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10才で家出しましたが、何か?

 僕は、ミルを連れて神聖国へ向かった。


 神聖国には孤児を神官に育てる神の家がある。

 そこであれば、僕とミルは孤児になっても、そこそこの教育を受け続けることが出来、自立して食べていけると考えたからだ。


 実際のところ、そこそこの教育どころか、下手すると王族以上の英才教育が施された。


 ただ、難点は、男女が分けて育てられることと、18才になるまで出られないことだ。

 僕は18才になるまでミルに会えなくなる。


 けど、ミルは僕がミルを養えるようになるまで、ダジマット宮殿と同レベルのセキュリティーで守られるだろう。


 それが僕が神聖国を選んだ理由だった。



 神聖国はダジマットの隣国だから10才の僕とミルでも転移できる距離だった。

 でも、僕はトレース不可の転移を習っていなかったし、ミルが僕を抱えてトレース不可の転移で移動しても、きっと大魔王に見破られて捕まってしまうだろう。

 大魔王は、それくらい凄い。


 だから、魔法を使わない方法、つまり陸路で旅した。


 10才の子供が2人で旅するなんてもっと目立つだろうが、一発で大魔王に捕まるよりはマシだ。


 発見が沢山あった。

 お金の存在は知っていたが、僕もミルも王宮育ちで、お金は数字だけの存在だと思っていた。

 移動するには紙幣やコインが必要だと知って、神殿に駆け込んだ。


 騙されずにコインや紙幣を手に入れるには、ここしかないと思った。

 そもそも神聖国に亡命して神の家に入ろうとしているのだ。

 神聖国の大使館や領事館を兼ねている神殿が信用できなかったら、僕たちは詰む。


 だから、腹を括って困ったらすぐに神殿に駆け込んだ。


 そして、僕たちは身に着けているものを紙幣やコインに変えて移動のための切符を買った。


 ミルは身に着けているものを売るのも、衣服をごわごわした着心地が悪い質素なものに交換するのも嫌がらなかった。

 嫌がるとは思っていなかったが、本当に嫌がらなかったことにちょっと感動したことを覚えている。


 紙幣やコインを初めて使ったときには凄くドキドキしたし、ミルも楽しそうだった。


 それになにより、ミルが本当に久しぶりに歌っていた。


 ♪城出た瞬間 終わったわ

 道が複雑で戻れない


 人多すぎて お亡くなり

 定期定期的に 近衛がいる♪



 僕たちが初めて城を抜け出した時に替え歌してた曲だ。

 そういえばミルはいつから歌わなくなったんだっけ?

 

「ミルぅ、近衛がいちゃダメなんだよ? 今回は、家出なんだから」


「あ、そっか」



 ♪城出た瞬間 終わったわ

 切符ってなぁに? コインてなに?


 服ゴワゴワで お亡くなり

 定期定期的に 神殿へGO♪



「はぁ~。も~。ミルったら、ちゃんと歩いて」


「ふふ。はははっ。ごめんなさい。ジョナサン。真面目に歩くわ」


 ミルが歯を見せて声を上げて笑ったのが嬉しくて、涙が出るかと思った。


 たとえ途中で捕まってしまったとしても、連れ出した事は間違いじゃなかったと自分が誇らしかった。



 神聖国は、転移で移動すれば一瞬の隣国だけど、陸路で移動すると1週間かかった。

 僕たちは神殿を梯子して、他の孤児たちと一緒の部屋で夜を過ごした。


 どこの神殿でも男女は別の部屋で就寝するから、その時ばかりは離れ離れになったけど、神殿なら大丈夫だろうという安心感があった。

 いや、正確に言えば、神殿がダメなら、どこへ行ってもダメだろうという悲壮感があった。

 が、悲壮感の方は決してミルに悟られないようにした。



 結論から言うと、神殿を梯子したせいで、僕たちの動きは神聖国皇王に筒抜けだった。

 そして、皇王から連絡を受けたミルの両親ダジマット両陛下にも筒抜けだった。

 さらに、ダジマット女王から連絡を受けた僕の両親ピーターバラ両陛下にも……


 当の僕たちは1週間の神殿の梯子生活の間に孤児に衣服を交換してもらい、すっかり孤児に扮することが出来たと思っていた。


 でも、僕たちが神聖国の後宮の門をたたいた時、出迎えてくれた小麦色のローブに茶目茶髪の神官を見た瞬間に、ミルは僕に「皇王聖下よ」っと耳打ちした。


 バレていたのか……


 僕は両膝を地につけて首を垂れる絶対服従の礼で、自分たちが神の家の噂を聞いてダジマットから流れてきた孤児で、神の家への入門を希望していると伝えた。

 ミルも僕に倣って隣で絶対服従の礼を取っていた。


 相手が皇王聖下なら最上の礼で乞い願うべきだと思ったが、相手も瞳の色と髪の色を変えて低位神官に扮しているなら、嘘にならない程度に身分を隠すことは許されるだろうと思っての行動だった。


 神官は、僕たちをひょいっと両腕に抱き上げて、後宮の一室に通してくれたあと、何処かに消えて行ったので、その間にミルに確認を入れた。


「暗黒神とは全然ちがうよ?」

「だからよ、きっと。父君とは違うからダジマットに預けられたのよ」


 僕たちが暗黒神と呼んでいるセオドアは、ダジマット家の養子で、正体は神聖国の深淵だ。

 深淵と言うのは、個人の名前であり、神官の位階で、つまり深淵は生まれながらの最上位の更に上の位階の神官だ。

 だが、必ず神聖国の外に出される。

 女児だったら深淵として育てられた後、嫁に出される。

 男児だったらダジマット王家に養子に出される。


 ダジマット王家に養子に出された深淵は、必ずセオドアという名前を与えられるってとこまでが、ダジマット王家に育てば知ることができる秘密だが……


 セオドアは、魔力の種類が僕たちとは決定的に違うことを一緒に育った僕たちは知っていた。


 そもそも「暗黒神」のあだ名の由来がその不思議な魔力だったから。


 僕たちは2つ年上のかっこいい暗黒神が大好きだったが、暗黒神は更に年上の小魔王と遊びたがったので、たまにしか相手にしてもらえなかった。


 ミルが「皇王聖下よ」と言った暗黒神の父君は、僕たちと同じ種類の魔力だった。

 到底親子だとは思えない魔質の違いだ。

 ワケが分からないが、その時の僕にそれ以上のことを考える余裕はなかった。

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