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第14話 陽子Side その2

 画面には事務所の女マネージャーの名前が表示されていた。


「もしもし」


 すぐにスワイプさせて電話をとる。


 実は陽子は、女マネージャーにエデンの素性を調べてもらっていた。

 どうやらその件での連絡だったらしい。

 

「え、判明した? 本当ですの!?」

 

 思わずアンティークチェアから立ち上がる陽子。

 女マネージャーの口からある男の名前が告げられる。


「国崎、優太・・・?」


「はい。どうやらそれが本名のようです」


 丁寧にも女マネージャーは、彼が住んでいる住所まで調べ上げていた。

 

 ダンジョンに入るには、〝探索者〟として探索者クランに個人情報を登録する必要があると法律で定められていて。


 大手ダンチューバー事務所のいちじよじは、探索者クランと横の繋がりがあるため、彼女はエデンの素性を調べることができたようだ。


「チャンネルアイコンのこの方で間違いないんですよね?」


「ええ、忘れもしませんわ。この殿方がわたくしを助けてくださったんですの」


「そうですか。でしたらこちらの情報で間違いないです」


「感謝いたしますわ、桃井さん」


「本当はあまりこういうことはしたくなかったのですが・・・。陽子さん、どうするんです? 住所まで調べてほしいなんて」


「心配なさらないでください。悪いことには使いませんから。直接お礼をお伝えしに行くだけですわ」


「これ以上、騒ぎが大きくなるようなことは避けてくださいね。上司に知られたら、私も庇いきれませんので・・・」


「もちろんですわ」




 と、そのとき。


 コンコン。


「陽子。いるか?」


 ドアがノックされる。


 相手は父親だ。

 陽子は女マネージャーに断りを入れて電話を切ると、衣服を整えてからドアを開けた。


「お父さま。なにかご用かしら?」


「とっくにディナーの時間を過ぎてるぞ。なぜ降りてこない?」


「色々と調べものをしておりましたの」


「フン・・・。またダンジョンか」


「問題でも?」


「そんな野蛮なものにハマりおって」


「はい?」


「もう危ないからダンジョンに入るのはやめたらどうだ?」


「お父さまには関係ありませんわ」


「関係ないわけがないだろう。お前にはゆくゆく会長の座を継いでもらいたいと思ってるんだぞ」


「またその話ですか」


「学生時代の貴重な青春をくだらないことに費やすのはもうやめろ。ましてや事務所なんかに所属して。お前がそんなことをする必要があるのか?」


「その件については散々話し合ったはずですわ。ダンジョンはわたくしが一番自分らしくいられる場所なんですの。それに応援してくださるファンの方もたくさんおりますわ」


「面白がられてるだけだ」


「もうっ。お父さまはいつも話がわかりませんこと。出て行ってくださいませ!」


「お、おい・・・陽子っ!」




 バタン!


 ドアを閉めて鍵をかける。

 

(お父さま・・・。どうしてわかってくださらないんですの?)


 父親が案じているのは自分の身じゃない。

 そのことを陽子は見抜いていた。


 なにか問題が起これば、大企業の看板に傷をつけかねない。

 それが父親の気がかりなのだ。


(会社なんて正直どうでもいいですわ)


 なにも望んで大企業の令嬢として生まれたわけではない。

 

 これまで堅苦しい生活を送らされてきた陽子にとって。

 ダンジョンは自分が自分らしくいられる唯一の場所だった。


 それだけは、ぜったいに奪われたくない。


(愛知県T市・・・。新幹線を使えば、午後からでも十分間に合いますわね。国崎優太さま、今度こそちゃんとお礼をお伝えさせていただきますわ)

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