6.ガレンの家にて
少し重めなので、そういうのが苦手な人は注意。
席を立ったラティエルは、トイレを探して屋敷の廊下を歩いた。
廊下は静かで、先ほどまでの宴会の喧しさが、嘘のように遠くなっている。
「……ここかな?」
そう言って扉を開ける。
だがそこは、トイレではなかった。
長年使われていない部屋――そう感じさせるほど、空気は重く、埃が舞っていた。
「なんだここ……。使ってないなら、片付けてないのか?」
違和感を覚えつつ、ラティエルは室内を見渡す。
正面に、机があった。
そして、その椅子に掛けられていたのは――一枚のマント。
背に刻まれた、炎の紋章。
「炎の紋章……?」
思わず、足が止まる。
「ガレンのものじゃ……ないよな?」
その時。
ギギギィ……と、扉が開く音がした。
「……ラティエル?」
低い声が背後から聞こえる。
振り向いた先に立っていたのは、ガレンだった。
「ガレン?ここは……?」
だが、返事はなかった。
笑ってもいない。
怒ってもいない。
――ただ、無表情。
ガレンの視線は、ラティエルではなく、
ずっと、そのマントに向けられていた。
「……ここには、入らないでくれ。悪いな」
その声に、酒気はない。
酔いは覚めている。
それでも、視線の焦点は合っていない。
ラティエルは、直感的に悟った。
(……ここは、触れちゃいけない場所なんだ。)
「ここは……」
ガレンが、ぽつりと続ける。
「……片付けられない場所なんだ」
「……そうか」
ラティエルは、それ以上踏み込まなかった。
「わかった。すまないな」
「いや、いいんだ」
ガレンは短く答えた。
「トイレまで、連れて行くぜ」
踏み込まないようにしたが、どうしても気になった。
「ああ、ありがとう。……ちなみになんだが」
ガレンは、歩き出したまま、何も言わない。
一瞬、間が空く。
「……この部屋、誰か使ってたのか?」
その言葉に、ガレンの足が止まる。
ゆっくりと振り返り、
先ほどと同じ、感情のない顔で――
「……“聞く、のか?”」
その声に、ラティエルはすぐ首を振った。
「いや。すまない、忘れてくれ」
ガレンは、何も答えなかった。
ただ、再び歩き出した。
そこから、丁度宴会がお開きになり、ガレンが独りで酒を飲んでいた。
「あ“あ“あ“ぁぁ!」
頭を掻きむしる。
いらつきを抑えるように酒を飲む。
「はぁ、あそこでラティエルに気を使わすんじゃなかった。そうすればあの部屋も見られなかった。
あぁ、だめだ。すぐ酔いが覚めちまう。この時期は酒が止まらねえなぁ。」
「風が止まり始めてからもう1年。アイツも戻ってこなかった。何が英雄だ。俺は人1人救えねえ凡人、いや、人ですらないかもな。
あぁ、風になって、全部、なかったことにしてぇなあ。」
ガレンの独り酒はまだ続いた。
風が止まっている夜の中で。




