第一話
ようこそ、無課金の塔へ。
本世界では、リアルマネーによる一切の加速行為を禁止しております。
課金が発覚した場合、即BAN(死刑)となります。
運営からのメッセージが脳に直接流れ込んできた。俺は思わず笑った。
「いや、そんな世界あんのかよ……現実より地獄じゃねーか」
だが、この世界にはそれでも格差が存在した。
街の広場にて
「ご覧ください!こちら、本日限定の無料10連ガチャ生まれの聖女様です!」
屋台のような壇上で、少女が手を振っていた。
名をセイント・ジュウレン。
どうやら無料で生まれた奇跡の産物らしい。
「HP9、MP3、回復魔法(小)持ち!回復量は少ないですが、気持ちはこもってます!」
通りすがりの老婆がつぶやいた。
「最近の無料キャラは根性が足らん。昔はもっと初期ステで殴る勇気があったよ」
「なんか…魂にエラーがあるっていうか、全体的にスペックのバグを感じます」
と若者。
ジュウレンは笑顔でうなずいた。
「大丈夫です!再登場のときはピックアップされるはずですから!」
…メンタルはSSR級だな。
路地裏にて
「よう、新入りか?」
声をかけてきたのは、見るからにベテラン風の鎧騎士。
その鎧、明らかに無課金の域を超えている。
つや消し加工、竜の装飾、エフェクトまで出てるぞ。
「俺の名はレビューナイト。高評価レビューだけを糧に生きている」
「…レビュー?」
「そうだ。☆5の口コミを受けるたびに、パッシブスキルが強化される」
「ちなみに今の評価は、平均4.9」
俺はそっと確認した。
レビューナイト
総合評価:4.92(21047件)
・戦闘力:★★★★★
・人当たり:★★★★☆
・コスパ:★★★★★
・写真映え:★★★★★
「コスパと写真映えって、必要か…?」
「当然だ。無課金社会は見た目が全て。質実剛健なやつは評価されない」
彼はすっと手を差し伸べてきた。
「お前のレビュー、☆いくつか付けてくれるか?」
俺はそっと手を引いた。
寺院にて
最後に立ち寄ったのは、やたらと静かな寺だった。
鐘の音すら、広告の一つも鳴らない。
「……月額課金、断じて許されぬ」
住職らしき人物が、独りごちていた。
名前はサブスク僧正・デクラウド。
「月500円でスキル解放だと? そんなもの、信仰の堕落だ」
「真なる力は、広告を30回見た者にのみ与えられる」
俺は思わず言ってしまった。
「いや、時間の無駄すぎませんか、それ」
彼は怒りで杖を震わせた。
「黙れ!時間とは信仰なのだ!時は課金なりという言葉に屈してはならん!」
そして、俺は気づいた。
無課金の世界、そこには、
時間、労力、そして虚無を積み上げてまで無償の力を信じる者たちがいた。
だがその一方で、
見えない微課金の香りを漂わせる連中が、なぜか上層へと進んでいた。
課金禁止の世界で、課金臭を隠し持つ者たち。
果たして、誰が本当に「無課金」なのか?
この塔のてっぺんには、一体何があるのか?
俺は決めた。
この塔を、登る。