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陰キャ勇者と世話焼き魔王のマブダチ宣言 ~対人恐怖症の俺が、なぜか魔王城で同居生活を始めた件について~  作者: らいお


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第12話 勇者の生活改革

 魔王城にも、冬が近づいていた。

 魔界の冬は厳しい。太陽の出ない時間が長くなり、紫色の空は鈍い灰色へと変わり、骨まで凍みるような寒風が吹き荒れる。


 そして何より、魔王城は寒い。

 歴史ある石造りの城は、夏はひんやりとして快適だが、冬は巨大な冷蔵庫と化すのだ。


「……寒い」


 勇者アニアスは、自室のベッドの上で毛布を三枚重ねにして震えていた。

 本来なら快適な引きこもりライフを満喫しているはずの時間だが、この寒さでは指先がかじかんで本も読めない。


「アニアスー? 入るぞー?」


 ノックと共に魔王リーズヴェルトが入ってきた。彼女はいつも通りの薄着――露出多めのドレスだが、全く寒そうな素振りを見せない。


「なんだ、まだ寝ているのか? もう昼だぞ」


「……リーズヴェルト、寒くないのか?」


「ん? 少し冷えるが、魔族は環境適応能力が高いからな。この程度、心地よい涼しさだ」


 さすがは魔王だ。生物としての構造が違うらしい。

 だが、アニアスは人間だ。か弱きヒューマンなのだ。


「俺は無理だ……。このままじゃ凍死する……」


「なんと! それは一大事だ!」


 リーズヴェルトは血相を変えてアニアスに駆け寄った。

 そして、アニアスの額に手を当てる。


「確かに冷たい! いかん、アニアスが死んでしまう! ガンドルフォに命じて、城中の暖炉に火をくべさせるか!?」


「いや、それじゃ空気が悪くなるし、部屋全体が暖まるまで時間がかかる……」


 アニアスはブルブルと震えながら考えた。

 効率よく、かつ局所的に、自分だけを温める方法はないか。

 そして何より、一度入ったら出たくなくなるような、極楽のような暖房器具は――。


「……そうだ。作ろう」


 アニアスの目に、勇者の炎が宿った。

 世界を救うためではなく、自分の快適な冬ごもりのために。


 ◇


 数時間後。

 アニアスは部屋の中央に、ローテーブルを設置していた。

 その上には、倉庫から拝借してきた分厚い毛布が掛けられ、さらにその上に天板が乗せられている。

 見た目は、アニアスの故郷(のさらに東の国)に伝わる『炬燵(こたつ)』そのものだ。


 だが、問題は熱源だ。

 電気もなければ、炭を入れるのも面倒くさい。

 そこでアニアスが取り出したのは、腰に差していた聖剣だった。


「……まさか、アニアス。その剣を使うのか?」


 見ていたリーズヴェルトがゴクリと唾を飲み込む。

 その剣は、かつて魔神さえも滅ぼしたと言われる伝説の聖剣だ。


「ああ。この聖剣には『聖炎(セイント・フレア)』という、アンデッドを浄化する聖なる炎を宿す機能があるんだ」


「ひっ!?」


 リーズヴェルトが後ずさった。魔族にとって、それは致死性の猛毒と同じだ。


「大丈夫だ。出力を極限まで絞って、殺傷能力をゼロにする。ただの『温かい光』に変えるんだ」


 アニアスは聖剣を抜き放ち、テーブルの裏側に固定した。

 そして、繊細な魔力操作で聖剣の輝きを調整する。

 カッ、と眩い光が一瞬放たれ――すぐに、ポゥ……という優しいオレンジ色の灯火へと変わった。


「……完成だ。『魔導聖剣コタツ』」


「な、なんて罰当たりな使い方を……!」


 リーズヴェルトは戦慄した。

 世界最強の武器を、ただの暖房器具の熱源にするなど、正気の沙汰ではない。

 だが、アニアスは満足げにコタツの中に足を滑り込ませた。


「……ふぅ」


 至福の溜息が漏れる。

 足元からじんわりと広がる温かさが、冷え切った体を解きほぐしていく。


「リーズヴェルトも、入ってみるか?」


「む……。我は魔族だぞ? 聖剣の光など浴びたら……」


「平気だよ。ほら」


 アニアスに手招きされ、リーズヴェルトはおっかなびっくりコタツに足を入れた。


「……!」


 その瞬間、魔王の表情が固まった。

 熱いのではない。痛いのでもない。

 ただひたすらに、温かい。

 まるで母親の胎内にいるような、絶対的な安心感と幸福感。


「な、なんだこれは……。腰から下が、とろけるようだ……」


「ここから出られなくなる呪いがかかってるんだ」


「なんと恐ろしい呪具を作ったのだ……!」


 リーズヴェルトはそのままズルズルとコタツに吸い込まれ、アニアスの隣に座り込んだ。

 もう、魔王としての威厳など微塵もない。


「……ここ、温かい」


 いつの間にか、ネクロも入っていた。

 彼は無言でアニアスの反対側に潜り込み、即座に寝息を立て始めた。


「なんなのだこれはー! ピコも混ぜるのだー!」


 破壊音と共にピコが窓から乱入してきたが、コタツを見た瞬間に戦斧を放り出し、ダイブしてきた。


「あったかーい! お兄ちゃん、これすごいのだ! 最強の発明なのだ!」


「あらァ、皆様お揃いで……って、何この幸せ空間はァ!」


 ガンドルフォまでやってきて、無理やり巨体をねじ込んできた。


 こうして、魔王城のVIPルームに、奇妙な光景が完成した。

 小さなテーブルを囲み、勇者、魔王、死霊王、破壊神、魔将軍が、頭を突き合わせて温まっている。

 テーブルの上には、魔界特産の蜜柑(みかん)に似た果実が山盛りにされている。


「……これぞ、平和」


 アニアスは蜜柑の皮を剥きながら呟いた。

 外では寒風が吹き荒れているが、このコタツの中だけは常春の楽園だ。

 聖剣も、まさか自分がこんな風に使われるとは思ってもみなかっただろうが、この平和な光景を見れば許してくれるに違いない。


「アニアスよ、あーん」


「……自分で食える」


「いいから! マブダチのあーんだぞ!」


 リーズヴェルトが剥いた蜜柑を口に押し込んでくる。

 甘酸っぱい果汁が口に広がる。

 アニアスは少しだけ面倒くさそうに、でも抵抗せずにそれを受け入れた。


 勇者の生活改革、第一弾。

 『魔導聖剣コタツ』の導入は、魔王軍の戦意を著しく低下させる(堕落させる)という、予想外の大戦果を上げることとなった。

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