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【短編小説】全自動Life will be自由からの逃走and means no meanings

掲載日:2025/12/30

 チヤリメルワラは真夜中、不意に目を覚ました。

 直前まで夢を見ていた。

 チヤリメルワラは、それが政府から配信されたものなのか、自分の脳みそと言う臓器がランダムな情報を収集して最適化する際のプログラムなのか突き止めようとした。

 しかしその行動さえ自動的な行為である気がしてやめた。


「どうしたの?」

 隣で眠っていたスグィォスシが梟の様に首だけを回してベッドに身を起こした。

 掛け布団が動いてチヤリメルワラの肌を撫でた。

 スグィォスシの目は薄く光りながらチヤリメルワラを見ている。

「夢をみたんだ」

 チヤリメルワラがため息まじりに答えた。

 スグィォスシは再び眼を閉じながら

「どんな夢を見たの?」

 と訊いた。


 

 その声はまるでクリームソーダに溶けていくアイスクリームみたいな音だった。

 だからチヤリメルワラはともすると聴き逃しそうになった。

 暗い部屋がクリームソーダ色に満たされて行く気がする。

 チヤリメルワラはベッドの上に身を起こして

「分からない、よく覚えてないんだ」

 と言うと、スグィォスシはかすかに頷いて先を促した。


 チヤリメルワラが見た夢はこうだった。

 浴室と寝室が一緒になった奇妙な空間で名前の知らない女と抱き合っていた。

 女の存在は曖昧で、十人並を少し越える程度の美しさだった。

 夢の中で会ったその女を、チヤリメルワラは好きでも何でもなかった。

 女の腹に放った精液は水に浮いた油の様に鈍重な虹色に光っていた。


 チヤリメルワラはクリームソーダで満たされた暗い部屋で少し息を吸うと

「これが政府の配信した夢か昔の記憶なのか分からない」

 と言った。

 どうしてそれを知りたいのか分からないが、とても重要な事の様な気がした。

 チヤリメルワラがスグィォスシを振り向くと、スグィォスシが開けた瞼は、今度は重さを感じさせなかった。


「そうね。でも仮にそれが政府の配信であったとして何か問題なの?」

 スグィォスシは茶色い眼球を動かさずに真っ直ぐチヤリメルワラを見つめながら訊いた。

「問題はないよ」

 チヤリメルワラは自分の脳みそやニューロンを直接のぞき込む様なスグィォスシの視線から顔を背けた。


 いま外はどんな風なのだろうか。

 定時にならないと開かない国営住宅のカーテンを引いてみたが、やはり外の景色は見られなかった。

 きっと自動運転の物資運搬車がストローの気泡みたいに等間隔で動いている。

 むかしは、ガソリン車が真夜中にドライブする音が聞こえたりしたけれど、今はもう聞こえない。

 郊外や地方ではまだあるのだろうか?


 真夜中にガソリン車が白い煙を吐きながら道を走る。

 何処に行くでもない。

 自動車で走る為だけに走る。

 自分もそうやってバイクを運転していた。

 無駄の為にある移動を想像してチヤリメルワラは自分の背骨が冷たくなっていく気がした。

 そもそも自分に背骨があるかなんて分からないけれど。


 

 もう少しすると配給の朝食が届く。

 眠っているスグィォスシの髪を撫でながら、チヤリメルワラは電脳に配信された国営ニュースのデータをバックグラウンド再生した。

 朝食を済ませたら散歩に出よう。

 あと数年もすればチヤリメルワラやスグィォスシも統合される。

 もっと早いかも知れない。

 ふたりだけで見た世界がアーカイブされる前にふたりだけの世界をふたりだけでアーカイブしよう。


 間もなく国営太陽が昇る。

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