表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/35

第20話 激突! 聖女vs魔王軍(後編)

 魔王城、玉座の間。

 かつて数々の勇者が挑み、散っていった決戦の地。

 今、そこには異様な緊張感が張り詰めていた。


「魔王リーズヴェルト。貴方に、神の裁きを」


 聖女エミリアが、純白の聖衣を血(自分の血)で染めながら、毅然と言い放つ。

 その背後には、巨大な『浄化砲(パージ・キャノン)』が設置され、砲口が魔王の眉間に向けられていた。


「やれやれ……。いきなり押し入ってきて、開口一番に裁きとはな。人間の礼儀作法はどうなっておるのだ?」


 玉座に座る魔王リーズヴェルトは、余裕の笑みを浮かべていた。

 その左右には、四天柱たちが戦闘態勢で控えている。


「問答無用! アニアス様を……私の大切な人を返しなさい!」


 エミリアが叫ぶと同時に、浄化砲が火を噴いた。

 カッッ!!

 極太の光線が玉座を襲う。


「させぬわァ!」


 ガンドルフォが前に躍り出た。

 巨大なハルバードを旋回させ、光線を真正面から受け止める。

 ジュウゥゥゥ……!

 愛用の武器が悲鳴を上げるが、魔将軍の筋肉は揺るがない。


「ピコもいくのだー!」


 ピコが床を蹴り、天井まで跳躍。エミリアの頭上から戦斧を振り下ろす。

 だが、エミリアは一歩も動かない。


「『聖盾(ホーリー・シールド)』」


 ガギィン!!

 透明な障壁が、破壊神の一撃を完全に防いだ。


「硬いのだ!? これ、絶対壊れないやつなのだ!?」


「……厄介じゃな。あの盾、術者の『信仰心』の強さに比例して硬度が増すタイプじゃ。あの娘の信仰心(狂気)は底なしじゃぞ」


 ゼムが冷や汗を流しながら分析する。

 物理も魔法も通じない。聖女エミリア、単騎にして要塞。


「さあ、覚悟なさい魔王! アニアス様にかけた卑劣な洗脳を解くのです!」


 エミリアが杖を掲げ、次なる極大魔法の詠唱を始める。

 城が揺れるほどの魔力が収束していく。

 このままでは、玉座の間ごと魔王城が半壊してしまう。


「えぇい、ならば我が直接相手をしてやる!」


 リーズヴェルトが立ち上がり、漆黒の魔力を練り上げた。

 聖女と魔王。最強同士の力がぶつかり合えば、ここ一帯は更地になるだろう。


 ――その時だった。


「やめろぉぉぉぉぉ!!」


 天井の梁から、情けない叫び声が降ってきた。

 全員が動きを止めて見上げると、そこには一人の青年が張り付いていた。

 勇者アニアスだ。


「ア、アニアス様!?」


 エミリアの表情が、鬼のような形相から一瞬で乙女の花が咲いたように輝いた。


「ああ、ご無事でしたか! 今、助けに参ります!」


「助けなくていい! 頼むから攻撃をやめてくれ! 俺の家(城)が壊れる!」


 アニアスは梁から飛び降り、魔王と聖女の間に割って入った。

 そして、両手を広げてエミリアを制止する。


「エミリア、話を聞いてくれ。俺は捕まってるんじゃない。自分の意志でここにいるんだ」


「……はい?」


 エミリアが小首をかしげる。


「俺は、人混みが嫌いで、王都の生活が息苦しくて……ここへ逃げてきたんだ。リーズヴェルトたちは、俺を温かく迎えてくれた。俺はここが気に入ってるんだよ!」


 アニアスは必死に訴えた。

 これ以上ないほど正直な、魂の叫びだった。


 だが。

 エミリアの瞳から、ツー……と涙がこぼれ落ちた。


「……っ! なんとお労しい……!」


「え?」


「そこまで深く、心を壊されてしまったのですね……! 『魔王城が好き』だなんて、正気のアニアス様なら絶対に仰らないセリフ……! ああ、魔王! 貴方はどれほど酷い拷問を!」


「いや、違うって! 話を聞けよ!」


 アニアスの叫びは届かない。

 彼女の中の「理想のアニアス様」は、清廉潔白で、魔族を憎んでいるはずなのだ。それと異なる言動は、すべて「洗脳の結果」として処理されてしまう。


「もう許しません……! アニアス様を救うため、この城の魔族を根絶やしにします!」


 エミリアの魔力が暴走し始めた。

 説得不可能。会話不能。

 アニアスは天を仰いだ。やはり、こうなるのか。


(……仕方ない)


 アニアスはスッと息を吸い、表情を消した。

 そして、固有スキル『影薄(かげうす)』を発動。

 エミリアの目の前から、アニアスの存在感が消失する。


「えっ? アニアス様?」


 エミリアが困惑して視線を泳がせた、その一瞬の隙。

 アニアスは音もなく彼女の懐に潜り込み、その手から杖をひったくった。

 さらに、背後の浄化砲に回り込み、魔力供給ケーブルを素手で引きちぎった。


 バチンッ!!


「きゃっ!?」


 エミリアが体勢を崩した時には、全てが終わっていた。

 彼女の武器は奪われ、最強の兵器はただの鉄屑と化していた。


「……武装解除だ、エミリア」


 アニアスが静かに告げる。

 エミリアは呆然と自分の手を見つめ、そして顔を上げてアニアスを見た。

 その瞳に宿っていたのは、恐怖でも敗北感でもなく――。


「……素敵です」


「は?」


「流石はアニアス様……! 洗脳されていてもなお、不殺を貫き、私を一瞬で制圧するその実力……! やはり貴方こそが、私の選んだ勇者様ですわ♡」


 エミリアが頬を染めてうっとりとしている。

 ダメだ。何をしても好感度に変換される。この幼馴染、無敵か。


「……で、どうするのだアニアス。こやつを地下牢にぶち込むか?」


 リーズヴェルトが疲れた顔で尋ねる。


「いや、それをすると国が黙ってない。聖女が行方不明になったら、次は軍隊が来る」


 アニアスは頭を抱えた。

 殺せない。帰せない。閉じ込められない。

 詰みだ。


 すると、エミリアが服の埃を払いながら、凛とした声で言った。


「決めました」


「何をだ」


「私がここに残ります」


「……はい?」


 その場にいた全員の声が重なった。


「アニアス様が洗脳によってここを離れられないと言うのなら、私が正気に戻るまでお傍で監視……いえ、お守りします。魔王の毒牙にかからないように!」


「いや、迷惑だ! 帰れよ!」


「帰りません! 聖女の務めとして、勇者様の魂を救済するまで、一歩も動きません!」


 エミリアはその場に座り込んだ。

 テコでも動かないという鋼の意志を感じる。


「……おい、アニアス。どうするのだ」


「……俺に聞かないでくれ」


 アニアスは遠い目をした。

 平穏な魔王城ライフ。コタツと蜜柑と優しい魔族たち。

 そんな楽園に、よりにもよって一番の劇物が混入してしまった。


「……部屋、余ってるか?」


「……地下の元・拷問部屋(今は物置)なら空いているが」


「そこでいい。……みんな、エミリアはお客様だ。丁重にもてなしてやってくれ(震え声)」


「わァ、賑やかになりそうねェ(棒読み)」


 こうして、魔王城に新たな住人が加わった。

 聖女エミリア。

 彼女の加入により、アニアスを巡る人間関係は「マブダチ」から「泥沼の三角関係(魔王vs聖女vs逃げたい勇者)」へと進化を遂げたのである。


 アニアスの胃痛の日々は、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ