前世の記憶が蘇ったから浮気をしたと。あら、わたくしにも前世の記憶がありますのよ
ホラーです(人怖のほう)
タイトルが紛らわしいですが現代が舞台です。
恋人のヒロに私の親友との浮気を追求すると、真面目な表情で理由を話し始めた。その驚くべき内容に、私は少し頭を整理してからおもむろに口を開く。
「えっと、話をまとめると、ヒロの前世は異世界人で、ヒロゲーターという名のハーレムの主だったと。頭打って記憶が蘇って? そのとき偶然近くにいた私の親友が偶然ハーレムメンバーに似ていたから押し倒してしまったということで間違いない?」
ヒロは深く頷く。
「そんなことあるんだね」
返事が思ったよりそっけないものだったからか、ヒロが慌てて私の手を取る。
「だから不可抗力だったんだ。俺が愛してるのは世羅だけだから! 別れるなんて言わないで欲しい!」
私はそっとヒロの手をはずし、小さく頷く。ヒロが私の頷きが了承の意味だと思ったのか、ホッとしたような表情を見せた。
「…………話はわかりましたわ。不可抗力……そうでしょうね。前世の記憶に引きずられて抗えない気持ちは理解できますわ。実はわたくしも異世界で貴族の令嬢だった記憶がありますの。今と同じように婚約者に浮気をされまして、逆上してナイフで滅多刺しにしましたわ。話がそれましたね。そう、世羅さまはあなたをまだ愛しているから許すかもしれませんね。でもわたくしはどうかしら。無意識に殺してしまうかも。でもしょうがないですわよね。不可抗力なこともありますもの」
「……世羅? おまえ、変だぞ。ごめん。冗談だって。前世なんて嘘なんだ。ふざけた訳じゃない。じ、実はこれは由香が考えた言い訳で。由香も世羅を傷つけたくないからって。これなら世羅に振られないって言葉を信じた俺が馬鹿だった。俺は世羅だけを愛してる! 由香とは二度と会わないっ」
「ふふ、そのように慌てなくてもわたくしも冗談でしてよ? 前世なんてあるわけないでしょう?」
「待て、悪かったって。それ、手に持ってるやつ、戻せって。あ、そうだ、結婚! 結婚しよう。そう、そんなものしまって。世羅、一生君だけを愛すると誓う」
「世羅さまは、その言葉をずっと待っていましたわ。でもわたくしはセイラですの。タッチの差でしたわね」
「う、うわああああっ」
ヒロが腰を抜かし後ずさる。
「一度でも壁を越えたら二度目は躊躇しなくなるものね。それは浮気も殺人も同じなのかしら。抵抗がなくなるからでしょうか。あら、漏らしてしまったのですか。怖がらせるつもりはなかったのですが」
「こ、殺さないで、助けてっ!」
「もちろん、そんなことしませんわ。でもひとつお願いがありまして、聞いてくださる? まぁ、何も言わないうちから頷いて大丈夫ですか? お願いというのは、わたくし人を殺してしまって、ええ、由香さまです。あなたに罪を被ってもらいたいのですが」
♢
――まさかあんな嘘を信じると思わなかった……嘘をつくなら最後まで突き通すのは基本でしょうに。でもいつまでもこんなふうに自由ではいられないかも。だったらそれまでは好きなことをした方がいいよね。でも次はちゃんと考えて行動しよう。そうと決まればいなくなってもわからない人を探そうっと。
読んでいただきありがとうございました。
殺人鬼が目覚めてしまった話でした。