第10話 自宅 その1
「お帰りなさいませ。お兄さま」
妹が部屋まで来て出迎えてくれる。
「ただいま。ごめん、ちょっと遅くなったよ」
「いえ。今日はだいぶお早いです」
紫月は制服姿だった。
半袖のブラウスに桃色のリボン、ピンクのスカートと黒タイツ。
中学の夏服だ。
寝間着から着替えたっぽいな。
「夕食をご用意してます」
廊下越しからリビングを覗くと。
テーブルに並ぶ豪勢な夕食が目に入る。
黒毛和牛のステーキにトマトのアラビアータ、エビフライ。
レモンとチーズのアスパラサラダ、揚げだし麻婆豆腐とアボカドサーモン。
あいかわらず手がめちゃくちゃ込んでる。
量はいつにも増して多そうだ。
「美味しそうだね」
「本日はお兄さまのお好きなメニューをたくさんご用意しました」
「ありがとう。さっそくいただくよ」
手を洗うため、一度洗面所へ向かう。
(ほんとよくできた妹だよな)
我ながら感心する。
料理だけじゃなく紫月は容姿も抜群で。
先端が切り揃えられた美しい銀色の長い髪と、黒のカチューシャ。
整った顔立ちに大きな瞳。
右目の下にある泣きぼくろがチャームポイントだ。
華奢だけど、重いものを簡単に持ち上げたり、握力もあったり。
そんな意外な一面もあったりして。
シスコンってわけじゃなけど、かなりの美少女だと思う。
自宅で一緒に暮らしてると気づきにくいんだけどね。
手を洗い終えてリビングへ入り、テーブルにつく。
「それじゃいただきます」
手を合わせて晩ごはんを食べはじめる。
うん。
いつもながら本当に美味い。
「それにしてもお兄さま。本日の配信はどうしちゃったんでしょうか? あんなに大勢のリスナーが見に来られたなんて」
「もぐもぐ・・・。なんでなんだろう?」
あのあと。
地下14階に到達すると。
門限の都合でこの日の配信はいったん切り上げることになった。
同接数は最終的に215人まで伸びて。
正直びっくりだ。
「心当たりはございませんか?」
「とくに」
これといって普段の配信と変わったことはしてない。
ダンジョンに潜って、いつものように最下層まで到達しただけで。
SNSはやってないから。
宣伝も一切してないし。
それにしてもこのアラビアータほんと美味いなぁ・・・もぐもぐ。
そのとき。
紫月が手をぽんと叩いて顔をハッとさせた。
「そうです、お兄さま」