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ヤキモチ焼きですが、何か?

「はぁ~。しあわせ~」


 僕は今、ようやく部屋に戻り、シャワーを浴びて、僕のベッドで先に眠ってしまったミル様を抱きしめたところだ。


 もう、この瞬間のために生きてるかもしれないとまで思う。


 スー。ハー。

 ん~。

 いい匂い。

 安らぐな~。


 散々な晩餐会の後、僕たちはピーターバラ王家の家族会議で、今後の方針をすり合わせた。ミルは疲れを理由に参加を辞退した。


 この会議には、リーズで暮らしている一番上の兄も顔を出した。二番目の兄より男らしい精悍さを湛えた赤眼赤髪のクソイケメンだった。

 ミルは「ジョナサン似の美人さんよ」とか言って軽く流していたけれど、クッソ超絶イケメンじゃないか!


 いや、そのことは、今は、置いておこう。



 まず、最優先事項として、魔王の娘であるミルにドレスの事で嫌がらせをした女官は、寄り親まで連座で投獄。


 ピーターバラの王室典礼を共有することを拒んだ女官は見逃して、別件で処罰対象の女官を敢えて冤罪で留置し、派閥内での不信感を醸成する。


 晩餐会の采配を担当した家々は、職場と自宅の「立ち入り調査」にダラダラと1週間ほど時間をかけることで、足の引っ張り合いと泥仕合を誘発した後に処罰。


 学園の教師の家々は、週明け後に、学園長を指揮官に任命し、補佐には貴族ではなく文官を配し、最終的には学園長を辞任に追い込む方向で進めるなど、手際よく次々に決めていく母上を見て、これがどれだけ周到に準備された大捕り物なのかが察せられた。


 また、全ての処罰対象に、()()もしくは()()()()の選択肢を与えることも決まった。


 爵位返上は投獄の汚名を避けることが出来る温情采配とも言えるが、自ら辞してくれるのが最も手がかからないし、遺恨が残りにくいから、これを選んでくれる家が多いといいよね。


 それから、魔王の闇の直営のゴシップ紙に朝イチで号外を発行させて、晩餐会の醜態を大々的に喧伝することなどを指示していた。


 ゴシップにすると市井の感心が集まりやすく、処罰の行方などもしっかり晒すことができるから、中央からどこか田舎に夜逃げしてくれたりして都合がいいらしい。



 ドレスの件でミルに嫌がらせした女官については、顔出しにして、ダジマット王配がデザインした『ミルドレッド』のドレスを却下して、第3王子の死を匂わすような色のしょぼいドレスをミルに着せたことについて詳細に記述するように母上自ら細かい指示を出していた。


 特にそれがミルの初めての晩餐会で、社交界デビューであったことも強調するようになど、かなり念入りだった。


 あとは続報で細かい裏話を漏らしていけば、喧伝力の高い女性層が貼り付き続けてくれるだろうとのことだ。



 ついでにピーターバラ貴族の緊急連絡網を試すことにしようと言って、各派閥の長に「明日の舞踏会は中止になったことを派閥内で周知するように」と王命の刻印付きの指示書を持たせた使者を出した。


 中止になったことを知らずに夜会に来ちゃうおバカな貴族をリストアップしておくらしい。



 僕には明日朝イチでダジマット女王陛下に謁見を申し込むので、許されれば速やかに国宝「ラファエルのピアス」を持って、晩餐会での出来事に関するお詫びとお礼に伺うようにとの指示が出た。

 ミルを帯同するようにとのこと。


 

 なんというか、母上って、隙のない女王って感じで、近づきがたいな。

 若い頃は可憐で人懐っこく可愛らしいと人気が高い姫だったらしい。


 ミルの生みの母君も若い頃は儚げな美女だったらしい。

 今は、威厳に満ちた魔王様だ。


 あの方に謁見か~。

 気が重いな~



 ミルもリーズ女王になったらあんな感じに威圧感バリバリになっちゃうのかな?


 今のところリーズは僕とミルの仲を邪魔しないから好印象だけど、ミルが王になってあんな感じにならなきゃならない日が来るなら、やっぱり神聖国で平民神官の方が幸せにしてあげられるのかもしれないな。


 そんなことを考えながら、いつの間にか眠りに落ちた。 



 そして目覚めたらミルがいなくて焦った。

 パジャマのままで慌てて居室に出たら、ミルはのんびりお茶を飲んでいた。


「疲れているのだと思ったから、ゆっくり眠ってもらおうと思っただけよ?」


 ミルは笑顔でおはようのチュッをくれた。

 うーん。

 幸せ。


 ミルがベッドにいないってだけで焦るなんて、僕も大概だな。


 ダジマット女王陛下への謁見は、午後の早い時間が指定されて、午後茶と晩餐に招待された。


 僕はミルに大魔王にミルとの結婚の許しを貰いたいから午後茶は別の予定を入れてよいか確認したら、ミルは嬉しそうに顔をほころばせてくれた。


「ふふっ。本人不在で親同士で勝手に婚姻を締結したのだから、結婚の許しなんていらないでしょうに?」


「そうだったとしても、僕は愛する君にちゃんと求婚したいんだ。そのためにはまず父君の許しがいるってものなのさ」


 僕はそう言って、チュッとミルの唇にキスを落として、着替えるために寝室へ戻った。恥ずかしくて逃げ出したとも言う。


 プロポーズの本番、大丈夫かな?



 出掛ける前に持参する贈り物の目録を確認していた時、僕はまたミルとちょっとした口論になった。




「魔王が『ラファエルのピアス』と『モードリンの首飾り』で、大魔王がリーズワイン、小魔王がピーターバラ歌劇の譜面、暗黒神が神聖国のハチミツね」


「ん? 暗黒神? テオ兄様は甘いものがお好きではなかったよね?」


「ハチミツは例外らしくて、最近養蜂を始めたのよ。そのために土地を買って花を植える凝りようで、その話を始めると終わりがないから、興味がないならつついちゃダメよ?」


「ミル、暗黒神に会ってるの?」


 僕が動揺して魔力が揺らいだことにミルは気付いただろうが、何事もなかったようにサラリと話を進めた。


「ええ。ピーターバラに来る前に2日ほどお世話になったわ。嫁入りなのよ? 神聖国から行くわけにもいかないでしょう?」


 さも当然のことのように言うが、僕は聞いていないぞ?


 僕が知っている暗黒神は、黒目黒髪で独特の神秘的な雰囲気を纏った美少年だった。



 おやじやグランパみたいに神聖国で育っていたら、神の家の修行中に適度なガラの悪さとチャラさが加わっただろうが、テオ兄様はダジマットで育った。


 静謐で荘厳なダジマット宮殿にぴったりの妖しく近寄り難い美しさを湛えていることだろう。


 僕は自分がおかしなことを聞いていると分かっていたけど、聞かずにはいられなかった。


「テオ兄様はイケメンになってた?」


「…… …… ええ。まぁ、そうね。ええ。まぁ、ええ。相変わらず美人さんよ?」


 え?

 何? 言いよどんだ?

 いつもだったら「ジョナサンの方が美人さんよ」って言ってくれるよね?

 

 とうとう僕よりイケメンだと思う魔族が出来たのか?


 そういえば、ミルはリーズのギリアン兄様の事も「ジョナサン似の美人さんよ」って言ってたけど、「ジョナサンの方が美人さんよ」とは言ってくれなかった。


 ああいうのが好みなのか?



「何それ? テオ兄様はミルの好みだった? ギリアン兄さんとどっちが好き?」


 ミルはゆっくりと首を傾げた。

 本当に何を言っているのか分からないわ? って顔だ。


 ねぇ。ミル。

 怒らないから本当のことを言って。(怒るけど)


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