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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第23話 聖女のアルバイト、あるいは破壊活動

 聖女エミリアが魔王城の地下に住み着いてから数日が経過した。

 ある日の朝食後、魔王リーズヴェルトは一枚の請求書をエミリアに突きつけた。


「なんですか、これは?」


 エミリアが優雅に紅茶(自前の聖水で淹れたもの)を飲みながら問う。


「家賃と食費だ」


 リーズヴェルトは無慈悲に言った。


「貴様、いつまでタダ飯を食うつもりだ? ここはホテルではないぞ。ましてや貴様は敵国の聖女だ。捕虜として扱わないだけ感謝してほしいものだがな」


「……魔族に金を払うなど、聖女のプライドが許しません」


「なら出て行け」


「嫌です。アニアス様をお守りするまでは」


 睨み合う二人。その間で、アニアスは胃薬を飲んでいた。毎朝の光景だ。


「……ですが、無銭飲食と言われるのは心外ですね」


 エミリアはふっと笑った。


「分かりました。金銭ではなく、『労働』で対価を支払いましょう。こう見えても、修道院では一通りの家事をこなしておりましたので」


「ほう? 聖女様が雑用をこなすと?」


「ええ。この薄汚れた魔王城を、私がピカピカに磨き上げて差し上げますわ」


 こうして、聖女エミリアの魔王城アルバイト生活が幕を開けた。

 だが、その決断が新たな悲劇を生むことを、アニアスだけは予感していた。


 ◇


 最初の仕事は、『洗濯』だった。

 魔王城の裏手にある洗い場で、エミリアは山積みにされた洗濯物と対峙していた。


「ふふん、汚らわしい魔族の衣類など、私の手にかかれば一瞬です」


 彼女は杖を振るった。


「――『極大浄化エクストリーム・ウォッシュ』!」


 カッ!!

 目も眩むような閃光が洗濯桶を包み込む。

 物理的な汚れだけでなく、染み付いた魔力や怨念までをも洗い流す、聖女オリジナルの家事魔法だ。


「完璧です。さあ、干しましょう」


 エミリアが自信満々で取り出した洗濯物を見て、通りかかったガンドルフォが悲鳴を上げた。


「イヤァァァァァッ!! アタシの勝負服がァァァァッ!!」


「あら、ガンドルフォ。感謝なさい。あんな派手なピンク色は目に毒でしたから、綺麗にしておきましたわ」


 エミリアの手にあるのは、純白に漂白された鎧下着だった。

 それだけではない。リーズヴェルトの漆黒のドレスも、ネクロの黒いローブも、全てが「白一色」に変色していた。


「色が! 全部色が抜けてるのだ! これじゃ白旗なのだー!」


 ピコが騒ぐ。

 エミリアの浄化魔法は強力すぎて、染料という名の「不純物」まで消し飛ばしてしまったのだ。


「……クビだ」


 駆けつけたリーズヴェルトが、真っ白になった自分のドレス(お気に入り)を見て震えながら宣告した。


 ◇


 次の仕事は、『庭掃除』だった。

 魔王城の中庭には、魔界特有の植物が生い茂っている。


「まあ、なんて荒れ果てた庭でしょう。毒々しい色の花に、棘だらけの蔦……。アニアス様の目に毒ですわ」


 エミリアは腕まくりをした。


「全て『剪定』して、美しいイングリッシュガーデンにして差し上げます」


 数分後。

 アニアスが庭を覗くと、そこは更地になっていた。


「……エミリア?」


「あら、アニアス様。見てください、スッキリしましたわ!」


 エミリアは汗を拭いながら微笑んだ。

 足元には、根こそぎ引っこ抜かれた『人食い薔薇(マンイーター・ローズ)』や、聖なる光で焼き払われた『猛毒蔦(ポイズン・アイビー)』の残骸が転がっている。


「あのな……あれ、魔王城の防衛システムの一部なんだぞ……」


「えっ」


「泥棒が入ってきても、あの植物たちが撃退してくれる仕組みだったんだ。それを全滅させてどうする」


「で、ですが、あんな危険な植物があったら、アニアス様が怪我をされるかも……」


「俺は避けるから平気だ!」


 庭師のゴブリンが膝から崩れ落ちて泣いているのを見て、アニアスは頭を抱えた。

 善意百パーセントの破壊活動。それが一番タチが悪い。


 ◇


「……使えん」


 夕方。

 VIPルームでの反省会で、リーズヴェルトは深い溜息をついた。


「洗濯をさせれば服をダメにし、掃除をさせれば結界を消し飛ばし、庭いじりをさせれば防衛網を破壊する。……貴様、実は我々を弱体化させるためのスパイではないか?」


「失礼な! 私はただ、清く正しく美しくしただけです!」


 エミリアも譲らない。彼女の中では成功しているつもりなのだ。


「もういい、諦めろエミリア。お前には魔王城の仕事は向いてない」


 アニアスが諭すが、エミリアは悔しそうに唇を噛んだ。


「い、いえ! まだです! 私にも何かできるはずです! 例えば……そう、料理とか!」


「却下だ!!」


 アニアスとリーズヴェルトの声が重なった。

 味を消滅させる女を厨房に入れてはいけない。それは魔王軍の総意だ。


「うぅ……。では、包丁使いだけでも見てください! 修道院では『皮剥きの達人』と呼ばれていたのです!」


 エミリアは懐から果物ナイフを取り出し、テーブルの上の林檎を手に取った。


 シュババババッ!


 目にも止まらぬ速さ。

 一瞬で林檎の皮がリボンのように繋がりながら剥がれ落ち、そこには宝石のように美しくカットされた果肉が現れた。

 角も立っており、断面は鏡のように滑らかだ。


「……ほう」


 アニアスは目を見張った。

 流石は剣の達人でもある聖女だ。刃物の扱いに関しては、神業的な精度を持っている。


「これだ」


 アニアスはポンと手を叩いた。


「エミリア。お前の仕事は『下ごしらえ』だ」


「はい?」


「調理はするな。味付けもするな。ただひたすらに、野菜の皮を剥き、肉を切り、魚を捌くんだ。それなら『浄化』しなくてもいいだろ?」


「……なるほど。食材を最も美しい形に整える……それもまた、一種の浄化と言えますわね!」


 エミリアは納得したように頷いた。


 ◇


 こうして、聖女エミリアの魔王城での役割が決まった。

 『厨房専属・解体および下処理担当』。


 彼女の神速のナイフ捌きによって、魔王城の料理人たちは面倒な下準備から解放され、作業効率が劇的に向上した。

 出来上がった料理はアニアスやリーズヴェルトが味付けをするため、美味い。


「ふふん、見ましたかアニアス様! この人参の『飾り切り(シャトー・カット)』の美しさを!」


「ああ、すごいすごい(棒)」


 厨房の隅で、山盛りのジャガイモを剥き続ける聖女の姿。

 それは少しシュールだったが、彼女が破壊活動をせずに働いているだけで、魔王城には平和が訪れるのだった。


 なお、彼女が剥いたジャガイモは、なぜか食べた後に微量の聖属性耐性がつくというオマケ効果が発生したが、それはまた別の話である。



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