なぜ今?!未来息子、愛の告白直前に婚約破棄の場へ飛ばされる
※未来息子シリーズ最新作!
各話パラレル構成のため、単独でも楽しめます。
今日こそ、ティアに言うんだ。
――ずっと君のことを愛してたって。
王宮庭園の奥、月光が降り注ぐ白いアーチの下で――ひとりの青年が息を潜めていた。
この国の王太子――リアム・アルベリオ。
胸の内は激しく騒ぐのに、外見だけは凛と、王族の顔を保っている。
彼女の前で、きちんと伝えたい。
幼いころからずっと――誰より大切だったという想いを。
その視線の先から、しずかに足音が近づいてくる。
ティア――ティアナ・アルベリオ。
王弟ユリウス殿下の娘であり、リアムの従妹にあたる彼女は、淡い金の髪をゆるく巻き、夜風にふわりと揺らしている。
琥珀色の瞳には、見た者をほっと包む優しさが宿り、それでも王族の気品が滲み出る――そんな女性だった。
彼女はリアムに気づくと、花が咲くようにふわっと笑った。
「――ティア」
静かに名を呼んだ、その瞬間だった。
――カチンッ。
腰につけていた硬質の通信魔道具が、突如、強い光を発した。
「……え?」
こんな時に?
よりにもよって、今?
心臓が跳ねる。
『リア!聞こえるか、リア!』
「……父上?」
慌ただしい声。国王――アドリアンだ。
いつになく必死で、息が荒い。
『今、魔道具が――
過去の“婚約破棄の時期”に繋がった!!』
「婚約……破棄……?」
何を言っているんだ、この人は。
『あの時、私は君に助けられたんだ!!
今すぐ飛ばすから、過去の私を助けてくれ!!!』
「は??
ちょ、なんで今!?
今から僕、告白――」
最後まで言い切る間もなく、足元から光が噴き上がった。
「ちょ、待っ……
なぜ今なんですかああああ!!!」
まぶしさに視界が白く塗りつぶされ、身体がふわりと浮いた気がした。
庭園の月光が離れていく。……風も、香りも、消える。
次の瞬間――
リアムは、喧騒渦巻く大広間へと叩きつけられていた。
リアムが飛ばされる、ほんの刹那前――。
王宮の大広間には、張り詰めた沈黙が重くのしかかっていた。
貴族たちはざわめくことも忘れ、息を潜めて事の行方を見守っている。
その中央。
王太子――アドリアン・アルベリオが無表情のまま立っていた。
その袖口には、男爵令嬢キャサリンがしがみつくように寄り添っている。
頬は上気し、勝利を確信した笑みを隠しもしない。
対して――
階段下、断罪の壇に立たされているのは蒼白な顔の令嬢。
王太子の婚約者にして侯爵令嬢、エリナ・レーヴァン。
真っ直ぐに向けられた人々の視線にも、彼女は怯まず、ただ静かにアドリアンを見つめている。
だが――アドリアンの瞳は虚ろだった。
彼は、感情の欠片を滲ませることもなく群衆を前に口を開いた。
「侯爵令嬢――エリナ・レーヴァン。
そなたとの婚約を――」
――その瞬間。
轟ッ!!!
まばゆい光が大広間を貫く。床石が激しく割れ、中心へ何かが叩きつけられた。
「うわっっ!!?」
土煙の中――人影が、むくりと起き上がる。
金砂の髪――王家の証。
「……いったぁ……
どっ……どこですかここ!!??」
土埃を払いながら立ち上がったリアムは、状況の把握など一切しないまま、父――アドリアンを見つけて、一目散に駆け寄った。
「父上ッ!!!!」
全員が息を呑む。
「一体――何してくれちゃってんですか?!」
リアムは肩を掴み、ぐわんぐわん揺さぶった。
「いま!僕は!!愛するティアに!!
一世一代の告白をする予定だったんですよ?!」
会場、静寂。
(……誰? なに? 愛? 一世一代?)
貴族たちは理解を放棄した。
「なのに!突然、光に包まれて!!
気づいたらここ!!
何この状況!?
僕の告白返して!!
父上が何かやらかしたんでしょう!?
謝ってください!!!」
隣のキャサリンは目を剥き、腕を引っ込める。
「ちょ、ちょっと!?
アドリアン様のお知り合いですの!?
ど、どなた!?」
だがリアムは完全無視。
「返事してください!
何、ボーッとしてるんですか!?
早く戻してください!!
ティアが!ティアが待ってるんです!!」
肩を揺さぶられてもなお、アドリアンの瞳は虚ろのまま――
「父上!目!!目が死んでますよ!?
とりあえず正気に戻ってください!!」
リアムは深呼吸し――
「失礼します」
パァンッ!!
大広間に乾いた音が響く。会場が震えた。
しかしリアムは止まらない。
**パァンッ!!パァンッ!!**
両頬に軽快なリズムが続く。.....まるで応援団。
「戻ってきてください父上!!!
目を覚まして!!!
愛の告白より大事なことなんて無いんですから!!!」
(いやあるだろ!!!)
会場全員が心でツッコんだ。
パンパンパン――
その衝撃に耐えきれず、アドリアンの瞳がわずかに揺らぐ。
「……っ、あ……?私は……」
虚ろだった目に、徐々に意識が戻っていく。
リアムは肩を掴み――さらに揺さぶった。
「父上!
正気に返りましたか?!
返事してください!!
告白、返してください!!!!」
その剣幕に、これまで事の成り行きを呆然と見ていたエリナが、ようやく我に返る。
「ま、待って……!
そんなに揺らしたら、身体に差し障りがあるかもしれないわ。……あなた、いったい――」
「母上!!!」
リアムは食い気味に叫んだ。
「父上をちゃんと見ててくださいって言いましたよね!?
この人、国王なのにほんっと変なところで抜けてるから!!
今日は、ティアに告白する大事な日だって話してたじゃないですか!!!」
「えっ……ティア……?」
「とぼけないでください!!
僕の最愛の従妹!!――そこのユリウス叔父上の娘のティアナです!!!」
びしっ、と
リアムは第二王子を指さした。
流れ弾を受けたユリウスは目を剥き、言葉を失う。
「私の……娘……?」
「あーもう!!どうやって帰るんだよこれ!!」
言いたいことだけ言うと、リアムは頭を抱え、そのまましゃがみ込む。
――その時。
ビキッ……!
空間がひび割れたような音がした。光が、彼の足元から立ち昇る。
「え?……もしかして、帰れる!?
父上、母上!!
あとは任せましたからね!!」
大広間全体が、眩い閃光に包まれた。
「ま、待ちなさ――」
アドリアンの声が伸びる。
「ティアに遅れるううう!!!」
叫びを残し、彼の姿は光の中に溶けていった。
残されたのは呆然と立ち尽くすアドリアンとエリナ、
そして――突然未来の娘の名を出され、動揺が止まらないユリウス。
「……息子?……いや、まさかそんな……」
「……ティアナ……?」
重く、深く――三者三様の困惑が、大広間を包み込んだ。
……その後、男爵令嬢キャサリンが“魅了魔法”を用いていたことが判明し、裁きが下るまで牢へと送られた。
正気を取り戻したアドリアンは、侯爵令嬢エリナの前で深々と頭を下げる。
「式典の礼装から着替える際、魔封じのアンクレットを付け忘れてしまったんだ……本当にすまない」
床に頭が擦れるのではと思うほど必死な姿に、エリナは苦笑しつつ、小さく首を横に振る。
「……次からは気をつけてくださいね」
その穏やかで器量ある返しに、広間は安堵と感服の色に包まれた。
......以後、王太子アドリアンは、頼りないながらも誠実に国政へ向き合い、冷静沈着な弟――第二王子ユリウスの助言を受けながら、身分を問わず実力ある者を登用したという。
人々は彼を敬い、治世は安定し――王家は再び穏やかな光を取り戻した。
そして――
未来で待つ少女ティアへ、あの青年が無事に想いを伝えられたことを信じて。
――Good luck.
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回は、別のお話を
再来週金曜の21時ごろに投稿予定です。
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