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本人不在で婚姻が締結されていましたが、何か?

 僕が神聖国の神の家の男子寮、通称「東宮」に入って5年が過ぎた頃、おやじがミルからの手紙を持ってきた。


 おやじはそれまでもちょいちょい僕の顔を見に来て、ミルの近況を教えてくれた。


 将来、市井で暮らせるようにアンに料理を習い始めたとか、

「ジョンがマロングラッセとモンブランが気に入った」とリーズのおばあ様宛の手紙に書いたらコンテナいっぱいの栗が送られてきて困ってるとか、

妹のユージェと仲良くなりすぎてユージェが神の家に入るのをいやがり始めたとか、

神官試験に受かったとか、

ミルは全く運動しないんだがこれ普通の状態か? とか……



 他にも手作りの食べ物を差し入れされることがちょいちょいあったけど、手紙を受け取るのは初めてだった。


 何事かと思ってその場で開けて読んでみたら、いかにもミルらしいシンプルな内容だった。



「わたくしの王子様、ジョナサン


 わたくしは王女としてお嫁に行くことになりましたので、皇子として迎えに来てください


 あなたのミルドレッド」



 ん?

 どこに行くつもり?

 皇子としてだから、神聖国の皇子として迎えに行けばいいんだよね?

 で、どこに?



 混乱していたら、ピーターバラから生みの両親が面会に来て「ジョナサン王子とミルドレッド王女の婚姻が締結されたので帰って来なさい」と言われた。


 は?

 ミルに「皇子」って言われてるから、「王子」はちょっと……


 とりあえず、おやじに相談させてくださいと言って、一旦は追い返した。



 おやじは「市井で暮らすつもりで神聖国に来たのにパブに行ったことがないのはおかしいだろう?」と言って、僕を酒場に連れ出した。


 まだ15才だから、おかしくないだろう?

 何言ってんだか。


 おやじは、僕を神の家に戻すつもりはないらしい。

 ここで飲んじゃったら、破門されて戻れないからね。

 神官としてクビになるわけじゃないけど、神の家には戻れない、そんなルールなんだ。



「結婚おめでとう!」


「あ、ありがとう。なぁ。おやじ。婚姻って本人ナシで締結できないハズだよね?」


 祝われると、照れるものだな。


「君たちが16才になって成人したら、ね。婚姻を成立させられるものが本人の署名だけになる。だからこそ血統的な親が干渉できる15才の今なんじゃない?」


 確かに国際法では血統的な親が子供の戸籍に干渉することができる。

 一番多い用途は、幼い頃に養子に出すとか?

 親が子供を結婚させることもなくはないけど、僕たちは既に亡命したのにそれでも血統的な親が干渉できるの?


「は? なんなのその屁理屈?」


「本人の署名なく血統書が結ばれた婚姻は、担当した神官に異議を申し立てれば無かったことに出来るよ」


「そうなの? じゃぁ、担当神官が誰なのか調べないと。ミルは知ってるかな?」


「調べるまでもないよ。ミルドレッド姫のご指名で私が血統書を結んだよ。『ジョナサンが嫌だったらその場でパパに言えばいいし』って」


 あの朴念仁め。

 ミルらしいと言えば、ミルらしい。

 ミルは様式美は気にしないが、僕が気にするのを知ってるから、そんな風に言ったんだろう。


 というか、婚姻の締結みたいな下級神官の仕事を皇王聖下にお願いするって、贅沢すぎるな。

 流石、魔王の娘。



「おやじ? なんでそんな仕事受けたの?」


「かわいい子供たちの婚姻だよ? 他人任せにしたくないじゃないか?」 


 そんなもんなのかな?

 やっぱちょっと照れくさいね。


「てか、ミルは署名したの?」


「してない。ジョンが署名するなら、わたくしもって感じなんじゃないの? 解消する?」


「は? ミルとの婚姻を? しない、しない」


 でも、なんかモヤっとする。


 ミルはホントに気にならないタイプなんだろうけど、僕は猛烈にモヤっとした。


「ん? でも、おかしいよね? 二人ともおやじの養子なのに婚姻できるの?」


「できないから、ミリーは元の戸籍に戻ったんだよ。ちなみにジョンは神聖国皇家の子供のままだからミリーのお相手は、神聖国ジョナサン皇子ね。わたし息子に無断で政略結婚させちゃったことになったよ」


「なぁ、おやじ、ホントなんでそれ受けちゃったの?」


 おやじだって、モヤっとしただろうに?


「ん? クレムと同意見だったからさ。それに『神聖国皇子ジョナサン』がミリーをお嫁にもらったら二人とも神聖国国籍だし、戸籍的には私の子供に戻るし、スタート地点と同じじゃん?」


 クレムってのは、僕たちが大魔王って呼んでるミルの生物学的な父親だ。

 同意見って、どんな意見だ?

 

「おぉ。確かに。ありがとう~。おやじ~。大好き!」


 そうなんだよな~。

 この人も様式美なんて気にしないタイプなんだよな~。


 大魔王と真逆。

 大魔王はディテールにこだわる人だからな~。


 そんな二人が同意見って、どんな状況なのか、ちょっと気になる。


「でも、あれだよ、なんか複雑な事情で情報が部分的に覆い隠されているみたいだよ。他国の事だから、あんまり鼻は突っ込めないけど」


 おやじ、突っ込むのは、首だよ。

 鼻ってなんだよ?


「ねぇ。もう、それ、嫌な予感しかしない。僕、生みの親とあったのって数回でよく知らないし。ミリー連れてさっさと帰ってきてもいい?」


「もちろん、いいよ。いいけど。ミリーはジョンのためにこうすることに決めたんだと思うよ? ジョンはミリーのためにダジマットから連れ出して自分は神の家で修行してるでしょ? ミリーだってジョンのために何かしたいんだよ。そこは汲んであげてね?」


 確かに最初はミルをダジマットに置いておけないって、ミルのためだったけど……

 今となっては、僕がミルと穏やかに暮らしたいからそうしているだけだ。


「ミルは僕がピーターバラで暮らした方がいいと思ってるってこと?」


「詳しい話は聞いていないけど『ジョナサンには、状況を知った上でピーターバラを見捨てるかどうかの選択をして欲しい』と言っていたよ。だからジョンがいつでも『僕は神聖国人です』って逃げ出せるように自分が神聖国籍を出たんじゃないかな?」


 見捨てるって何?

 逃げ出すって何?

 相当ヤバそうな響きだよ?


「ん~。先に相談してほしかったな~」


 まぁ、僕が神の家に籠ってるから連絡手段がなかったのは分かるけど……



「あと、ミリーの戸籍もちょっと特殊だから、ちゃんと本人と話し合うんだよ?」


 ミルの国籍も?

 そういえば、亡命する時、ビックリ顔を浮かべてたっけ…… 


 という感じで、慌ててピーターバラ宮殿に戻って、着いたのが入学式の前日だった。


 てか、学園に入るとか、何の茶番?

 嫌なんだけど?

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