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2話

 澪にとって学校は数少ない気の抜ける場所だった。

 それは親にいないモノとして扱われる家庭環境の所為でもあるが何よりも理由がある。


「澪ちゃんおはよー」


「一花ぁ」


 春川一花は澪の小学校からの親友で、幼い時から澪の家庭環境を知ってなお仲良くしてくれる一人。

 澪は小学校に入ったとき、両親がノアの箱舟の関係者と知るや否や超能力者は距離を取り、ノアの箱舟関係者の子供は超能力者である澪から距離を取り、見事に孤立してしまった。

 そんな中、ただ一人だけ澪と距離をおかずに付き合いを続けたのが一花だった。


「蓮華が酷いの。一人で漫画の立ち読みをしてるって」


「蓮華ちゃん最近どっかの侍女っぽい話し方してたのはその所為?」


 澪は一花には蓮華のことを話しており、時折一花も蓮華の世話をしていたりした。

 最初は驚いた一花だったが、今は蓮華のことを澪と同じくらい親しい友と思っていた。


「あれって侍女の真似だったんだ。私、漫画読む暇ないからあんまり知らないの」


「澪ちゃんは学年主席だもんね。でもキツいなら辞めちゃえば?」


 澪が通う白蓮学園は全国の名門と呼ばれ、入学する生徒達は全員優秀だった。

 更に国立超能力育成学校と呼ばれる側面もあり、白蓮学園は生徒全てが超能力者である。

 超能力が発現した生徒はこの学園を受験する義務があり、学年で成績優秀な10名だけが学費を免除される。

 澪もその一人だった。

 

「ここ、超能力者の学校なのよ?あの両親が学費を出してくれるとは思えないわ」


「アハハ澪ちゃんはおかしなこと言うね!そもそもあの()()達が澪ちゃんの為に学費出してくれるわけないじゃーん!」


 一花は澪の家庭事情をすべて知っており、たまに澪が一花に愚痴を溢すこともあった。

 それゆえに普段温厚な一花の澪の両親への評価はかなり酷い。


「うちで雇うよ?」


「やめとくー」


 一花の家、春川家は異形と戦う組織シュメールとは別の組合であり街の自警を担っていた。

 白蓮学園に一花が入学をしたのも、将来の従業員をスカウトするためである。

 そんな一花と離れたくない澪は目立ちたくないと言うのに、勉学で主席を取り入学を果たしたものの、春川家に雇われるのは澪としてはあまり乗り気じゃなかった。

 

「一花の両親が許さないでしょ、ノアの箱舟を両親に持つ低レベルの超能力者なんて」


「大丈夫、私が二人を説得するから!」


 一花の両親と澪の折り合いは悪い。

 澪が低レベル超能力者と言うだけでもあまり好ましくないのに、ノアの箱舟関係者となれば大事な跡取り娘を近づけさせるのも嫌なのは仕方ないと澪は思っていた。

 しかしそれを黙らせたのが一花だった。


「春川さん、そんな奴、春川家に入れても毒にも薬にもならないぜ?俺なんかどうよ?」


「あ?今更雑魚に興味ねぇんだよ。空っぽなのは能力だけにしとけ素っ頓狂が!」


「へ?ぐほぉおおお」


 話しかけてきた男子生徒は一花の下からのアッパーを思い切り食らって吹き飛ぶ。

 一花はかなり気が強く、そんな一花に合った超能力を発現させていた。

 肉体強化(パワーフィスト)はその名の通り自分の身体能力を底上げする超能力。

 超能力のレベル事に倍率は異なり、大体がレベル+1の倍数、レベル1なら2倍ほど強化される。

 そして一花の 肉体強化(パワーフィスト)はレベル6。

 強化値は驚異の7倍であり、日本で肉体強化(パワーフィスト)の能力者に彼女を超えるレベルの能力者は存在しなかった。

 

「鉄拳制裁!」


「わぁ!一花かっこいいー」


「でっしょー?」


 その能力高さ故に一花の春川家での発言力は強く、春川家では一花の両親よりも一花のいうことを聞く人間のが多かった。

 それもそのはずで、一花は元々レベル1の肉体強化(パワーフィスト)の能力者だった。

 しかし努力の末に超能力のレベルを上げていき、最終的に今のレベル6へと花開いた。

 

「おじいちゃんやバカ親父の同級生達はもっと強いんだけどねー。私より能力のレベルは低いのにおかしいよ」


「経験に基づく実力じゃないかしら?」


「能力の使い方よ、そこのえーっと誰だっけ・・・?」


「大馬鹿くん」


「そうそう大馬鹿くん」


「大場だ・・・」


 先ほど一花に吹き飛ばされた男は顎を抑えながら立ち上がる。

 彼の名前は大場大貴で、事あるごとに澪を煽ってはそれをよく思わない一花が毎度吹き飛ばしている男だった。


「同級生の名前くらいちゃんと覚えてくれよ」


「大馬鹿くん、能力は高いけど話にならないほど弱いじゃん?私に吹き飛ばされるくらいだし」


「話聞けよ!」


 大場を無視しつつ、ちゃっかり大馬鹿呼びは訂正してない一花。

 彼の能力は念視分析(サイコメトリー)でレベル5。

 念視分析(サイコメトリー)は生物や物体の残留思念などから分析する能力であり、思考の伝達が可能な精神感応(テレパシー)と並び、肉弾戦は相手には有利を取れる能力だった。


「こんなんでもうちのクラスは私の次にレベルが高いのは大馬鹿くんなのよ?不作もいいところだわ」


「不作!?このクラスで最も能力が弱くてレベルが低いそこの落ちこぼれよりも俺の方が春山家の役に立つだろうが!」


念視分析(サイコメトリー)って肉弾戦有利なのに吹っ飛ばされてる貴方を入れるメリットはないよ。どうしてこうも不作なのかしら」


 アドバンテージがあるにも拘わらず殴り飛ばされた。

 それは能力が高いといえど、宝の持ち腐れに他ならなかった。


「ま、澪ちゃんがこの学校に来てくれただけで私は満足だけどね」


「私もだよ一花ぁ!」


 澪は一花に抱き着き、一花は澪を抱きしめる。

 超能力のレベルが低い澪が学年主席となっているのに文句が出ないのは、この二人の親密な仲も関係している。


「ちっ、おい一条!」


「なに?」


「お前に、決闘を申し込む!」


 大場は澪に向かって手袋を投げつけた。

 澪はそれを拾わず一花に抱き着いたまま大場を見ようとしない。


「おい、拾え!」


「いやよ。なんで私があんたと決闘しないといけないの?」


 決闘とは超能力育成学校であるこの学校の制度であり、超能力を使って戦う競技だった。

 決闘を行った者達で勝利者は相手に一つ命令できた。

 もちろん生徒間での無理難題を言えるわけではなく、掃除当番を変わるノートを貸すなど生徒間での常識の範囲の命令しかできない。


「俺のプライドをずたぼろにした!」


「あっそ!私にはどうでもいいわ!あんたも知ってるでしょ、私は学年主席だけど序列は高くないの」


 この学園には成績の他に順位を決める序列があり、序列は超能力による戦闘力の高さを評価される。

 そしてその序列の順位を上げるのが決闘制度だった。

 決闘は序列が低いほうが基本的に拒否権があり、入学してから一度も決闘をしていない澪の順位は最下位に位置付けられてた。

 対して大場の順位は35位。

 全校生徒1000人の中で35位はかなり高い方と言える。

 

「だから嫌!拒否ー」


「テメェ!」


「ほい、席に着け。朝礼やんぞぉ」


 担任の教師が入って来たところで会話は終わる、はずだった。

 

「話は聞いたぞぉーおおばk・・・大場!」


「今、大馬鹿って言おうとしたろ阿部!」


「可愛い生徒にんなこと言うわけねぇだろぉ?それよりもだぁ!大馬鹿と一条の決闘、みてぇやつは手ぇあげろぉ!」


 そういうとクラスのほぼ全員が手を上げていた。

 澪はため息が出そうになるのを堪える。

 この担任阿部剛は人を焚き付けるのがかなり上手い。


「学年主席の実力見てみてぇ!」


「俺も俺も!」


「春山さんが一目を置く澪さんだもの!きっとすごい試合が見れるに違いないわ!」


「だよなぁみんなぁ。春山の名誉のためにも、一番仲の良い一条がこれを断るわけ、ねぇよなぁ!?」


 今ここで澪が決闘を拒否しても問題はない。、

 しかしこれだけ盛り上がってしまう中拒否すればクラスでの過ごしにくさは不可避になることだろう。

 澪自身は昔から他人に何かを期待するということあまりないのでそうなっても良いと考えたが、澪の親友である一花も巻き込まれる可能性があった。

 それは春山家の知名度だ。

 この学校から春山家に就職している人間もいる。

 異形の処理ともなればこの学校の生徒から雇うしかないからだ。

 いくら国から資金提供を受けているとはいえ、澪が原因で一花の名誉が傷つくとなれば澪も黙ってはいられない。


「このクソ教師」


「あんま褒めんなよぉ、照れるぜぇ?」


「受けてやるわよ大馬鹿!」


「大場だ!俺のプライドを取り戻す」


 憂鬱な気持ちから、ため息が漏れ出た澪はクラスメイト共に校内決闘場へと足を運んだ。

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