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拝啓、大魔王様③


 そして、残念ながら、僕のこの記憶は混沌宮を出るときに迎賓館の「記憶球」に封じられるだけで、削除されるわけではありません。


 この世界に許された最大の魔力量を保持する貴方なら、混沌宮に侵入してその「記憶球」を破壊することができるかもしれません。

 僕たちは転移魔法を使わないで転移紋に入ったので攻撃されたのであって、転移魔法を使って侵入すればセキュリティーシステムに攻撃されることはありません。


 僕の「記憶球」は、展示されているなかで一番大きな「記憶球」となるでしょうから、探すのも簡単でしょう。


 どうするかはご自分でお決めになって下さい。



 最後にこれはとても重要なことですが、ミルドレッドが僕の命の恩人であるように、聖女シエルはミルドレッドの命の恩人です。

 シエルがいなければ、ミルドレッドが復元されることはありませんでした。

 そしてこの5年間、僕たちをできるだけ普通の魔族っぽく育ててくれた恩もあります。


 彼女はこの世界を改変する権限を持ちながら、その力をリーズ国に宝物を埋めるぐらいにしか使っていない、誰よりも平和的な存在です。

 トレジャーハンターとの知恵比べが彼女の趣味なのです。

 いい人です。


 どうか、彼女と彼女のパートナーのエドを可能な限り大切にしてあげてください。



 尚、この手紙は、あなた以外が読んでもその内容を忘れてしまうように、僕が混沌宮の記憶を失うのと似たような魔術が組んであります。


 だから、残しておいても害にはなりませんが、出来れば燃やして下さい。

 混沌宮に入れるミルドレッドは、術の破り方を見つけてしてしまうかもしれませんから。


 お願い事ばかりになってしまい申し訳ありません。


 生まれてから5年間、僕を育てて下さり、ありがとうございました。


 感謝を込めて

 ジョナサン

 

**



 な、なんじゃこりゃ~。

 僕は、呆然となった。


 これは、僕が記憶にない僕が書いた手紙だってことだよね?


 この手紙の僕、すっごい怖いんだけど?


 でも「こんなの僕じゃない!」とは言い切れない。


 今の僕も、手紙の僕ほどではないかもしれないけれど、ミルを独占したいという気持ちがある。


 ミルと僕の仲を邪魔しようとする環境から離れたいという願望があって、ピーターバラから脱出する気満々だ。


 今のところ手紙の僕ほどのレベルではないというだけだ。


 手紙の僕は、ミルを閉じ込めたくて仕方ない。

 ミルと二人だけの世界から出たくないし、ミルがイヤなら自分を殺して欲しいとはっきり書けちゃう10才は、怖いよね?


 10才と言えば、僕はミルに対する恋心を自覚したばっかりの頃だ。


 自分でもヤバいと思ったからこそ、記憶を捨てて、リセットすることにしたんだよね?



 大魔王はなんでまたこんな怖い僕とミルの婚約を解消しなかったんだ?


 ミルは何故緊急避難先を手紙の僕と暮らしていた「混沌宮」にしたんだ?


 もしかして、ミルは手紙の僕のことが好きなのか?


 混沌宮に行けばわかる?


 ミルは、いつか手紙の僕のことを話してくれるつもりある?


 僕は大混乱に陥って、そして強烈な不安が襲ってきた。


 慌ててベッドに戻って、まだ眠っているミルを抱きしめた。


 スー。ハー。

 ミルぅ。

 君は、このバージョンの僕の事も好き?


 スー。ハー。

 ミルぅ。

 君は、このバージョンの僕のこと、どう思っている?


「んー。ジョナサン。おはよ。また匂いを嗅いでいるの? 起きれないから、離して」


「いやだ」


 僕はミルをぎゅっと抱きしめて、というか羽交い絞めにして、僕の腕から出られないようにした。


「学園に行きたくないのね? それは、わたくしも同じよ? でも、起きなきゃ」


 ミルは動けないなりに、寝返りを打って、僕に向かい合わせの体勢になって、おはようのチュウをくれようとしたが、僕がギュッと抱きしめすぎて届かない。


「いやだ。今日はこのままこうやって過ごそう。僕は二日酔いだ」


「ふふふ。二日酔いは、ウソね。知ってるって、知ってるでしょ?」


 ミルは、寝ぼけ顔をほんのり緩めて、口を窄めて、おはようのチュウを強請った。

 なんてかわいいんだ。


 僕はミルのおでこにキスを落として、再びギュッと胸元に閉じ込めた後、我慢できずに口火を切った。


「昨日、大魔王から手紙を貰ったんだ。僕が10才の時に書いた手紙だって。僕の知らない、混沌宮で君と過ごした僕からの手紙」


 抱きしめたミルの身体に緊張が走るのが分かった。


「……」


「ミルはそんなこと一度も話してくれなかったから驚いたよ」


 どうして話してくれなかったの?

 僕の知らない方の僕の方が好きだから?


 ダメだ。

 怖くて聞けない。


「そ、それで、ジョナサンは、わたくしの事、嫌いになった?」


 ん?

 震えている?


 ミルはもしかして、狂気に満ちた僕を怖がっていた?


 でも、この質問は何か変だ。


 ミルは混沌宮の僕よりも、今の僕が好き?

 気持ちが弾んだ。


「ミルのことを嫌いになるわけないじゃないか?」


 ミルは僕の胸に顔を埋めたまま、震える手を僕の背中に回してぐっと抱き着いてきた。

 

 おや?

 


「全部は書いていなかったのね。ジョナサンは混沌宮のわたくしの事が好きになれなかったのよ。だから混沌宮に記憶を置いていったの。あの暮しを忘れたかったのね? そして、わたくしにやり直しのチャンスをくれたの」


「ん? んんっ? どういう意味?」


「わたくしはジョナサンに口には出来ないほどの酷いことをしたの。それも何度も。何度も」


 泣いている?

 僕はミルの表情を見るために、起き上がった。

 ベッドの上に胡坐をかいて、そこにミルを乗っけて抱きしめ直した。


「あぁ。ミル。泣かないで。手紙の僕も君のことが大好きだったと思うよ」


 大好きすぎておかしくなってしまったことについては、伝え方を考える時間が必要だ。



「ジョナサン、本当なのよ。本当に酷いことをしたの。それでもジョナサンは優しかった。わたくしを封印しないで、わたくしにやり直すチャンスをくれた。だけど、やっぱり嫌な思い出は忘れたかったのよ」


「封印?」


 何のこと?

 そんなこと、手紙には書いてなかったよ?


「混沌宮へ行ったら見せてあげるわ。ジョナサンはわたくしを封印する方法を考え付いていたの。わたくしは、魔力が多すぎて危険だから」


 あ~。

 ミルの言う「酷いこと」は、魔力暴発で僕を殺しちゃったことだな。


 で、「封印」っていうのは、ミルのことが好きすぎる僕がミルを監禁する方法を考え付いたってのをミルが見つけちゃって、勘違いしたってことか……



「もう一度じっくり読んでみるけど、ミルの封印なんて誤解だと思うよ?」


 君と二人だけの世界に浸るために君を閉じ込めておく檻だなんて、言えない。

 でも、危険なミルを封印する檻だと勘違いしちゃったのも分かる。



「ジョナサン、信じて。ジョナサンは真面目だから、わたくしのことを好きになれなかった記憶を消してまでピーターバラのためにわたくしの婚約者であろうとしたの」


 これは、絶対違う。

 手紙の感じからして、ピーターバラの事なんて頭の片隅にもなかったよ。


 あ~。

 でも、ミルが好きすぎて壊れましたってことについては、説明の仕方をよく考えないと。


 よし!

 時間稼ぎだ。


「うーん。今、この僕はミルが大好きで、そうは思えないよ? こうやって抱きしめていると、ミルを襲っちゃいたくなるんだ。だからやっぱり学園へ行こう。そして帰って来てからゆっくりと話そう、ね?」


 僕はそう言って、ミルの肩から腕、肘、手首へと滑らせるようにゆっくりと撫でて、手の甲にしっとりキスした後、唇にじっくりとおはようのチュウをした。


 本音を言えば、大人のキスに進みたかったし、そのままミルを僕のものにしたかった。


 でも、まだ求婚できていないから、ぐっとこらえた。


 ミルも僕のタッチが情欲を帯びたことに気付いただろうか?


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