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1話

 世界は異形で溢れてしまった。

 この世はもうおしまいだ。

 そう書かれている本をそっと少女は閉じる。


「その異形って私みたいなのを言うのかしら?」


 澪は超能力を持って生まれた。

 両親は超能力を持たず、一つ上の姉である瑞希のことをそれはもうかわいがっている。

 その反面、澪は居ないものとして扱われた。

 それは両親は超能力者を人に化けた異形と認識していたからだった。


「あんな両親でも感謝はしてるのよ。子供は庇護がないと生きてはいけない」


 しかし生まれてから家族にいないものとして扱われるのは、幼い頃の澪には耐えがたいモノだった。

 幸か不幸か、澪の家の一条家は乳母を雇えるくらいの金はあり、世話をしてくれ最低限の食事は与えられた。

 しかしそれ以外の何も与えられることはなかった。

 同年代の子供が楽しむようなおもちゃも、思い出も、親の無償の愛も、人権すらも。


「そろそろ登校する時間ね。沙苗さんにいってきます言わないと」


 沙苗と言うのは澪の乳母で母親の代わりのような人間だった。

 澪が10歳になったとき、沙苗は亡くなった。

 遺体の損傷から異形の仕業だとすぐにわかった。

 異形は超能力者で構成される国家組織シュメールが対処に当たっているためほとんど遭遇することはない。

 21世紀に入ってからの異形の被害数は二桁にも満たなかった。

 しかしそんな中で異形は対処に当たっていた超能力部隊が逃してしまい運悪く沙苗の元にたどり着いてしまった。

 その部隊を反超能力者団体ノアの箱舟と呼ばれる組織が邪魔していたからだった。

 反能力者団体ノアの箱舟は超能力者を人間と思っておらず、超能力を使用した人間に対してありとあらゆる手を使い邪魔をしており、時には武装集団が超能力者の邪魔をしていた。

 異形に殺されてしまうことも生物の弱肉強食論的には仕方のないことだと、ノアの箱舟は主張している。


「沙苗さん、行ってきます」


 澪は自分の使用している小部屋から出るとリビングで両親がノアの箱舟の代表演説をテレビで見ているのが見えた。

 それは澪の両親もまた、ノアの箱舟に所属してるからだった。


「我々は今、超能力者の庇護下にある。しかし我々弱者は能力など必要はしない。我々には知恵がある!普通の知恵ある人間が人類を、人々を救うのだ。超能力者に決して遅れを取るような事はない」


 その演説を見て、心底軽蔑の念を抱かずには入れなかった。


「何が人々を救うよ。そのために異形の対処を邪魔して被害を出して。ただの人殺しじゃない」


 両親にも聞こえるように言うが、両親はピクリとも動かない。

 居ないような人間と認識しているからに他ならなかった。


「あいつら、澪が居なければ殺してやりたいところですわ」


「そんなのどうでもいいわ蓮華。あの人達のこと考えても仕方ないし早く学校に行かないと」


 蓮華とは澪が契約を結んだ異形だった。

 異形には三種類おり、人類が脅威と定めている知能を持たない化け物、知能を持つ人の姿をしていないモノ、そして獣の特徴である何かを持つ人型の三種類がいる。

 そんな蓮華は小さな熊の見た目の姿をしたメスの異形だった。

 沙苗が亡くなり、葬式の後雨に濡れながら家に帰る中、道端で弱っている子熊を見つけコッソリ家で世話をしたのが二人の出会いである。

 澪は蓮華と名付け大事に育て、澪が中学を卒業する頃に言葉を発するようになり知性のある異形だと気付いて契約を結んだ。

 7年もの間大事に育てた蓮華を親友の様に思っていて、二人の仲はかなり良好だった。

 そして今は、学校にお供として蓮華を連れて行っていた。

 蓮華は探知能力に長けており、負の感情を持っている人間や異形の気配を索敵することができた。


「澪、前の方に異形の気配がします」


「本当?今月は多いわね。もう15体くらい処理してるわよシュメールもどうなってんのよ!」


「澪の気配は心地がいいので寄ってきているのかもしれないです」


 澪は超能力がとても強力であった。

 それ故に、力の波を受けて異形が寄ってきていると推察はできるが、異形は出現場所が決まっているため、24時間交代で見張られていた。

 その防御網を抜けてしまった個体を警備隊が処理し、それすらも抜けてしまった個体が超能力者の発する能力の波に寄られてやってくる。


「ここ数日は強い個体も増えてきてるのよ」


 そう言いながら澪は足元の石を手に取り、異形に投げつける。

 投げつける石はおおよそ人間が投げたものではないほど加速する。

 超能力、超加速(ルシュ)により石は弾丸よりも加速させた石が異形を貫いた。


「すごい、さすが澪です。貫いた瞬間に能力が消失しました。制御はお手の物ですね」


「ふふっ、後ろの建物が万が一倒壊しても嫌だもの。でもありがと。シュメールが来たら面倒だから早く行きましょう」


 澪は自分の力が、他の超能力者より尖ってることを自覚しており、シュメールにそのことがバレると身柄を拘束され異形の対処をさせられることがわかっていた。

 そんな面倒ごとを澪は引き受ける気はなかった。

 シュメールはノアの箱舟の家庭に生まれた超能力者をシュメールは助けていた。

 しかし澪は助けられてはいなかった。

 様々な理由はあるが、一番の要因は超能力が即戦力ではなかったことが原因だと澪と蓮華は結論づけた。


「それにしてもシュメールも見る目がありませんね。澪をあの家から助け出していれば、澪が力を貸していたかもしれないというのに」


「そんなことないと思うわよ?」


「いいえ!澪の能力はこの世界のバランスを砕く能力。だから蓮華は助かったのですよ!?」


「そうね、それは私にとって一番の幸福よ。それにしても世界のバランスを砕く力ってあんた、うち漫画とか置いてないのにどっからそんな言葉仕入れてくるのよ。」


「昼間に澪が学校で授業をしている間、中古店の本屋で読んでおります」


「一人でずるい!最近のその変なしゃべり方もどうせ漫画の影響でしょ!?姿は隠してるよね!?」


「そんなことはありませんよ?姿はちゃんと隠していますよ」


 自身で発動しやすい超能力を適合能力として測定し数値化することが現代できるようになり、3歳にの物心がつくくらいの頃に超能力測定装置で能力を測定する。

 能力値は7段階の評価基準があり、澪が出したのは念臭(クレアセント)レベル1だった。

 匂いを人より少し強く感じるだけの能力。

 そのため澪は両親から虐待されることもなく、見向きもされなかった。

 しかし実際のところは普段の澪に適性があるのが()()()()念臭(クレアセント)だけだったのだが、それは測定器で判明することはなかった。

 なにか強力な超能力や高レベルだと判明していたら、ノアの箱舟に所属している両親は間違いなく澪を虐待していただろう。

 それほどノアの箱舟と超能力者との関係は根深い。

 そのため澪は自立するまではシュメールにも蓮華が褒める能力を知られるわけにはいかなかった。


「今度は私もいくからなんかオススメの本教えてよ」


「いいですよ!蓮華は読み込んで居ますからね」


 敬称が抜けていたり、自分のことを名前で呼ぶのが幼さを残しているがそこを指摘するのは大人気と思い澪は何も言わなかった。

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