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聖女には興味がないんですが、何か?

 アンディーくんと姉君を取り持ってあげたい。

 そのように決意したランチタイムの後は、例のダンスレッスンだった。


 君たちは覚えているだろうか?

 この手記の第1話だ。


 ピーターバラの側近候補たちが僕のダンスパートナーに当代聖女エアリーを連れてきて……


 僕が濃紺の髪に水色の瞳の組み合わせの「氷の貴公子」ポジションのミルのダンスパートナーに嫉妬心を燃やした、例のダンスレッスンだよ。


 分かってくれるだろうか?


 学園に入学してから最初の一週間に僕がどれほどに忙しかったか。


 たった一週間だったが、僕がどれほどミルに翻弄されていたか。


 そして、僕がどれほどミルの事が大好きで、聖女にはま~~~ったく興味がないことも伝わっているだろうか?



 僕が笑顔の仮面を貼り付けて聖女の相手をしている時、頭の中で考えていたのは、「失敗した! 今日は休むべきだった。欠席していれば、ミルのペアは自ずと僕になっただろうに!」って事だ。


 ミルがイケメンとダンスを踊る場面を目にすることもなかっただろう。

 嫉妬心に燃え盛ることもなかっただろう。


 ミルが僕のことを好いてくれてることは、分かっているんだ。

 でも、嫉妬心がメラメラと湧き上がってくるのは抑えられないもんなんだよ。



 それがなんで「ジョナサン王子は聖女と踊っている時は楽しそうだった」なんて噂が立つんだ?


 おかしいだろ?

 ふざけんな!



 学園で粛清を受ける予定の教師たちは、母上の采配でゆっくり進めることになったから、その日の時点では何も聞かされていなかったんだろうとは思う。


 でも、ダンスレッスンの教師が少しでも敏い貴族の寄り子だったら、絶対に許可しなかっただろうペアリングだ。


 側近候補たちなんて、最悪だ。

 お前ら本当にピーターバラの最上位貴族の子供かよ?



 まぁ、正確に言えば、鼻息荒く聖女を連れてきたのはインテリ眼鏡だ。


 ミルのダンスパートナーほどのかっこよさはないが、ピーターバラ側近候補の中で氷の王子ポジションと言える男は、自分が聖女と踊りたがっていた。


 唯一慌てた様子だったのは、赤髪赤眼の実にピーターバラの魔術師っぽい外見なのに、行動が脳筋騎士ポジションの側近候補だけだった。


 放課後になってもダンスの練習を続けたがる聖女の練習相手を引き継いでくれたのは、彼だったから、ピーターバラの側近候補の中で一番手に躍り出た。


 王家と同じ赤毛だから遠い親戚なんだろう。



 そんなこんなで、ダンスレッスンが終わるや否や、迎賓館に戻ってミルを探した。


「あの男は誰なんだ!?」


 そう詰め寄る気満々だったのに、ミルは迎賓館にいなかった。


 母上に呼ばれてティールームにいると聞いて、侍女が止めるのも聞かずに転移した。


 うん。

 頭に血が上っていてね。

 正常な判断ができていなかった。


 茶室には、母上とミルの他に二人の貴人がいたんだ。



 一人は先々代の悪役令嬢ラファエル様。

 ミルと魔王以外の紫色の瞳の女性を見たのが始めてだったから驚いたよ。


 もう一人はおやじの妹、つまり神聖国の皇妹の玄妙猊下だった。


 流石の僕でもお二人がいると知ってたら乱入しなかったよ?



「こ、これは失礼いたしました。母上とミルドレッドの2人きりのお茶会だと思っておりまして……」


「まぁ、ジョナサン。丁度良かったわ。ラファエル様から大切にしていらしたピアスを頂いたでしょう? 直接お礼をお伝えするためにわたくしも参加させていただいていたの。貴方も直接お礼が言いたいと言っていたでしょ?」


 言ってない。

 でも、ミルのナイスフォローに乗っかった。



「ラファエル様。大切になさっていた思い出のピアスだと伺っております。そのような貴重な宝物を賜りまして何とお礼を申し上げてよいものか……」


「ふふっ。そんなに気にしないで。今、ちょうどミルドレッドちゃんにも裏話を聞いてもらっていたのよ」


「そうそう。ラフィは元々形見分けであのピアスをダジマットのガブリエル女王に譲る予定だったんじゃ。それがちょっと早まっただけなんじゃよ?」


 この変な話し方は、玄妙様だ。

 神聖国の皇族言葉で、グランパの世代までは皇族はこの話し方だった。

 おやじの代からこの話し方は公式の場所だけになった。


「ガブリエルちゃんは、姪っ子としてかわいいと思っているのよ。でも、何故かわたくしに憧れてくれていて…… わたくしそういうの苦手なの」


「あの熱量は、憧れっていうより、崇拝というレベルじゃしな」


 あの完全無欠な魔王が誰かを崇拝するなんて、想像できない。

 よっぽどのことだ。



「形見分けとして渡したら仰々しいことになりそうだから、神聖国皇子がダジマットの姫を攫ってきちゃった件でお詫びの品を贈るならこれをどうぞって」


 つまり、直接接触したくないレベルで苦手ってこと?

 てか、神聖国皇子がダジマットの姫を攫ってきちゃった件?


 僕たちの家出って、ブライト国ではそんな解釈なの?



「そうだったとしても私たちがラファエル様からこのようなものを頂く理由にはなりませんから……」


 ブライト国と神聖国がそんなに近しい間柄なイメージはないし。


「お願いだからかしこまらないで。ホントにそういうの苦手だから。わたくしは神聖国の西宮で7年間修業をした神官なの。わかるでしょ? 修行は厳しいけど、やりとりはユルイ感じが心地いいのよ」


 わかり味が深い。

 うん。

 この方は、仲間だ。


「よくわかります。それでは遠慮なく」


「今でも神官として活動するときはジェニーと組んでいるし、神聖国には夫ともども大変お世話になっているから、力になれて嬉しいのよ?」


 今でも神官として?

 ラファエラ様は公爵家で王家じゃないから、余裕があるのかな?



「ジェニーってのは、わらわのことじゃよ。婚家でもらった名前なんじゃ」


 ああ。

 この方は、人族の国セントリア帝室に入ったんだっけ?


 あそこは帝室を混血化してから積極的に魔法国の名門の血を入れるようになったんだよな~。

 


「今日の本題は、ウチのイモ公爵のためにジャニス様にピーターバラのサツマイモの作付けのお願いだったんだけど、貴方たちの話が聞きたいという下心もあったの。会えてよかったわ。ふふふ」


 イモ公爵?

 なにそれ?

 

「わらわはウチの酒呑童子のためののためのピーターバラのブドウの作付けのお願いじゃ。そこなクリ王子は落ちてくるのを拾うだけじゃし、下戸らしいから安上りじゃの?」


 酒呑童子?

 で、クリ王子って、もしかして僕だよね?


 てか、ヒドイ。

 下戸って話、もう伝わっちゃってるの?


 どこの王族もお酒で失敗しないように子供の頃から食事の際に少しずつ慣らしていくから、王族は酒好きが多い。


 逆に飲めないのは致命的だ。

 悪い奴らに付け込まれちゃうからね。

 下戸だったとしても絶対バレないようにするもんなんだ。


 ダジマットでへべれけになれたのは、そこが僕とミルの実家だから。

 ピーターバラ両陛下は、まぁ、僕の生みの両親だから知っておくべきだろう。


 それが玄妙様やラファエラ様にも共有されたということは、母上がお二人に「ジョナサンはお酒に弱いから困っていたら助けてください」とお願いしたようなものなのだ。


 そしてお二人がそのことをネタにするのは「任せて! 夫に伝えておくわね!」だ。


 高位魔族のやり取りは、こういう直言されないことから読み解かなければならないことが多い。

 こういうのが通じないと高位貴族に入れないともいう。


「ふふふ。修行中はコントロールが鈍る酒精は厳禁だから抵抗力が低くても仕方がないわ。酒どころのピーターバラの王家の血をひいているのよ? そのうち酒好き紳士連盟でヌシのようになっているかもしれないわ」


 酒好き紳士連盟?

 ミル、後で説明してね?


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