第45話 魔王城到達、そして門前払い
整備された街道をひた走り、ついに異世界勇者ショウは旅の目的地へと辿り着いた。
「……でかい」
目の前にそびえ立つのは、黒い尖塔が天を突き刺す巨大な城塞。
魔王城だ。
周囲には瘴気のような霧が漂い、威圧感は抜群である。……実際には、ネクロの演出用スモークなのだが。
RPGのラストダンジョンそのものの光景に、ショウの胸が高鳴った。
「やっと着いたぞ……! ここが魔王の本拠地!」
ショウは『聖剣エクスカリバー(レプリカ)』の柄を握りしめ、深呼吸をした。
ここまで魔物との戦闘は皆無だった。レベルは1のままだ。
だが、今の彼には自信があった。
道中で検証した固有スキル『想像創造』により、いくつかの現代兵器……というには少し頼りないが、ゴムパチンコや強力接着剤などを作成済みだからだ。
「行くぞ! 魔王! 覚悟しろ!」
ショウは雄叫びを上げ、開かれた城門へと突進した。
門番はいない。無防備だ。
これなら一気に玉座の間まで駆け抜けられる――。
ガィィィィン!!
「ぐえっ!?」
ショウの顔面が、見えない壁に激突した。
鼻を強打し、その場に仰向けに倒れる。
「いってぇ……! な、なんだ!?」
慌てて起き上がり、門の空間に手を伸ばす。
そこには確かに、透明で強固な障壁が存在していた。
「結界か……! くそっ、やっぱりタダでは入れないってことか!」
ショウは剣を抜き、結界に向かって斬りかかった。
キンッ!
甲高い音が響き、剣が弾かれる。傷一つ付かない。
「硬い……。物理攻撃は無効か」
その時。
門の横にある柱から、無機質な声が響いた。
『――来訪者を感知しました。入城を希望される方は、右手のパネルに触れてください』
「え?」
ショウが声のした方を見ると、石柱の一部が発光しており、手のひらサイズの水晶板が埋め込まれていた。
どう見ても、マンションのエントランスにあるアレだ。
「……インターホン的な?」
ショウは恐る恐る水晶板に触れた。
すると、空中にホログラムのような文字が浮かび上がった。
『ようこそ魔王城へ。これより入館審査を行います』
「審査!? ダンジョン攻略に審査があるのかよ!?」
ショウはツッコミを入れたが、システムは淡々と進行する。
『質問1:あなたのアポイントメントの有無をお答えください』
『 [有] / [無] 』
「アポなしだよ! 討伐に来たんだから!」
ショウは[無]をタップする。
『質問2:あなたの所属組織、および氏名を入力してください』
「えぇ……。個人情報抜かれるのか……?」
ショウは迷ったが、ここで嘘をついても仕方がないと思い、指先で空中に文字を書いた。
『聖王国フソルパド所属・勇者ショウ』。
『質問3:訪問の目的を選択してください』
『 [商談] / [宅配] / [勧誘] / [その他(詳細を記入)] 』
「魔王討伐だよ! 選択肢にねぇよ!」
ショウは[その他]を選び、『魔王を倒す』と入力した。
送信ボタンを押す。
『――入力情報を確認しました。……エラー。危険人物と認定されました。入城を拒否します』
ブブーッ! という不快なブザー音と共に、赤い文字が表示された。
「知ってた! そりゃそうだよな! 倒しに来ましたって言って通してくれるわけないよな!」
ショウは頭を抱えた。
なんだこのシステムは。あまりにも現代的で、そして合理的すぎる。
これを作ったのは誰だ。魔王か? それとも天才科学者か?
◇
一方その頃。
魔王城最上階、VIPルーム。
アニアスはコタツに入りながら、宙に浮かべた映像を見てニヤニヤしていた。
「引っかかった、引っかかった」
「ふむ。アニアスが考案した『自動受付結界』、効果てきめんだな」
隣でリーズヴェルトも蜜柑を剥きながら笑う。
以前、怪しげな壺を売りに来る行商人が多発したため、アニアスがゼムに頼んで開発させた魔導セキュリティシステムだ。
アポなしの訪問者は、すべてシャットアウトされる仕組みになっている。
「あいつ、正直に入力しすぎだろ。『魔王を倒す』って書いて通れるわけないのに」
「うむ。馬鹿正直な勇者だな。……して、どうする? このまま放置して帰らせるか?」
「いや、ここで追い返しても、どうせ壁を登ったり地下から入ろうとしたりするだろう。面倒だが、通してやるか」
アニアスは手元の水晶を操作した。
「一応、こっちも客人を迎える準備はできてるしな」
「準備とは、あの『歓迎パーティー』のことか?」
「ああ。……異世界からの客人に、魔王流のおもてなしをしてやろう」
アニアスの目が、悪戯っ子のように輝いた。
◇
城門前。
途方に暮れていたショウの目の前で、再びインターホンが光った。
『――特例措置。魔王様が面会を許可されました。ゲートを開放します』
ゴゴゴゴ……!
重厚な城門が、ゆっくりと開き始めた。
「えっ、通れるの!? 『倒す』って書いたのに!?」
ショウは驚愕した。
敵の懐の深さに戦慄する。あるいは、余裕の表れか。
「……いいだろう。受けて立つぜ」
ショウは剣を構え直し、開かれた門の奥へと足を踏み入れた。
薄暗い城内。
長い廊下の先には、最上階へと続く階段があるはずだ。
そこには、恐ろしい魔物たちが待ち構えているに違いない。
だが。
彼が目にしたのは、予想を遥かに超える光景だった。
「いらっしゃいませー! ようこそ魔王城へ!」
廊下の両脇に、メイド服を着たゴブリンや、執事服を着たオークたちがずらりと並び、深々と頭を下げていたのだ。
足元にはレッドカーペットが敷かれ、天井からは「WELCOME HERO!」という横断幕が下がっている。
「……は?」
ショウは思考停止した。
殺気がない。
むしろ、高級ホテルのような歓迎ムードだ。
「勇者様、お荷物をお持ちしましょうか?」
「冷たいお飲み物はいかがですか?」
魔族たちが甲斐甲斐しく世話を焼こうとしてくる。
「ち、違う! 俺は戦いに来たんだ! お前らを倒しに来たんだぞ!」
ショウが剣を振り回すが、誰も怖がらない。
むしろ「まあまあ、落ち着いて」「魔王様がお待ちですよ」と宥められる始末だ。
「なんなんだよ、ここは……!」
ショウは混乱しながらも、レッドカーペットの上を歩かされた。
緊張感ゼロ。
闘争心、空回り。
異世界勇者ショウの魔王城攻略戦は、こうして拍子抜けする形で幕を開けたのである。
その先に待つのが、コタツに入ったまま出迎える「先輩勇者」だとも知らずに。




