義理の父には敵わないと思ってしまいましたが、何か?
第1王兄派の筆頭貴族のご婦人の方がミルを宥めようと口を開いた。
「ミルドレッド様、どうか落ち着いて。当家の分家の者がミルドレッド様の侍女として着かせていただいておりますが、女官指定のドレスが不吉だからと大慌てで泣きついてきたので、急ぎこちらで手配いたしましたのよ? 侍女は間に合わなかったの?」
ん?
第1王兄派はミルの味方?
「侍女のカイリーは出過ぎた真似をしたと、解雇されてしまいましたの。わたくし、賓客の身分ですから止めることができなくて、先程はそのことをお伝えしようと……」
「ええっ? 侍女を解雇してまでちゃんとしたドレスを着るのを妨害したのですか? なんてこと!」
ん?
なんか、声が良く通るな?
周りが固唾を飲んで聞き耳を立ててるからかな?
「それと、もう一人、家名はわかりませんけれども、わたくしがお願いしたピーターバラ王室典礼を運んでいた侍女が解雇されましたの」
ミルの言葉にこちらを遠巻きに見ていた夫人たちの表情が少しこわばった。
解雇されたのが自家の寄子かもしれないからね。
「王宮の使用人はそんなに簡単に解雇できる仕組みではありませんので、後日ちゃんと調べますが、急いで着替えられるようなお召し物はお持ちですか?」
騒ぎを聞きつけた第1王兄殿下が奥方に寄り添いながらミルに聞いた。
「先日ご挨拶にお見えになったドレスのような感じが理想的ですのよ?」
ミルにアドバイスをくれたのは奥方の方だ。
第1王兄派、好感度爆上がりだ。
「ご助言、ありがとうございます。何とかしてみますわ。少し遅れるかもしれません。女王陛下には……」
「私から伝えておこう」
「感謝します」
僕は第1王兄殿下に頭を下げた後、ミルを抱えて迎賓館に転移した。
その場で転移するなんて少々礼を欠く行動だが、緊急事態だからね。
「ジョナサン、手際が悪くてごめんなさい。大魔王に泣きついてくるから、先に戻ってて」
ミルは部屋に戻るとすぐに大魔王のフェアリードレスをひっつかんで僕の頬にちゅっとした後、ひゅっと消えた。
ミルが謝ることじゃないよ?
明日の夜会は欠席しよう?
というか、もうこの国を出よう?
邪魔の入らないところでのんびり暮らそう?
そう言いたかったけど、あっという間に消えちゃったので、僕は仕方なく会場に戻った。
ミルって、凄いよな。
こんな緊急時でも僕に「ちゅっ」ってするの、忘れないんだよ。
その「ちゅっ」があるかないかで僕の不安レベルが全く変わるからね。
ほんと、素晴らしい妻だよね?
で、結論から言うと、ミルは間に合った。
間に合ったんだが……
なかなか凄いものをくっつけてきた。
「クレメント! すまないね。ウチの女官が何やらおかしな行動をとっているみたいで」
「おぉ、デイン! こちらこそすまないね。ウチの娘は今回が社交界デビューで無知だから、その女官の言うことを信じちゃったみたいで」
大魔王が現れた。
ミルをエスコートして、現れた。
ねぇ。ちょっと邪推してもいい?
これ、大魔王が社交界デビューの娘をエスコートできるように、大魔王と僕の両親が裏取引して、女官を敢えて見逃した説、あるよね?
「折角来たなら、席、準備しようか?」
「いや、いい。娘を婿の元まで送ってきただけだから」
大魔王はカジュアルな感じで言いながら、ミルを僕のもとに連れてきた。
今のはサラリと聞き流してはいけない言葉だ。
僕が婿入りなことと、既に結婚しているようなニュアンスがある。
しかも、招待客が殆ど揃っているタイミングでこの言葉を聞かせたとすれば、やはり大魔王と僕の両親は結託して、この状況を作ったのだろう。
しかし、そんなことより、ミルがかわいい!
それになんかちょっといつもより大人っぽい気がする。
大魔王はミルをかわいく着飾らせるのが超絶上手い。
それでもキモ親父度が控えめなのは、アーティスト気質だからかな?
最初につけていた上品の塊のようなダジマットティアラじゃなくて、草花をモチーフに大小さまざまな宝石がちりばめられてキラキラした華やかなティアラに、お揃いのピアスとネックレスだ。
ちりばめられた小さめのダイヤモンドが僕の瞳の色のメインの石を凄く綺麗に引き立てていて、ぐっとくる。
僕の瞳も大魔王の瞳も緑系なんだけど、僕は淡くて、大魔王は深い。
だから、これは、たまたまダジマット家にあった大魔王色ではなく、ミルのために準備した僕色だとわかる。
うわ~。
大魔王が僕の瞳の色に合わせた宝石を手づから選んだと思うと、流石にちょっと気持ち悪くて身震いしたくなる。
が、すっごくミルに似合ってて、かわいい。
ドレスはミルが掴んで持って行ったのとは違うフェアリードレスで、なんだろう、形が落ち着いているのかな?
やっぱりなんか大人っぽく見える。
こんな短時間で、この仕上がりとは、大魔王恐るべし。
僕は、思わず、片膝をついて大魔王に謝辞を送ってしまった。
仕方ないよね。
ここまでしてもらったら、身体が勝手にお礼を言いたくなるってもんだ。
大魔王は僕を立たせた後、「娘を頼むよ」と言って、ミルを僕に引き渡した。
そしてミルの両頬に家族のキスをすると、グランパ達に会釈して、サクッと帰った。
「大魔王がね、もう結婚しているから髪型はアップにしてあげなさいって」
ミルは嬉しそうにそう囁いた。
なるほど!
それもあっていつもより大人っぽく見えるのかな?
大魔王はキモいけど、凄いな。




