32.黒装束との戦い
今日は3.11です、ご冥福をお祈りします。
「いくら2人でも、なかなかの魔術師だ。近接で潰せ。」
執事だった男が指揮をとった。
「ーーお前らは、なぜ俺たちを狙う?」
ラティエルは重く口を開いた。
「なぜか…か。貴様らが風に反したからだ。」
「風の加護を受けているのにも関わらず、この国の風を否定した。それだけでなく、先人が作った階級制度を否定した。」
「何が言いたい?」
「ーー貴様らが死ぬ理由としては十分だということだ。」
その刹那。男はラティエルの懐に潜り込んでいた。
「なっ!」
(速いっ!受けきれない!)
「『風の戯れ』!ラティエルさん、対話は無理っす!戦うっすよ!『石礫の息吹』!」
ラティエルと男の距離を魔術で離し、その直後にミストが放った石の礫を孕んだ風が黒装束たちを襲う。
「ふむ、存外にやるな。…だが、男の方は大したことない。先に女の方を狙うぞ。」
「はっ。」
「じゃあ、対話は諦める。ーーでも、殺しはしない。」
「当たり前っす。」
戦うことを決めたラティエルから、異様な魔力が感じられた。
「っ!その異質な魔力。まさか貴様は『フォルティス家』の末裔か?」
「フォルティス?悪いが俺は…ただのラティエルだ!『空気顕現』『偶像召喚』!『風鷹イーグル』。」
緑色の魔力を全身に宿した鷹がラティエルの隣に顕現する。
「それは霊獣!?やはり『フォルティス家』だな?」
「だから違うって。『貫け、鷹。』」
イーグルが黒装束の男へと突撃した。
「くぅっ!」
突撃を喰らった男は倒れ伏した。
「ーーなんなんだ!何者なんだ貴様はぁ!『風襲』ォ!」
男はラティエルの目前に移動した。
「それ、さっきも俺に使ったよな?もう見たから通用しないぞ。『空剣エア』。」
ラティエルの前に降臨したのは、ただただ美しい、空の剣。
「これは初見せだ。」
短剣を防ぎ、斬り返す。
「『空よ。俺の手に。』」
指揮棒を振るように、エアを振った。
ーーその刹那。男を含んだ黒装束たちは動くことができなかった。
「っ!」
(なぜ、動けない!私だけではない。何かが、あの男にはある!)
「もう抵抗しないでほしい。抵抗のしようがないが。」
エアを霧散させ、語りかける姿はまさに空の王。大空を統べる者は、自分に降りかかった火の粉を払った。
「まだ、遠いっ。努力あるのみっすね!」
「とりあえず、俺の質問に答えてほしい。」
「…。」
男たちは無言を貫いた。
「はぁ。リゲル、頼めるか?」
『ああ!まかせろ!』
「なっ。」
降臨したのは、少女。まさに傾国の美少女。クラウゼル王国の神話に伝わる風の聖霊リゲルに酷似したその姿。
「リゲル様?リゲル様だ!」
『お前らはアタシと契約してるこのラティエルを襲った。ーー本来なら、許さないところだけど、ラティエルに止められたから許してやるよ。』
『アタシからお前らにいうことは一つ。ラティエルはアタシの契約者だからラティエルの言うことを聞け!』
「お言葉ですが、リゲル様。…この男はこの国を、イカロス様の作ったこの国を否定しました。」
『違えな。否定したのはお前ら自身だ。イカロスが望んだのは風が吹く国。みんなが風みたいに自由にできる国だ!ーーそれなのに、お前らはルールで人を、国を、風を縛った。イカロスはこんな国を…望んでいない!』
気付かされた。否、気づいてはいたのだ。でも、その違和感を正すことができなかった。だが、イカロスを誰よりも近くで見てきたリゲルが、その違和感の正体を教えた。
男たちは涙を流した。
「私たちはっ…風を知らぬ間に、縛っていたのか…。」
「でも、まだ間に合う。お願いだ。俺と、俺たちと一緒にこの国を変えないか?」




