにガチャガチャと音がする。そして重そうだ。


「かわいいのだー! ピコ、あれ欲しいのだ!」


 ピコが大喜びしている。やはり幼女には刺さるらしい。


「そして最後は……アタシたちの最高傑作よォ!」


 ガンドルフォが指差した先。

 そこに立っていたのは、ショウだった。


 彼は、黒いスウェットのような上下を着ていた。

 だが、ただの部屋着ではない。

 生地には魔力を織り込んだ特殊繊維が使われており、フードには角のような装飾がついている。

 そして胸元には、『MAO(魔王)』という文字がデカデカと刺繍されていた。


「名付けて『魔王軍公式ジャージ』よォ!」


「……ダサい」


 アニアスは即座に感想を漏らした。

 一周回ってカッコいいのかもしれないが、アニアスの感性では判断がつかない。


「何を言ってるんですか先輩! これ、機能性抜群なんですよ!」


 ショウが得意げにフードを被る。


「伸縮性があって動きやすいし、魔法防御力も高い。おまけに洗濯してもすぐ乾く! まさに勇者のための部屋着です!」


「……ほう。動きやすそうだな」


 リーズヴェルトが興味を示す。

 彼女は戦闘服かドレスくらいしか持っていないため、ラフな服に憧れがあるのだ。


「魔王様、試着してみますか? レディースサイズも作ってありますよ!」


「うむ、着てみよう!」


 数分後。

 『MAO』と書かれた黒ジャージを着たリーズヴェルトが、ご満悦の表情で戻ってきた。


「軽い! 温かい! これは良いものだ!」


 魔王がジャージ姿でコタツに入る。

 その姿は、休日の田舎のヤンキー姉ちゃんのようだったが、本人は気に入っているらしい。


「アニアスちゃんのもあるわよォ! お揃いで着ましょ!」


 ガンドルフォが同じジャージを差し出してくる。


「……俺はいい。旅装束で十分だ」


「遠慮しないで! 先輩のために特注サイズで作ったんですから!」


 ショウが余計な気を利かせてくる。

 結局、アニアスも断りきれず、ジャージに着替える羽目になった。


 こうして、魔王城のVIPルームは、お揃いの『魔王軍ジャージ』を着た集団がコタツを囲むという、部室のような空間になってしまった。


「……なんか、締まらないな」


 アニアスは自分の胸元の『MAO』の文字を見て溜息をついた。

 だが、着心地は確かに良かった。

 ガンドルフォの技術力と、ショウの現代知識。

 この二つが合わさることで、魔王城の快適度はまた一つレベルアップしてしまったようだ。


「ガンドルフォ様! 次は『スニーカー』を作りましょう! この世界の靴、硬くて足が痛くなるんです!」


「いいわねェ! エアクッション魔法を組み込めば、雲の上を歩くような靴が作れそうよォ!」


 ショウとガンドルフォは、新たな開発会議に花を咲かせている。

 異世界勇者ショウ。

 彼は戦闘力こそ低いが、この世界にない発想力で、確実に魔王軍の中での地位を築き始めていた。


 アニアスは、楽しそうに話す二人を見ながら、少しだけ安心した。

 ショウがここでの生活に馴染んでくれれば、自分が世話を焼く手間も省ける。

 そう思っていたのだ。


 だが、彼は忘れていた。

 ショウが馴染めば馴染むほど、彼を連れ戻そうとする聖王国の焦りは募り、より強硬な手段に出る可能性があるということを。

 騎士団長ガレインが、胃薬を飲み干して出撃準備を整えている頃、魔王城ではジャージ姿の魔王たちが呑気にカードゲームに興じていた。



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