8話
決闘場は昨日と同じく大盛況で歓声が賑わっていた。
そしてその音をテレビ越しに控え室で聞いてる澪、一花、蓮華。
「澪ちゃん、昨日の阿部先生の、断らなくてよかったの?」
「正直会う人が大きすぎるから断りたかったわよ?でも会う前に拒否するのって私は嫌だもの」
「澪、良いやつ」
「まぁ阿部も本人に会ってから決めてくれって言ってたし、会ってから考えるわよ。それよりも一花、コンディションは大丈夫なの?」
「バッチリだよ!」
一花の家系、春山家は異形退治よりもこの街の治安維持の為に超能力犯罪者と対峙する場面は多い。
その為ESP戦の経験はこの学園に置いて群を抜いて高い。
しかし今回の相手はレベル7の瞬間移動能力者。
いくら経験豊富とは言っても、犯罪に手を染める超能力者はレベル5以下の超能力者が大半なのだ。
レベル6以上はどんな能力でも企業や国に引く手数多であるためだった。
「彼女はレベル7かもしれないけど、私だってレベル6なんだからね!」
「そ、そうよね!」
超能力はレベル1から7まででかなりの格差がある。
レベル1は一部の生活機能がやや上昇
レベル2は一芸に長けた動きが可能。
レベル3は人間では不可能な動きや反応が可能。
レベル4は身の回りにも作用するような事象。
レベル5は身の回りに作用するような能力に加え、加減を間違えると命を奪いかねない破壊力。
レベル6は超人の域に達しており、機械など人の技術で再現不可能な領域。
レベル7は人間では計測不可能な領域でレベル6の規定よりも高い数値は全てレベル7となる。
「レベル7。レベル6、近ければ、問題ない。でもレベル7、能力差、ある。どうする?」
「そうだね。私もその高みに到達するように頑張ったけど、レベル7にはまだまだ届かない。でも相手は瞬間移動能力者。絶望するような能力じゃないよ!」
「なんか一花なら勝っちゃう気がするわね」
「任せといてよ澪ちゃん!」
澪が手を掴むと少しだけ震えているのがわかる。
一花がレベル6認定されたのは高校に入学してからであり、小学校から努力する姿を見ている澪はその手を握ることしかしなかった。
「一花、あのレベル7のオトコオンナ、私達のことを知らないのに腹立つわ!だから私の為に勝ってね!」
「澪ちゃん・・・あぁ!ぜってぇに勝って、澪ちゃんの前で土下座させてやらぁ!」
一花は澪の手を放して闘技場の入口へと向かう。
その一花の足取りは、さっきまでの不安が嘘かのように軽かった。
『皆様、お待たせしました!両者準備が整ったようです!』
会場は澪の時とは違い実況がついていた。
決闘の実況は放送部員で行っており、対戦カードが盛り上がるレベル6以上同士の対決の時のみ実況が行われている。
『それではまずは参りましょう!その美貌は同姓でも息を漏らすほど美しい。男性顔負けの女性貴公子。レベル7超速皇子八神清美ぃ!』
「ありがとうみんな!今日はみんなの期待に応えられるように頑張るよ!」
慣れた手つきで手を振り、女性の目は釘付けになり男性もうっとりと彼女を見つめる。
その歓声だけで昨日の澪と大場の決闘の時よりも大きく上回る規模だった。
一年生ながら二つ名がつくほど人気なことからもわかるように、そのカリスマ性は学園内にいる五人のレベル7でもトップクラスに入る。
『対するはこの街に知らぬものはいない!異形と超能力犯罪者を裁く組織の春山家当主。春山一花ぁ!』
一花は何も言わず入ってくるが、やはりこちらも春山家ということで有名人。
歓声が鳴りやまないことに変わりはなかった。
この完成を控室のテレビで見る澪は素直に驚いた。
一花もまた澪と同じように決闘はしていないのだ。
それなのにこの人気は流石としか思えてならなかった。
「すごいわね一花」
「澪も、歓声、浴びたい?」
「すごいとは言ったけど浴びたいとは言ってないわよ」
「一花、同じ気持ち、だと思う」
「確かにそうね。一花は声援は喜んでもあれに喜ぶような子じゃないわね」
一花は澪のために戦う。
嬉しい反面、心配な気持ちもやはりあるのだ。
ただ澪は一花の無事を願っていた。
『さぁ両者前へ!決闘は勝者が敗者になんでも要求でき、審判の教師がそれを承認することで始まります!今日の審判は畑つぐみ先生です!さぁ両者、要求をどうぞ!』
畑つぐみは八神清美の叔母であり、この決闘がいかに自分に不利であるか一花は自覚する。
しかしそれでも一花の願いは、思いは変わらない。
「澪ちゃん・・・学年主席である一条澪の前で土下座しろ!澪ちゃんを愚弄したこと絶対に許さない」
「承認する」
『おーっと!春山さんはまさかの皇子に土下座宣言だぁ!一学年主席の一条澪さんと春山さんは小学生からの幼馴染だそうで、彼女に対して皇子が何かしたということなのでしょうか!?』
「僕は何もしてないよ。だから僕の決闘は身の潔白の証明のためさ。春山さん、僕が要求するのは僕に対しての一切の疑いが間違いであったという証明をこの場でする。言いかいつぐみさん?」
「承認しよう」
それは春山家が調べ上げた一切の情報を公開した上で否定すること。
それがどういうことを意味しているのか、会場は一瞬だけ静まり返った事でわかる。
そして最後には、会場の空気を飲み込む様な大歓声が響き渡った。
「一花・・・もし負ければ春山家の情報収集能力が露呈する」
「誤魔化す、できない?」
「誤魔化せないわ。決闘の要求が情報開示系だった場合催眠、催眠によって強制されるのよ。学園長とその息子さんが催眠らしいわ」
催眠による強制は逆らえない。
一時間の催眠により、決闘の要求は履行されてしまうのだ。
「でも澪なら、強制解除するくらい、できる」
「そうね。でもそれは多分バレるわ。蓮華の様な契約者がエネルギーの流れを多分監視しているから」
「なる、ほど。異形の気配するの、その所為」
「学園長がそうらしいわ」
澪は異形はエネルギーを可視化できる特性があると思っている。
蓮華としか異形とのコミュニケーションをとったことないが、それが異形の特性である可能性はかなり高い。
『さて、それでは両者の要求も出揃ったところで、全員カウントダウンに参りましょう!』
「「スリー!」」
「「ツー!!」」
「「ワン!!!」」
『レディーファイッ!』
実況の合図の元、二人の決闘の火ぶたが切って落とされた。