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子供の頃は平気で恥ずかしいことを言えてましたが、何か?

 僕は「ミルドレッド殿下はジョナサン殿下の唯一です」と言われながらミルの実家、ダジマット宮殿で育った。


 ミルは「ジョナサン殿下はミルドレッド殿下の王子様です」と言われながら僕の隣の部屋で育った。


 行き来は盛んで、僕たちは10才になるまで割といつも一緒にいたと思う。



 ミルは先代聖女に魔族領を焦土に変えると予言された魔力お化けのリーズ王子を父に持つ。

 母親は先代悪役令嬢にして当代魔王だ。


 幼い僕たちは義母上に魔王、魔王より強い義父上に大魔王というあだ名をつけた。


 ミルは大魔王の血が濃く、魔力が強い。

 ミルの兄君は魔王の血が濃く、魔力はそこそこだ。


 だから子供の頃は魔力を制御するレッスンに明け暮れていた。


 強すぎるミルは「わたくしの王子様を壊してしまわないか心配よ」と、僕に触れるときは宝物のように恐る恐る扱ったが、それ以外は普通、というか双子のように一緒に育った。


 その他、宮殿には3つ年上のミルの兄上と2つ年上で養子のセオドアがいた。僕たちは兄上のことを小魔王、セオドアのことを暗黒神と呼んだ。



 ダジマット王家はもっとたくさんの訳アリ王族を養子として預かり育てていることもあるみたいだが、ミルの魔力の制御がイマイチだったので、魔力の弱い子だと傷つけてしまうリスクを考えて、それ以上引き取らないことにしたようだ。


 

 5才ぐらいの頃にミルの悪役令嬢教育が始まって、ミルはちょっとおかしくなり始めた。


 何やら暗い表情で蔵書庫に籠り、なかなか出てこなくなった。

 転移が使えるようになった後は、どこに行くにも転移で全く運動しなくなった。


 ミルの運動嫌いの始まりだ。

 その頃にはミルも僕に触れても壊さないレベルに魔力を制御できるようになっていたので、僕が手を引いて散歩することで強制的に運動させるようになった。


 そういえば、その頃は、ただ運動させるために手を繋いでいたかもしれない。



「子供が動き回らないなんて不自然だよ?」


 子供の頃、そう言って引っ張りまわしたので、「もう子供じゃないから、動き回らなくても不自然じゃないわ」といって散歩を嫌がることがある。


 困った妃だ。


 7才になった頃だろうか、どこぞ宮殿外に転移して探せないことが増えた。


 ダジマット中に高位魔族専用の蔵書庫があるので、それらのどこかだと思われたが、ミルは読書の邪魔をされないようにトレース不可の転移を覚えてしまって、本当に探しづらかった。


 侍従や女官が本当に困っているときは、僕が呼べば出てきた。


 合言葉は「ミルドレッド、僕の唯一、帰ってきて」だった。

 どういう仕組みなのかは分からないが、ミルは僕が呼べば必ず出てきた。


 今となっては、こっぱずかしくて口に出来ないセリフだが、子供の時は平気でそう言って呼び戻していた。


 ミルはミルで「なぁに、わたくしの王子様」と言いながら転移で戻ってきた。


 ミルと再会してから、そう言ってくれたことがないので、たぶん、ミルも恥ずかしいのだろう。



 8才を過ぎる頃に、ミルは本格的におかしくなった。

 と、思う。


 物の見方が斜めになったし、考え方も斜めになった。



 僕はちょうどピーターバラの闇について知り始めたところで、僕だってちょっと物の見方が斜めになっていた時期だった。


 だからミルも悪役令嬢の闇を知って、考え方が斜めになったのだと思った。



 でも、ミルは、斜めの角度がどんどん酷くなって、世の中の人たちとは反対側を向きそうだと思えるようになった頃、僕はミルに「シニカルで、皮肉屋で、嫌世的な8才児は、異様だよ?」と指摘した。


 そしたらミルは誰にも素の表情を見せなくなったし、本音で話さなくなった。


 教師や側仕えだけではなく、大魔王にも、魔王にも、小魔王にも、暗黒神にも……


 にこやかに皆が期待する「ダジマットの姫」を装うようになった。


 ミルにどうして装っているのか聞いたら、「異様だと言われても普通が分からないから、皆が期待する通りに動いてみている」と、斜めなりに真っすぐな答えが返ってきて、僕がどんなに安堵したことか。


 皆が完璧な姫を装うミルに気付いていたかどうか分からない。


 けど、僕の目から見て、ミルは純粋に「普通とは何か」を考えるのが面倒くさいから、期待に沿うように動いてみているだけだった。



 別の言い方をすると、僕の目から見ても周囲は「ミルに何かしら期待している」ように見えた。



 特に魔王がミルに寄せる期待のハードルは高かった。

 おしとやかで、にこやかで、優しく、聡明で、控えめで、思慮深く、強く、美しく、完璧で……


 僕は「お前、こっちきてやってみせろ!」と抗議したかったが、ミルはやればできる子だった。

 しかも面倒くさいからオートで期待に沿うように動くことが出来るレベルで。


 小魔王はミルにかわいい妹を期待したし、暗黒神は魔術の好敵手を期待した。


 大魔王はミルと僕の幸せを期待していたから、ミルは僕と幸せになろうとしているのだと思う。


 僕は……

 ミルの様子を見ていて、僕の期待を押し付けたくなかった。


 それなのに、僕は誰よりもハッキリと僕の期待を言葉にしてミルに伝えた。


 僕の前では素のミルでいて、と。


 ミルは僕の期待に沿って、僕の前では取り繕わなかったから、僕はミルが反対側を通り越して一周まわって元に戻っている様子を見ることになった。


 ミルはミルに戻ったけど、元のミルではなかった。


 それで本当に心配になって、ミルが2周目に入る前にミルを連れて家出した。


 このままダジマットに置いておいてはダメだと思ったからだ。


 ダジマットの宮殿の人々がダメなんじゃない。

 ダジマットの蔵書量が、蔵書内容がミルを壊している気がして、あの国から離れたかった。

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