ようやく結婚の許しを得ましたが、何か?
10才の時に僕が大魔王に宛てて書いた手紙?
家出した年だよね?
あの頃はお手紙の練習の一環で大魔王にもいくつか手紙を書いただろうけど、何か大魔王的にツボなことが書いてあったのかな?
「君の願いに反したこともしてしまったが、私なりに最大限の努力はしたよ」
僕の願い?
え~。
もっと分からないよ。
「それから、予め伝えておきたいことがある。ミリーの運動嫌いは、遺伝だ。代々、リーズの継承者は転移が使えないことになっているんだが、ずっと徒歩だとストレスが溜まるんだ。それで外の目がないときは転移以外で動かない。後遺症じゃないよ」
後遺症?
なんだろう?
僕は事故にでもあって記憶が欠けているのか?
「あと、魔術がヘタクソなのも、多分遺伝だ。ガブリエルは壊滅的にヘタクソなんだ。私は今でもガブリエルの転移で転移酔いする。神聖国で大勢の神官を見てきたユッピーの話ではそこまで言うほどではないってことなんだけど、リーズ王家は継承者の力が強すぎるから制御力の高い家とばかり婚姻を結んできたからね。うん。ビックリするほどヘタクソだった」
え?
こっちは何の話か全く分からない。
「リッチは魔力量はガブリエル似で制御力は僕似だから全く手が掛からなかったんだけど、ミリーは僕と同じ魔力量でガブリエルの制御力だからね。苦労してたんだ。政略結婚って大事だよ。うん。忍耐強く訓練してくれてありがとね」
手紙の内容を全く知らない僕は全くワケが分からなかった。
「大魔王、何を仰っているやら全く分かりませんが……」
「うん。読んだら、分かるよ。出来るなら、一人で読んでね。それで、もう義父上って呼べるようになったから、『とうさま』と呼んでくれると嬉しいな」
「とうさま?」
「ミリーは魔術訓練の時にはそう呼んでくれるんだ。でも私の4人の子供の中で君だけ正式な私の子供じゃなくて、お父さんとか、とうさまと呼べなかったでしょ? だからミリーがあだ名をつけることにして」
「え? あだ名はそういう理由で?」
「そうだよ? 魔術訓練の時に『ジョナサンだけとうさまって呼べないのは家族じゃないみたいで良くない』って怒るから、君たちであだ名をつけてそれで呼べばって?」
ミルぅ~。
君って子供の頃から優しかったんだね?
僕のためにそんなところまで気を配ってくれてたんだね?
「私はリッチが生まれるまで、子供に興味がなかったんだけど…… いや、嫌いだったんじゃないんだよ? あんまりよくわかってなかったって感じでね。でも、生まれてみたらかわいくてかわいくて」
大魔王は子煩悩だ。
子供たちの服はほぼ全て大魔王のデザインで、メインブランドの「ダジマットローズ」の他に、それぞれ「リチャード」、「セオドア」、「ミルドレッド」という個別ブランドを立ち上げて、子供たちの服のサイズや大きくなったり、装いが変わるのを凄く喜んでた。
大魔王曰く、成長が実感できるらしい。
でも「ジョナサン」は存在しない。
僕の服もデザインしていたけれど「ミルドレッド」の男の子ラインだ。
僕は大魔王の預かり子で戸籍上はダジマット家に入っていないからね。
隠し子だと疑われると面倒だから「ミルドレッド」の中に入れているんだという話だった気がする。
忙しかっただろうに、とにかくよく遊んでくれた。
はしゃぐと魔力が暴発するミルが唯一安心してキャッキャと元気に遊べる相手だった。
大魔王が魔術訓練中に泣くようになるまでは?
「今は大きくなってあの頃みたいなかわいさではないんだけど、やっぱりかわいいんだ。二次元だったか、地下だったか、アイドルにハマって『ダサい』を極めちゃって恋人ができない長男も、ふらっと何処かに出かけては浮浪者か漂流者か放浪者かよくわからんレベルまで『小汚く』なって帰ってくる次男も、婚約者が好きすぎて『闇落ち』した長女も、天才のようで致命的に『おバカ』な時がある三男も」
大魔王はニコニコしているが……
え?
ダサい?
小汚い?
闇落ち?
おバカ?
ちょっと、ダジマット家って今どうなってるの?
ん?
おバカな三男って僕?
「あぁ。そうだ。君たちに結婚のお祝いの品を準備しているんだ。ちょっと待ってね?」
そう言ってフッと消えたかと思うと、フッと現れた。
はやっ。
お祝いの品は揃いの黒ローブだった。
「あ、これは、ローブじゃなくて、ケープだよ。ケープの方が訪問着の上に外套として着るときに格調が高い感じになって使いまわしがいいよ?」
黒ローブではなく、黒ケープ、だった。
違いはちょっと分からないけど。
「大魔王、それ、黒なんで、ちょっと」
「どういう意味? もしかして私たちに遠慮してる? ガブリエルがブルーシフトができないから紫を着ているけど、君たちは気にしないで黒を着ていいんだよ?」
「いえ。僕はまだ紫外は扱えませんから、神官服としては黒は着ることができません」
「え? そうなの? 君って本当にわかんないね? うーん。でもそれでいいと思う。この君がそうやってのんびり暮らしてくれると、ミリーも嬉しいだろう。ではこれは、とりあえずミリーに預けておくよ」
大魔王の方がほんっとに分かんないんだが?
「ミルが黒を扱えることは知っています。子供の頃からなんですよね?」
「あぁ、また召喚紋をつけてもらったの? ユッピーが驚いてたよ。10才のミリーが君の胸についてた召喚紋を外すのを見たって。しかも目には見えないように紫外領域にしてあったって」
「おやじには見えてたのか。そうだよな。紫外の使い手なんだし」
「ユッピーに『あの二人なんかヤバいぞ。知ってたか?』って聞かれて、返事に困ったよ。君がミリーが探せなくて泣くことが多いから、『召喚紋をつけてあげなさい』ってミリーに魔術書を渡したのは私だからね。どうも非常識だったらしいよ。なんかごめんね」
「え? 僕が泣く?」
「うん。君は泣き虫だったからね。いやぁ、正直に言ったらユッピーにドン引きされちゃって、あれは人には見せない方がいいらしいよ。ミリーはちゃんと見えにくいところにつけて、更に紫外にしてたみたいだけどね?」
大魔王は大魔王だった。
彼のペースで話をすると、猛烈に混乱する。
けど、「とうさま」って呼ぶの、ちょっと嬉しかったりする。
ちょっと子供っぽいかな?
「もうそろそろミリーもガブリエルから解放されてるだろうから、茶室に行ってみようか? そろそろみんな集まってるんじゃないかな?」
大魔王の魔術で茶室へ転移したら、クッソ小汚い男と魔王が優雅にお茶を飲んでいた。




