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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第42話 異世界からの来訪者、ショウ

 聖王国の地下祭壇。

 召喚の光が収まった後、そこに立っていたのは、ヨレヨレのスーツ姿の青年、ショウだった。


「すげぇ……。マジで異世界だ……」


 ショウは自分の両手を見つめ、握ったり開いたりした。

 体感としては一瞬だったが、確かに何かが変わっている。

 まず、体が軽い。

 連日の残業と睡眠不足で鉛のように重かった肩こりも、腰痛も、すべて消え去っている。

 視界もクリアだ。ドライアイで霞んでいた景色が、4K画質のように鮮明に見える。


「体調が良い……! これだけで召喚された価値がある!」


 ショウは感動に打ち震えた。

 そんな彼を、宰相や神官たちが固唾を呑んで見守っている。


「あー、えっと。勇者様?」


 宰相が恐る恐る声をかける。


「はい! 勇者です! 今日から勇者をやらせていただきます、ショウと申します!」


 ショウは条件反射で背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。

 長年染み付いた社畜根性は、異世界に来ても健在だった。

 元気よく挨拶し、相手の目を見て話す。ビジネスマナーの基本だ。


「は、はあ……。ご丁寧な挨拶、痛み入ります」


 宰相は少し戸惑った様子だったが、すぐに気を取り直して恭しい態度を作った。


「では改めまして。我々は聖王国フソルパドの民。魔王の脅威に晒され、滅亡の淵にある哀れな子羊です。どうか貴方様のお力で、我々をお救いください!」


「任せてください! 魔王討伐ですね? 承知しました!」


 ショウは二つ返事で引き受けた。

 魔王を倒す。それは異世界転生ものの王道であり、勇者に課せられた崇高なミッションだ。

 上司の無茶振り――「明日までに資料百ページ作れ」に比べれば、魔王を倒すことくらい明確な目標でやりがいがある。


「ありがとうございます! では早速、国王陛下への謁見を……」


「あ、その前に確認してもいいですか?」


 ショウは手を挙げて遮った。


「『ステータス』って、どうやって見るんですか?」


「すてーたす……?」


 宰相が首を傾げる。

 現地の言葉では通じないらしい。ショウは慌てて補足した。


「えっと、俺の能力とか、スキルとかを確認する方法です。ほら、異世界召喚特典的なやつ」


「ああ! 『天啓の儀』のことですね!」


 神官長が進み出てきた。

 彼が持っている水晶玉に手をかざすと、ショウの頭の中に直接、情報が流れ込んできた。


 『名前:ショウ』

 『職業:異界の勇者』

 『レベル:1(成長限界突破)』

 『固有スキル:【異界言語翻訳】【万物鑑定】【想像創造イマジネーション・クリエイト】』


「おおっ!」


 ショウは歓声を上げた。

 やはりチートだ。翻訳と鑑定は基本として、【想像創造】という響きが素晴らしい。

 頭の中でイメージしたものを具現化できるスキルだろうか。


「勇者様、いかがでしたか?」


「最高です。特にこの【想像創造】ってやつ、試してみても?」


「どうぞ。ここは神聖な場所ゆえ、多少の魔力暴走も抑え込めます」


 ショウは目を閉じ、集中した。

 イメージするのは、元の世界で愛用していた、しかし今は手元にない文明の利器。

 手のひらサイズの、万能端末。


(出てこい……俺のスマホ!)


 ブォン。

 手のひらに魔力が集束する。

 だが、現れたのはスマホではなかった。

 薄っぺらい、黒い板きれだ。画面もボタンもない、ただの板。


「あれ? 失敗?」


 ショウは首を傾げた。

 そこへ、頭の中に無機質な声が響く。


 『警告:構造理解不足、および魔力不足により生成失敗。代替品として【黒曜石の板】を生成しました』


(なるほど……。中身の構造まで理解してないと作れないのか。しかも魔力消費が激しい)


 ショウは少し落胆したが、すぐに切り替えた。

 複雑な精密機器は無理でも、単純な構造のものなら作れるはずだ。

 例えば、ゴム動力の玩具とか、調味料とか、そういうレベルから始めればいい。


「まあ、最初だしこんなもんか。レベル上げれば何とかなるでしょ」


 ショウはポジティブだった。

 何せ、ここにはパワハラ上司もいないし、満員電車もないのだから。


 ◇


 その後、ショウは王宮の玉座の間へと案内された。

 豪華な絨毯、煌びやかなシャンデリア。

 玉座には、立派な髭を蓄えた国王が座っている。


「よくぞ参った、異界の勇者よ!」


 国王が大仰に両手を広げる。


「そなたの力で魔王を討ち果たし、世界に光を取り戻してくれ! 成功の暁には、望むだけの褒美を与えよう!」


「望むだけの褒美……!」


 ショウの目が『¥マーク』になった。

 金か。それとも地位か。あるいは王女様との結婚か。

 夢が広がる。


「契約内容を確認させてください。報酬は成果報酬型ですか? それとも固定給+インセンティブ?」


「……いんせん……? よく分からぬが、魔王を倒せば国庫を開放し、金銀財宝を好きなだけ持ち帰らせよう。それに、元の世界に帰るための秘術も教える」


「帰れるんですか!?」


「うむ。魔王の核を使えば、次元の扉を再び開くことができるのだ」


 それは嘘だった。

 異界召喚は一方通行の禁呪であり、帰還する方法など確立されていない。

 だが、宰相が耳打ちした入れ知恵により、国王は平然と嘘をついた。

 希望を与えておけば、社畜は喜んで働くことを知っているからだ。


「やります! やらせてください!」


 ショウは即答した。

 魔王を倒して、大金を持って日本に帰る。

 そうすれば、会社を辞めて一生遊んで暮らせる。

 最高の早期リタイア計画だ。


「よろしい! では、旅の支度金として金貨百枚と、王家伝来の装備を授けよう!」


 ◇


 王宮の武器庫。

 ショウの前に、ズラリと装備品が並べられた。


「こちらが『聖騎士の鎧』です。ミスリル製で、防御力は国一番ですよ」


 案内されたのは、全身を覆うフルプレートメイルだった。

 ピカピカに磨き上げられ、胸には聖王国の紋章が刻まれている。


「……これ、重くないですか?」


 ショウが持ち上げてみると、ずしりと重い。

 着たら動けなくなりそうだ。


「防御力重視ですから。魔王の攻撃は強力ですので、これくらい頑丈でないと」


「うーん……もっとこう、動きやすいやつないですか? 革のジャケットとか」


「勇者様、これは正装でもあります。民衆に『勇者』としての威厳を示すためにも、この鎧を着ていただかないと」


 宰相が横から口を挟む。

 ショウは「チッ」と舌打ちしたくなったが、クライアントの要望なら仕方ない。

 社畜時代、理不尽なドレスコード(真夏のクールビズ禁止令など)に従ってきた経験が、ここで活かされる。


「分かりました。着ますよ」


 ショウはしぶしぶ鎧に袖を通した。

 重い。関節が動かしにくい。

 そして何より、デザインがダサい。肩パットが大きすぎてバランスが悪い。


(まあいい。どうせ俺のスキルがあれば、攻撃なんて当たらないだろ)


 彼は楽観的だった。

 ラノベ知識によれば、異世界勇者は最初の村周辺でスライムを狩ってレベル上げをするものだ。

 そこで操作に慣れればいい。


「武器はこちら、『聖剣エクスカリバー(レプリカ)』です」


「レプリカかよ!」


「本物は先代勇者が持って行ってしまいましたからね……。ですが、切れ味は抜群です」


 渡された剣は、装飾過多で重心の悪い長剣だった。

 振ってみると、手首が折れそうになる。


「……先代勇者って、どんな人だったんですか?」


 ショウは何気なく尋ねた。


「アニアスという男でした。……才能はありましたが、心が弱く、魔王の甘言に惑わされて堕落しました」


 宰相が憎々しげに吐き捨てる。


「今は魔王城で、魔族の手先となって自堕落な生活を送っているそうです。……勇者様、彼を見かけたら遠慮なく討ち取ってください。あれはもう、人間ではありません」


「へぇ……。裏切り者ってわけか」


 ショウの中で、アニアスのイメージが『闇落ちした元勇者』に固定された。

 ラスボスの側近として立ちはだかる、悲劇のライバルキャラ。

 燃える展開だ。


「任せてください。俺がそいつの分まで働いて、魔王もろとも成敗してやりますよ!」


 ショウは剣を高々と掲げた。

 王宮の兵士たちが「おおー!」と歓声を上げる。

 その熱気に、ショウは酔いしれた。

 自分は求められている。期待されている。

 自己肯定感が爆上がりする瞬間だった。


 ◇


 翌朝。

 盛大なパレードに見送られ、異世界勇者ショウは王都を出発した。

 目指すは北の果て、魔王城。


「行ってきます! 必ず魔王の首を獲ってきます!」


 ショウは手を振り、意気揚々と歩き出す。

 ポケットにはなけなしの金貨と、宰相から渡された『魔王城への地図』。

 そして、『魔王軍討伐マニュアル』が入っている。


「まずはレベル上げだな。近くの森で魔物を狩って……」


 ショウは地図を確認しながら、街道を進んでいく。

 だが、彼はまだ知らない。

 この世界の魔物たちが、聖女エミリアの『浄化』と破壊神ピコの『乱獲』によって激減しており、レベル上げどころではないことを。

 そして、彼が目指す魔王城が、想像を絶するホワイト企業と化していることを。



 一方その頃、魔王城。


「くしゅんっ!」


 コタツで丸くなっていたアニアスが、大きなくしゃみをした。


「どうしたアニアス、風邪か?」


 リーズヴェルトがティッシュを差し出す。


「いや……なんか、変な寒気がした。誰かに噂されてるような……」


「ふむ。またエミリアではないか? あやつなら四六時中、お前のことを考えていそうだが」


「……やめてくれ。想像しただけで胃が痛い」


 アニアスはブルッと震え、コタツの中にさらに深く潜り込んだ。

 平和な日常。

 だが、その終わりは、着実に近づいていた。


 異世界からの来訪者。

 現代知識と勘違いを武器にする、新たなトラブルメーカーが。

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