7話
阿部は腕を組んで二人に正座をさせていた。
もちろん正座をしているのは澪と一花だ。
「お前なぁ、なんで八神と決闘することになってんだぁ?」
「これには並々ならぬ事情が・・・」
「知るかぁ!それで一条、その異形はなんだ?」
「蓮華です」
「蓮華って言うんや!よろしゅーな工藤!」
「工藤って誰だよぉ。ていうか蓮華って異形だなんて聞いてねぇぞ?」
「いや阿部に言ってないし」
「こっちはめんどくせぇ仕事してたってのにぃ、お前らは飛んだ疫病神だぁ」
阿部は澪を見つけたとき、面倒ごとが消えると思った矢先にこれで叫んでも仕方がない。
しかし当の本人は人語を喋れる異形を連れてきたり、八神清美に興味を持たれたり、その親友は決闘を申し込むしで、てんてこ舞い。
そもそも阿部が澪と大場の決闘を認証しなければ、清美は澪に近づくことはなかったのだが・・・
「しかもお前を探してた当人は用事があるってぇ言うしよぉ」
「私を探してた?それが阿部の日々の疲れとどう関係あるのよ」
「前から思ってたけどよぉ、お前と大場はぁ俺に対して態度がでかくねぇ?」
「あんたの普段の行いを見直しなさいよ。それで、どう関係あるの?」
「はぁ、まぁいいさ。お前の能力、それを求めている人間がいる。そういえばわかるか?」
澪はやはりバレていたとため息を吐く。
しかしそれは想定内で、蓮華にもそれは話していたからそこまで警戒状態を上げる必要はなかった。
「話の最中にごめんなさいねー。澪ちゃんと一花ちゃん、オレンジジュースでよかったかしら?」
「あ、はい」
「ありがとうございます」
阿部の母親は澪と一花が阿部の生徒と知るや否や、息子の教え子が遊びに来たと張り切りお菓子を手作りで作り上げた。
悲しいことに、入学してからそれなりに会話している阿部よりも物の数分で親しくなってしまっている。
「んだよぉ。お前ら俺よりもお袋になつきやがってぇ」
「あんたと違って信用できる」
「先生みたいのはちょっと生理的に無理って言うか、ごめんなさい」
「一条はともかく春山は酷くねぇ!?」
「なんやー工藤、嫉妬は男の恥やぞ?」
「おい一条ぉ。お前の契約した魔物はぁ、どうしてこんな変な関西弁を喋ってるんだぁ?」
「今日探偵モノ見てたらしいのよ・・・」
「あぁー心中察するぜぇ」
蓮華の侍女みたいな喋り方の流行りは今日で終わり、今は某探偵漫画の関西出身のキャラの喋り方がトレンドだった。
「まぁいいわ。話を戻すけど、私を求めてるってのは私の能力を欲してるってことでいいの?」
「案外自分の能力をあっさりと認めるんだなぁ」
「隠しても意味ないもの」
「へぇ、隠し通すと思っていたが予想外だなぁ。じゃあ聞くがお前の能力は人の能力を強化するってことでいいだろぉ?」
「・・・えぇ」
正確には違うがそれを指摘する必要はない為、澪は少しの沈黙の後に頷いた。
事実ではあるが真実ではないということは、超能力者にはよくあることだった。
「歯切れが悪いなぁ。だがその能力は凄まじいなぁ。よく隠し通せてきたもんだぁ」
「私に近づく人間が少なかったからよ。だからなんとかなったのよ」
「なるほどなぁ。不運だな」
いつもの口調とは違う含みのある笑みを澪に向け、知ってやったりとでも言いだけな表情だ。
しかし腹が立っても手を出さないが澪のモットー。
そう言うのは大体一花が先に手を出すからだった。
案の定阿部は一花の拳を顔面に受ける。
「いってぇなぁ」
「元はと言えばテメェが澪ちゃんの決闘を承認したから起きた不運だろうが!そのニヤケ顔が腹立つんだよあぁ?」
「やっぱ春山家って気が短いねぇ。お前だって一条の能力を知って近づいたぁ。俺と違ってうまくやったんだろうがぁ同じだろぉ?」
「悪いな!私は偶々、親友が能力に目覚めただけだ!テメェとは違げぇ!」
一花と阿部の喧嘩がヒートアップしており、このままでは阿倍の家を壊しかねない勢いだった。
それでは阿部の母に迷惑がかかると思って澪はフォローを入れた。
「あれー?一花私のことスカウトしてなかったー?」
「澪ちゃん!?」
「ふふ、冗談よ。落ち着いた?」
澪が笑うと一花も我に返る。
いくら阿部がムカつくとは言っても、ここで能力を使って家を破壊するのは普段一花が命のやり取りをしている超能力犯罪者達と同じだからだ。
「ふー!気を乱しました。ごめんなさい阿部先生」
「すごいなぁ。肉体強化系の超能力者は感情が高ぶるとコントロールが効かないと思ったけど違うんだぁ。まぁ俺には感情抑制があるから止めたが」
「伊達にレベル1からレベル6まで能力を成長させたわけではないですよ」
「そいつはすげぇ。恐らくだが日本にはレベル6まで能力を上げる様な奴はいねぇぞぉ。誇っていいなぁ」
「ありがとうございます」
「随分距離を感じる返事だなぁ」
「信用はありませんよ」
一花は能力を発動するとき、もしくは感情が高ぶったときに口調が変わる。
しかし教師相手に普段はため口で接するような性格は一花にはない。
ましてや阿倍の様に一回り年下の子供を大人げなく煽る人間は、一花にとって嫌悪を抱く対象にしかならなかった。
「へいへい。んじゃまぁ話を戻すがぁ、その人の能力を強化する能力はレベル7を強化できるか?」
「レベル7を?」
体感上はレベル7の能力を上げることは可能だった。
しかし蓮華はそれを良しとはしない。
「澪、ダメ。レベル7を強化、その人、壊れる」
蓮華の口調が普段のモノに戻っている。
レベル7の強化はそれほどのリスクがあることを示している。
「そうね。阿部、強化をできるとは思う。でも私を求めている人がレベル7で私の能力で強化をすることを願っているなら、蓮華も言った通りそれは難しいわ。超能力のレベルのカテゴリはレベル7までだから仮にレベル8にすると仮定しても、能力の反作用に何が返ってくるかはわからない」
「なるほどなぁ。じゃあ頼む、レベル7を強化してくれないか?」
先ほどの話をまるで聞いていなかったように土下座をし始める阿部に、澪は眉間にしわを寄せて睨みつける。
「話聞いてた?能力によっては反動に身体がもたないかもしれないのよ!」
「今はそんなこと言ってる場合ではないんでなぁ。そいつがフィードバックで死んだり、できなかったとしても、お前を責めたりはしないから安心しろぉ」
「蓮華がぼかしたのに、どうしてそういうこと言うのかしらねぇ」
阿部は簡単に言うが澪も簡単には頷けなかった。
万が一そのレベル7が亡くなった場合澪は酷いトラウマを植え付けるということを、阿部は気づいていない。
責めなかったりしたとしても、超能力で人を殺したりしたことに代わりはないのだから。
「人の命がかかってるんだ!頼む」
「命が?」
「お前に会わせようとしたのはレベル7の治癒能力者」
レベル7の治癒能力者は日本にいて知らないものは誰もいない。
それほど有名な人物だからだった。
何か重大なことに巻き込まれていると二人は息を呑んだ。