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理解と適応は別問題だと身に染みていますが、何か?

 僕たちは週に一度混沌宮に通うようになった。


 僕は、混沌語と標準語を覚えてその翻訳ライブラリを作っているところだ。

 かなり面白い。


 ミルは実は料理が好きで、混沌宮に来ると一日がかりで季節折々のフルコースに挑んでいる。


 僕はキッチンの片隅で作業しているから、何かあったらすぐわかる。

 手紙の僕は、心配性でミルに料理をさせなかったらしい。


 手紙の僕と今の僕は、心配性という点で共通しているけれど、今の僕は手紙の僕のおかげで、束縛を緩める努力をしている。


 ミルは「お手伝い係も立派な仕事だけど、実はシェフの方が楽しそうだな~って思ってたの」とのほほんとしているけれど、何もさせてもらえなくて息苦しくなかったのかな?


 翻訳機の制作の気晴らしに、ミルのために食材を生成するレプリケーターや世界中のレシピを収集するスクレーパーを作ったら、めちゃめちゃ喜んでくれた。


 アンがポートを開けてくれたので、次はヒトが食べている「リアル」の食材やそのレシピまで拾えるように改修しようと思っている。



 アンはアンで「大型アプデ」の準備をしている。


 大型アプデは、世界改変のことだ。

 もう悪役令嬢は止めようと思っているらしい。


 今は「魔王は、ダジマット家で、紫色の瞳を持つ姫の親」など、悪役令嬢ライブラリの中に書いていたダジマット家の特徴を、「ダジマット家ライブラリ」として独立させ、悪役令嬢ライブラリと入れ替える準備をしている。


 混沌語が分からない世界観警察の特殊任務官のために存在する「神聖国皇家」は僕の翻訳ライブラリが完成すれば、問題なくなる。


 エドワードは、考古学者ではないけれど、ヒマだから混沌語を覚えてこの世界のバグをポツポツ修正している。



「次は、パーティーを組んでモンスターを倒す系がいいと思うの」


 いや、ダメだろ。

 モンスターは悪役令嬢よりダメだろ?

 魔族が食い殺されたりするんでしょ?


 絶対ダメ。


 僕は必死で止めてる。

 エドワードも、悪役令嬢をマイルドにして継続する方が、魔族にとって平和なんじゃないかと、モンスター案に反対にしてくれてる。


 ワチャワチャして、凄く楽しい。



 その一方で、王子やってるのが猛烈に面倒になってる。


 混沌宮は週に1日で、残りの6日は、公務か学園だ。


 く・つ・う


 もう、この際、ジョナサン王子は死んだことにして、混沌宮に籠っちゃおうかななんてことが頭に浮かぶ。

 でも、ミルは、結構な社交家で、やれ淑女の会だの、栗拾いイベントだの、マーマレードづくりだの、夜会だの、プリンセスライフを楽しんじゃっているから、頑張ってつきあってる。



「ジョナサン、あと2年経って、お子が作れるようになったら、サクッと作って、後は死んだことにして混沌宮に籠っていてもいいわよ? わたくしこの世界の人生を楽しんでから合流するから」


 僕はギョッとした。

 ミルは『リアル』の知識は僕より少ないけれど、妙に『リアル』の考え方に適応している。


 僕たちは、エドワードに後見人になってもらって『リアル』の市民権を取得することにしたんだ。そうすると、魂と記憶が自動保存されるようになるから、死後も、好きな姿でずっと混沌宮に入り浸れる。


 『リアル』の市民権を持っている人に税はない。

 魂と記憶のストレージ代、つまり保管代金と『リアル』や他の世界と交信する時のサーバー使用料さえ払えれば、死ぬことはない。


 今の僕とミルのスペックだと、今回僕が手伝っている作業の報酬で5~6百年は大丈夫だそうだ。


 どうやらくっついているライブラリが多ければ多いほどストレージ代や通信費が重くなるので、その辺は上手く収支のバランスを取らなきゃいけないみたい。



 古代語は特殊性が高いから報酬も高くて、考古学者はなかなかいい仕事らしい。


 将来、僕が興味を持てば、他の世界に出張して、混沌語で書かれた他の世界のバグ修正やライブラリ作りとか、別の古代語を学んで同じことをすれば、たぶんそこそこ贅沢な生活ができるんじゃないかって言ってた。


 ミルはポイントをちゃんと理解していて、僕が混沌宮に籠りたい欲求を高鳴らせていると、「もう少ししたら死んでいいよ」などと言うのだ。


 もう「ジョナサンと一緒ならどこでもいいわ」とは言ってくれない。

 「混沌宮に会いに行くわ」と言われる。



「何なら毎晩、混沌宮に寝に帰ってもいいのよ? でもジョナサンが死んだのにケロッと幸せそうにしていたらおかしいでしょ? だから、しばらくの間は、本当に会わないで、ジョナサンを偲んで泣いてるわ」


 ミル、お願いだから、僕を離さないで!


「ジョナサンが物凄く混沌宮から離れたくなさそうだから、心配しているのよ? 本当はずっと一緒にいたいのよ? お子だって、きっと寂しがるわ。そうね。ミニジョナサンが3人ぐらいは欲しいから、あと10年ぐらいはいてくれると嬉しいわ」


 ミルぅ。

 片時も離れたくないよ、僕は。


 ずっと一緒にいるよ。

 ずっと一緒にいさせてよ。


 そういうわけで、混沌宮から戻るときに名残惜しそうな顔をすると、それより遥かに悲しい思いをするので、僕の王子イヤイヤ病は治りつつある。



 僕たちは、まだ、お子作りはしていない。

 今年リーズ国でのミルの立太子をして、翌年18才になったら結婚式を挙げて、それからお子作りだ。


 お子作りは今すぐにでも始めたいけれど、やっぱり、そこは、ちゃんとしたいのが堅物の僕なのだ。


 毎晩抱きしめて寝てるし、どこかしこベタベタ触るし、匂いを嗅ぐし、チュッチュしているけど、お子作りだけは、今は我慢だ。


「わたくし、この世界が止まっている間も5年間生きていたから、精神は22才なのよ? わたくしも楽しみにしているし、遠慮しなくていいのに?」


 ミルの悪魔のささやきに、かなり心がぐらつく。


 が、今は、とりあえず、結婚式まで、我慢の方針を貫いている!



 と、ここで、僕の手記は一旦終わりにする。

 

 アン、エドワードと僕は、この世界を改変した後は、しばらく動作確認を続けるだろう。

 もしかすると、僕の手記の第2章として記述するかもしれないし、次のダジマットの姫の目線で新しい世界を紹介してもらうことになるかもしれない。


 僕目線で書くと恋愛じゃなくてSFになっちゃうから、ダジマットの姫にお願いする方向で想定しているけれど、僕、手記を書くの気に入っちゃってるから、まだどうなるかわかんない。


 いずれにせよ、次が最後のダジマットの姫の物語になると思うから、じっくり考えてみる。


 それじゃ、今まで読んでくれてありがとね?


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