はじめての晩餐会でしたが、何か?
ピッピッピッ
ん?
『ミリー: うぇーい。グランマ~、今夜の晩餐会、上皇后でオネシャス』
『ロナ: うぇーい。オケー』
あぁ、グループチャットか。
相変わらず軽いな~。
のしっ。
うっ。
「あ、ごめんなさい。ジョナサン、こっち側に寝ることもあるのね?」
ミル側の枕にうつ伏せ状態で顔をうずめて頭の中を整理していた僕の上にミル様が降臨なさいました。
あ、もう、普通の服に着替えてる。
「どっちって決めてるわけじゃないけど、そう言われてみれば、ミルがいるときは反対側が多いね?」
え?
何、この、カップルな感じの会話。
萌え。
「ね、ちょっと、仰向けになって。大事なことを忘れていたの」
仰せの通りに。
「今夜ジョナサンは、わたくしの名前を沢山呼ぶと思うの。間違えて紳士の談話室に出現しちゃうとダメだから、召喚紋を外すわね?」
ミルは、僕のパジャマのボタンを外して、胸元に埋め込まれた召喚紋にキスを落とした。
「外すときは一瞬なんだね?」
僕が寂しそうな顔を隠さなかったら、ミルにふっと笑顔が浮かんだ。
かわいい。
「次につけるときには呪文を変えられるようにしておくから、考えておいてね?」
ミルを召喚する呪文?
そんなの決まってる。
「ミルドレッド、僕の唯一、帰ってきて」
「まぁ! 『帰ってきて』なの?」
ミルは今度はハッキリと破顔した。
なんか、僕もうれしい。
「うん。子供の頃からずっとそうだよ。君には聞こえていなかったかもしれないけれど」
子供の頃は「王宮に」帰って来てって意味だったけど、今は「僕のもとに」って意味だから、ニュアンスは少し違うけどね。
「ふふ。呪文になったら全部聞こえるようになって、キュンね」
え?
ミルも僕にキュンすることがあるの?
「ミル。大好きだよ」
僕はそう言って、上体を起こしてミルにキスをした。
ああ、キスって、一回すると、いつでもしたくなるもんなんだな。
いや、前からいつでもしたかったけど、もっといつでもしたくなるって意味ね。
「わたくしもよ」
ミルはそう言って、ベッドから出て、笑顔で僕の頬にチュッとしてから、フッと消えた。
う~。
幸せだ~。
僕はほこほこした気分で自分の支度を終えたんだけど、同じく晩餐会の支度ができたミルを見て、幸せな気分がぶっ飛んだ。
なんじゃこりゃ~!
ミル、その恰好で晩餐会に出るの?
本気で?
ミルは美しく上品に輝くダジマットティアラに、なんかしょぼいドレスを着せられていた。
暗い色のせいかな? 布の材質のせいかな?
なんか猛烈にしょぼい。
大魔王は娘のために「ミルドレッド」というファッションブランドを立ち上げるほどのファッショニスタで、なんかいつも可愛らしいフェアリードレスを着てたんだよね。
僕たちが家出した時に孤児の服を着せた時でも、ミルはかわいかったけどね。
でも、なんだろう、ティアラとドレスが合ってないと、ここまで微妙な仕上がりになるのかな?
僕は首を傾げながらも、大魔王のプロデュース力が凄すぎて、ダジマット宮殿で育った僕も気付かぬうちに目が肥え過ぎたのかなって気を紛らわしていたんだけど、違うということがすぐにわかった。
侍従の案内で僕たちが建物に入ると、第1王兄殿下の奥方が第1王兄派の筆頭貴族のご婦人と共にぶっ飛んできた。
「ミルドレッド様、ごきげんよう」
「マリー様、シャロン様、ごきげんよう。あの、シャロン様、実は……」
「緊急事態ですから、不躾に申し上げますけれど、そのお召し物、どうなさったの? 色が未亡人みたいで不吉よ」
未亡人発言にはミルもビックリだったのか、素のビックリ顔が出てしまっている。
「そんな! 迎賓館の女官に明日も同じものを着るように言われましたのよ。酷いわ! 初めての晩餐会と夜会なのにジョナサンの死を思わせるような色を着せようとするなんて、許せません!」
え?
ミル様?
もしかして、お芝居じゃなくて、本気で怒ってる?
大声ではないのに、何やら声の通りが良くて、周りの人がざわついている。
って、ん?
「「「「初めての晩餐会と夜会!?」」」」
何人かの驚きの声が重なって、もう誰が言ったかわかんないぐらいその場がざわつき始めた。
そういえば、そうだね?
今日は初めての晩餐会だね?
そして、明日は初めての夜会だね?
でも、明日は欠席しよう。
こんなところで夜会デビューなんてさせられない。
何故かミルの父親のような気分で決意したよ。




