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4話

 待合室に戻ると、一花は青い顔した澪を心配して駆け寄る。


「どうしたの澪ちゃん!?」


「な、なんでもない・・・」


「澪ちゃんがそんな顔するなんて只事じゃないよ!?」


 中継で闘技場を見ていた一花には、中継に映っていなかった阿部の笑みには気づけなかった。

 特に震えてる様子はないので、澪が怖がってるわけではない為ほっと胸をなでおろす一花。


「何があったの?私にも言えないこと?」


「ううん。ただ阿部が、不気味な笑みを私に向けてたのよ・・・ただそれだけ」


「不気味な笑み・・・」


 澪は阿部についてあまり知らない。

 一花以外の人間に対してあまり興味を持ってこなかった澪は、学園の人間ほとんどの情報がなかった。


「阿部先生は超能力至上主義の人間なの。だから今回、澪ちゃんの主席としての株を落とすのが目的だと思ってたけど、まさか本当の狙いは澪ちゃんの能力を見ることだったのかも・・・」


「嘘!?でも私、バレないように能力を使ったはずよ!?」


「澪ちゃんの能力を知ってる私は気づけた。能力はわからずとも澪ちゃんに目を付けていたなら、あの異変は失敗ではなく澪ちゃんがやったと思うよ多分」


「ど、どうしよう一花ぁ」


 澪は一花よりも頭がいいが、一花の前では気が緩み本音が出たり慌てて混乱してしまう。

 一花もそれは悪い気はしていない。


「落ち着いて澪ちゃん。流石にあれだけで澪ちゃん能力が割れるってことはないと思うの。それに阿部先生が悪い先生とは限らないよ」


「う、うん・・・そうよね」


「もし、澪ちゃんの能力に興味があるなら必ず呼び出しがあると思う」


「じゃあその時に私が上手く誤魔化すわ!」


「ううん、それも大事だけど一番は阿部先生の目的が知りたいの。澪ちゃん、それとなく聞き出せるかな?」


「無理無理無理。あの顔背筋がゾクってしたのよ。あれと対峙する自信がないわ」


 担任ですら変わってほしいというくらいには、生理的に受け付けないような表情をしていたのだ。

 澪にとってそれはストーカーに追われるような感覚に近かった。

 一花的には、阿倍の人となりを見極めたかったのだが、澪がここまで拒否反応を示すのも珍しいため諦めた。


「ゾクッとしたとか酷いなぁ」


「え?」


「阿部先生!?ここ待合室だけど女子用だよ!?何入ってきてるの!?」


「え、知らなかったのかぁ?俺は女だぞぉ?」


 阿部のその言葉に、一花はハッとする。

 確かに阿部は一度も自分のことを男とは言っていない。

 どうみても男の教師だが、実は女性だったとなればこちらが失礼な対応をとったと謝らなければいけなかった。


「体は男だがぁ、心は女性だからなぁ」


「阿部先生それは十分事案・・・因みにブツはとったんですか?」


「生殖機能は健在だぁ」


 阿部がそう言うと、踏みとどまっていた頭の中で、張りつめていた理性が爆発した。

 一花はすぐに携帯を取り出し、110の番号に電話をかけようとする。


「警察!警察に連絡しないと!」


「警察が来てからじゃ間に合わないわ!一花、私が援護する!阿部を亡き者に!」


「そ、そうだね!早くこの変態を殺さないと」


 澪は昔から一花の超能力を強化して遊んでいた。

 それ故に、成長したレベル6の一花に対して能力を使ってもレベル7以上の強化でも完全な制御が可能だった。


「二人とも落ち着けぇ。ジョークに決まってんだろぉ。それにここは更衣室じゃないから男性の立ち入りは禁止されてねぇ」


「だからって入ってきていいとも思えません!」


「悪かった悪かったぁ。俺もお前らに話があって、ここくらいでしか会う約束ができねぇと思ってよぉ。放課後、お前ら二人俺の家に来いよぉ」


「え、私達二人を連れ込んであんなことやこんなことをする気!?なんて破廉恥なのよ!一花、殺ろう!」


「そうだね!澪ちゃんの貞操は私が守る!私、手加減はできませんから!覚悟してください!」


「お前ら思春期だからそういうことにも興味あるだろうがぁ、一旦は落ち着けぇ。話があるっつってんだろぉ!」


 二人とも冷静ではなかった。

 落ち着きを取り戻さなければ、話もできない状況だった。

 

「はぁ、落ち着けぇ」


 なので阿部は能力を使い二人を落ち着ける。

 阿部の能力は感情抑制(メンタルフォーゼ)、感情の起伏をある程度操る能力で相手を落ち着かせたりする超能力である。

 

「これは感情抑制(メンタルフォーゼ)!?しかもこれはレベルが高いわ。阿部ってそんな超能力持ってたの!?」


「レベル6の感情抑制(メンタルフォーゼ)だぁ。ただ一般的な異形と戦える能力はないからなぁ。それにサイコメトラーやテレパスみてぇな感覚能力者と違って、感情を持たない異形には効果を発揮しないから教師をやってるってわけだぁ」


「澪ちゃん油断しないで。これは相手を強制的に油断させる能力だよ!超能力犯罪組織の多くがこの能力を保有してた!」


「ひでぇ偏見だなぁ。一条、お前はぁそう言った偏見が嫌いだよなぁ?」


「・・・」


 澪は答えられなかった。

 一花が警戒しているということはそれほどの相手なのだろうと頭で理解しているが、澪は反超能力団体であるノアの箱舟を両親に持つからとこいつもそうなんじゃないかと、偏見で人との距離を置かれた身。

 だからこそ偏見で相手を見るわけにはいかず、けれどそんな中自分と距離を置かないでくれた一花を信じたい気持ちがぶつかり合い、そのまま泣いてしまった。


「どうして泣くんだぁ!?」


「ごめん澪ちゃん!澪ちゃんの気持ちを考えてもう少し言葉を選ぶべきだった!」


 一花は即座に澪の気持ちを察して抱き着いた。

 澪は嗚咽を吐きながら一花に抱き着いて涙を拭う。


「ごめん阿部。私は偏見の目で貴方を見ないけど、一花の言う事のが一番私は信じられるの。こんなに一花に警戒を抱かせたのも私だし。だから貴方への警戒は解けない」


「あー、そうだなぁ。俺もダチと同じ立場の他人の言葉、信じるならダチだわなぁ」


「一つだけ聞かせてください」


「なんだぁ春山ぁ」


「なんで澪ちゃんのことを見て、不気味な笑みを浮かべたんですか?」


「不気味な笑み・・・まさかお前らが俺を警戒してるのってぇ・・・それかぁ!?」


 阿部は思ってもみなかった理由に顔を青くしたあと、頭を掻きむしりため息を吐く。


「日々の疲れに開放されると思ったらつい一条を見ちまったんだぁ。悪いなぁ」


「日々の疲れ?」


「悪いが詳しいことはこの学園では言えねぇ。だが勘違いしないでくれぇ、あれは一条に下心があったわけじゃねぇってことを」


「それ相応の理由があったと・・・澪ちゃん!蓮華ちゃんを連れてなら彼の家に行ってもいいかも」


「え、一花!?」


「澪ちゃんもこの話は気になるでしょ?私も気になるもん。だから行って確かめようよ」


「でも一花は阿部を・・・疑ってるのよね?」


「情報収集が大事だし。それに澪ちゃんと蓮華ちゃんと私のコンビに先生がどうにかできるとは思えないしね!そういうことだから阿部先生、放課後先生の家にお邪魔してもいいですか?」


 一花は澪の承諾を待つ前に阿部に宣言する。

 澪の考えは幼い時から一緒にいる一花には手を取るようにわかる。

 本当は澪が阿部のことを信じてみたがっているということを。

 ならば親友の私がそれに応えないでどうすると、一花は息巻いていた。


「不穏な言葉が聞こえたがぁ、交渉は成立ってことでいいのかぁ?」


「えぇ!聞いていた通り()()()()追加で良いわよね?」


「構わねぇ。俺は実家暮らしだぁ」


「お母さんいるんですか?」


「今日はいるなぁ」


「なぁんだ。だったら破廉恥なことは警戒しなくてよかったじゃん」


 頭の後ろで腕を組んで、警戒を緩める一花。

 そしてその様子に息を吐く澪だったが、緊張が切れたのか思わず言葉を漏らしてしまった。


「こどおじ・・・」


「聞こえてんぞ一条ぉ。んじゃま、戻るかぁ。よかったな春山ぁ、今日から大馬鹿に絡まれずに済むぜぇ?」


 澪は慌てて謝り、一花はサムズアップを決めていた。


「先生、そこはナイスグッジョブです。澪ちゃんに酷いこと言うあいつ嫌いだったし」


「・・・大馬鹿の奴、報われねぇな」


 大場の心情を思ってかぼそりと呟いたそれは、一花の耳に届くことはなかった。

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