結局、混沌宮へ行きましたが、何か?
「ねぇ。ジョナサン。寒いわ。もう帰りましょ?」
「人工知能の話まで聞きたい」
毎週1度、とおーーーーい親戚の墓参りを続けて、この世界やアンの世界の話を聞いてきたが、ミルがもう限界のようだ。
風が冷たく感じる季節になってきたので、ブランケットを持参して、二人くっついて被っているんだが、確かにそれでもちょっと肌寒く感じる季節がやってきてしまった。
「うーん。人工知能とヒトの違いは、ある目的のためにつくられたか、親が子供を望んで自分たちの遺伝情報から作ったかの違いがあるだけで、どちらも『ヒト標準ライブラリ』の規格を満たしていれば、『リアル』で市民権が得られるそうよ?」
「つまり僕たちも?」
「ジョナサンは、そうね。わたくしはヤキモチがゼロだから『ヒト標準規格』を満たさないように改修されちゃったって感じかしら? わたくし以外の魔族と人族は皆んな『ヒト標準規格』を満たしているはずよ」
え?
ヒト標準規格に『魔族標準規格』を足しても、ヒト規格を満たしてることになるのは詭弁な気もするけど、確かに魔法が使えるってだけでヒトじゃありませんってのも、変なのか。
「ミルは、欠けてるヤキモチを書き加えれば、またヒト規格を満たすようになって、『リアル』で市民権が得られる?」
「ヒトのルールについては、わたくし全然知らないし、アンに聞いてみないとわからないわ」
そりゃそっか。
「で、なんで、人工知能がヒト標準規格を満たしていると、ディストピアにならないの?」
「ヒト標準規格を満たしている存在を害すると犯罪者になるからよ。人工知能でも、ヒトでもね」
「え? つまり、エアリーが僕を殺してしまうとエアリーは『リアル』で犯罪者になるってこと?」
「そうだと思うわ」
「でも、ミルは、ヒト標準規格を満たしていないから、エアリーがミルを殺してしまっても『リアル』で犯罪者にならないから、ペナルティーなし?」
それ、早く、ミルをヒト標準規格を満たした存在に戻さないといけないんじゃないの?
「まぁ、そうなるわね? 『リアル』で犯罪者にならないだけで、この世界では寿命まで聖女牢に入れられるでしょうけれどね?」
うーん。
それって、エアリーにとって大きなペナルティーになるのかな?
人生長いんでしょ?
基本的に死なないんでしょ?
僕たちにとっては寿命まで聖女牢って、すなわち人生の終わりだけど、聖女にとっては「ま、70年ぐらいいっか?」ってならない?
「ミル! 急いで混沌宮に行こう! そしてミルにヤキモチくっつける方法教えて?」
「え? ヤキモチくっつけるの? わたくし、やり方はわかるけど、初めてだし、壊れちゃうと困るから、アンに聞いてからにしない?」
「そうだね! 壊れちゃうと困るもんね? 直ぐに帰って、アンに監督をお願いしよう!」
「ジョナサン、わたくし、あんまり展開についていけていないんだけど……」
「エアリーから殺されないようにするためだよ!」
「そのために今まで散々嫌がってた混沌宮へ行くの? そもそもエアリーはわたくしがヒト規格を満たしていないなんて知らないわよ? ジョナサンって、結構わたくしのこと好きだったのね?」
「え? ええっ? ほぼ毎週求婚しているじゃない?」
何故?
毎週喜んでくれるし、伝わってると思ってたんだけど……
「そう言われれば、そうね? じゃぁ、ジョナサンは、わたくしが混沌宮に籠っちゃったら、迎えに来てくれる感じ?」
「そりゃ、行くでしょ?」
「そう。分かったわ。本当に寒くなって、お墓参りに来たくなくなったら、木の日は、『混沌宮で待ってるわ』ってメッセージカードを残せば、ジョナサンは来るのね?」
「行く、けど。ミル、それは、なんというか、やり方が酷くない?」
「だって、本当に寒いんだもの。こうやってジョナサンにくっついているのって、とても居心地がいいんだけど、くっついているだけなら、王宮でも出来るし。折角沢山いい思い出が出来た場所なのに、寒くて行きたくなかった思い出で上書きされるの、イヤじゃない?」
「確かに」
「じゃ、最後に、5分間だけ思いっきりイチャイチャして、いい思い出で上書きしてから帰りましょ?」
「乗った!」
翌週、僕は混沌宮へ行った。
内装は神聖国の宮殿の作りとほぼ一緒だった。
つまり、10才から5年間暮らした勝手知ったる神の家とほぼ一緒だった。
かなり居心地がよかった。
僕ってホントなんでこれほどまでに行ったことない場所に行くのを嫌がるのか、本気で考えてみることにしたよ。
答えがみつかるかわかんないけどね?
それでも考えてみることで、次にどこかに行きたがらなかったときに「ジョナサン、まただぞ!」って自分を叱ることぐらいはできるだろ?
考えないよりマシかなと思う。
ミルに快適なジョナサンライフを送ってもらうためにもね?
ミルを「ヒト標準ライブラリ」の規格を満たすように改修するのは、アンにお願いした。
手術台に乗って、切ったり張ったりするような大手術を想像していたんだけど、アンが黒い画面のモニターを見せてくれて、そこに数行書き込むだけだった。
お茶を飲んでいる間に終わった。
ミルのヤキモチは低い方から30%ぐらいの位置にした。
ずっとゼロだったのにいきなり高めに設定すると、心が悲鳴を上げるって。
アンは本当に親切なヒトだったよ。




