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拝啓、大魔王様②

 聖女シエルは、僕の狂気に気が付いて、僕たちが普通の魔族の暮らしに戻れるようにいろいろと工夫をしてくれました。


 例えば、食事や睡眠です。

 混沌宮では、世界の時間が止まっている間、食事を取らなくても生きていけます。

 睡眠をとる必要もありません。


 シエルは、それは魔族らしくないと言って、僕たちに料理を教えてくれました。


 食材は数日に一度シエルたちの居住区で生成したものを持ってきてくれましたので、どのようにして作っているのか知りませんが、僕たちはシエルが持ち込んだ食材を使って、自分たちで料理をして1日3回食事をとるようになりました。

 いえ。自分たちで、と言うのは適切ではありません。ミルドレッドは料理は見ている係でしたから、料理ができることは期待しないでください。


 睡眠は、消灯という、一定時間混沌宮が暗くなる仕組みが導入されました。消灯時間は魔法無効になりますので、寝るしかありません。


 このように、聖女シエルのお陰で、ミルドレッドは元の世界に戻ってもそれなりに魔族っぽく暮らしていける状態だと思います。


 この他、ミルドレッドのことでお伝えすべきは、魔力の制御についてでしょうか。


 ミルドレッドは、身体が元通りに動くようになっても、なかなか魔術が制御できるようになりませんでした。


 シエルが自身に付帯した魅了魔法と混乱魔法を制御するのが面倒くさくなって削除してしまったことを知っているミルドレッドは、シエルにお願いして魔力量を10分の1に落としてもらいました。



 混沌はこの世界の行く末については何も指定していませんが、世界の成り立ちの都合上、いくつかの魔力特性が血脈を介して引き継がれるように指定しています。


 リーズの「承継者」が、生まれた時からこの世界に許される最大の魔力量を持っているのがその一つです。


 実際には魔力量と制御には相関関係がありません。しかしミルドレッドは「魔力量が多いから制御が苦手」という言い訳を許されてきましたから、そのように思い込んでしまって、この部分に関しては手遅れです。


 この思い込みもミルドレッドの一部ですから、ここを書き換えたりするとミルドレッドでは無くなってしまうので、変えていません。



 兎も角も、魔力量を10分の1にして、基礎魔術を習得した後は、5分の1、3分の1、と、もとに戻していきましたが、2分の1まで戻したところで、5年の期限が来てしまいましたので、元の世界に戻ってすぐは少しヘタクソになったと感じるかもしれませんが、目をつぶってあげてください。


 また、目を離すとシエルにお願いしてまた魔力量を減らしてもらおうとするかもしれないので、気をつけておいてください。


 それから、基礎魔術はダジマットでどんなことを学ぶのか分からなかったので、混沌宮のアーカイブに記述されている神聖国の神官カリキュラムの「奧妙」まで一緒に習得しました。

 

 元の世界で魔術の水準を測定するのに広く使われていると書いてありましたので、普通っぽい感じになっていると良いのですが。


 但し、ミルドレッドは、そちらに戻った後、魔力量が倍になったように感じると思いますので、細かい制御、赤外の制御などは出来なくなっているかもしれません。


 

 そして、5年の期限が来てしまいましたが、シエルの工夫もむなしく、僕の狂気は収まりませんでした。


 僕は混沌宮を出た後、混沌宮に似た施設を作って、ミルドレッドをそこに閉じ込めて暮らす方法を考え付いてしまいました。


 おそらく誰にも検出できないでしょうし、ミルドレッドは僕を殺さない限りそこから出ることが出来ないでしょう。


 僕はミルドレッドが殺してくれるなら幸福感に包まれた状態で逝けます。


 僕はミルドレッドに既に何度も殺されていますから、経験的事実として知っているのです。


 決してわざとではありません。

 ミルドレッドは魔術の制御に失敗して僕を粉々にしてしまったりしたのです。


 聖女シエルが混沌宮に自動保存された最後の状態に復元する仕組みを作ってくれましたから、すぐに元通りになりますが、ミルドレッドはその度に泣きわめいて魔術の訓練を拒否するようになります。


 シエルは、何度も生き返るのも普通の魔族っぽくないからダメだと、ミルドレッドの魔力量を10分の1に調整することに同意してしまいましたから、これは僕にはどうしようも出来ませんでした。


 そちらの世界でミルドレッドに殺されてしまえば、復元することはできませんが、僕はそれはそれで良い終わり方だと思えてしまうほどの狂人なのです。


 でも、ミルドレッドが僕が生き返るまで泣きわめくのを知っていますし、この方法で僕が消えてもミルドレッドは幸せになれません。


 僕はミルドレッドがご両親のようにミルドレッドの王子様と出会って、共に悪役令嬢の試練を乗り越えて、結婚して、出産して、末永く幸福に満たされた人生を送ることを願っています。


 しかし、前述のとおり、僕にはその相手が出来そうにありません。


 聖女なんてどうでもいいし、王位なんてバカバカしいし、民なんていなくなればいい。

 友人も、家族も、いらない。


 ミルドレッドと二人だけの混沌宮から出たくない。



 同時に、ミルドレッドは僕の命の恩人であり、この幸せな5年間を与えてくれた僕の唯一です。

 恩を仇で返し続けるのは、もうやめなければなりません。

 彼女の幸せを考える時が来たのです。


 だから、僕はこの記憶を捨て、全てを5年前の状態まで戻した状態で戻ることにしました。


 混沌宮に来る前の僕は、まだ狂気に囚われていません。

 そこは信じてもらうしかありませんが、まだ「ミルドレッドが大好き」というレベルです。


 どうか、婚約は適当な理由をつけて解消し、僕を生みの両親の元に送り返してください。


 絶対にミルドレッドに近づけないでください。

 そうすれば独占したいという気持ちも狂気も育たないでしょう。


 ミルドレッドには記憶を持って帰らないことを言っていませんので、しばらく猛烈に怒ったり、悲しんだり、情緒不安定になるかもしれませんが、僕の存在がなくなるわけではなく、元の僕に戻るだけなので、乗り越えられると信じています。


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