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はじめてのチュウに浮かれていますが、何か?

 はじめて~の、チュウ

 ぼくから~の、チュウ


 やった!

 やったよ!


 うふふ。


 ほんと、嬉しくて、涙が出ちゃう。

 

 僕はミル側の枕にしばらく顔をうずめて余韻を楽しんでいた。



 あ~。

 僕、浮かれちゃって学園や王宮で「婚約者」の距離感を守れないかもしれないな~。


 でも、恩を仇で返すわけにはいかないよな~。


 昨日、父上から話を聞いて、親主導で本人不在のまま「婚姻」に踏み切ったのは、僕たちのためだと知った。


 ピーターバラの生みの両親にしてみれば、僕が18才まで神の家に引きこもっていたままの方がやりやすかった。


 でも僕が第9位階の神官になった後も神の家に引きこもっている理由は、ミルを嫌って自己隔離しているからだという噂が抑えられなくなってきて、ミルの立場がどんどん悪くなっていって、引きずり出すことにした。


 そうでもしないと僕が18才になった頃には、ミルは最悪のストーカー姫と言われるようになっていたかもしれないし、何よりその間ずっとミルがツラい思いをする。



「念のために聞くけど、君が心変わりして、ミルドレッド姫との結婚を望んでいないなら、私たちが一緒に姫とダジマット家に謝ってあげるから、正直に言ってくれるかい?」


 父上にそう切り出された時、僕は怒りに震えた。


「はぁっ? 僕が心変わり? ありえない! 不愉快です」


 言っていいことと、悪いことがある。


「そう。では、これも念のために聞くけど、君は何故、第9位階の神官試験に合格した後も姫を迎えに行かなかったのかい?」


 ん?


「それは、神の家の修行が18才までだからです」


 父上は、頭を抱えてしまった。


「第9位階の神官試験に合格した後、君は何の修行をしていたの?」


 この質問が今の話とどう関係しているのか、分からなかった。

 本当に。


「今は奧妙の称号を賜るための紫外魔法の訓練ですが……」


「すぐにでも自立して姫を迎えに行けるのに? 称号のために?」


「え?」


「なるほど、皇王聖下とクレムは正しかったのか。良かったよ、強制的に結婚させて。良かったよ、君を神の家から引きずり出して」


「もしかして……」


「皇王聖下が仰るには、神の家に入る貴族は『水盆の神託』が目当てで入るから、絶対に18才まで修行するし、孤児は18才までにできるだけ上の位階に合格しようとするけど、第9位階に到達した人がいないしで……」


「僕はすぐにでもミルを迎えに行けた?」


 今度は僕が頭を抱えた。


「まあ、そもそも、君が神の家に入る必要があったのかがよくわからないんだが、姫が……」


「ん?」


 もしかして、ミルのように内裏で暮らしながら神官試験を受ける方法もあったのか?


「姫が言うんだ。これは君の自立への決意の表れで尊敬していると。それに君は姫の世話を焼きすぎるから、神の家で自分の世話だけ焼く期間を持ってもらいたかったって。同性の友人も沢山作って欲しかったって」


「父上、ありがとうございます。僕を引きずり出してくれて、結婚を許してくれて、何もかも手配してくださって、また息子に戻そうとしてくださって、感謝してもしきれません」


 僕は深く深く、頭を下げた。


「いや、感謝されると、凄く困る。私は君の婚姻届けに署名した以外、何もできていないのだから。自分たちで君を育てることができなくて、本当に申し訳ないと思っているんだ。どうか許してくれ」


 父上も深く深く、頭を下げてきた。

 キリがなくなりそうだから、僕たちはそこで謝り合戦を打ち切ることにした。


 そして、僕たちが既に結婚していることを公にすると都合が悪い理由も教えてくれた。


 ちょっと長くなるけど、昔話から始めることにするね?

 僕自身、今のピーターバラの状況を一度整理しておきたいんだ。


 ピーターバラは、王家と6つの侯爵家によって興された国だ。

 この7家は、かつて「魔王の闇」と呼ばれた。


 旧魔王軍の諜報部だった。

 人族と和解して魔王軍が解体した時、その功績が称えられ、魔王によってピーターバラに封ぜられた。


 傍目には美談なんだが……


 魔王様が大好きだった魔王の闇はショックだった。


 魔王の直轄地ダジマットの近衛に入れてもらえないばかりか、別の国に移され「君は出来る子だから国を運営してみなさい」と表に引っ張り出された。


 嫌がってゴネまくったが「いいじゃない、隣国なんだから、すぐ傍だよ?」と、相手にされなかった。


 じゃぁ、せめて、親戚になりたい。

 お嬢さんをください。

 これが魔王の闇の積年の願いとなった。


 どのくらいの長さかっていうと、千年だ。

 結構積もりまくっている。


 原因は聖女だ。

 ダジマットの姫は、聖女が生まれた国に優先的に派遣されるからだ。

 

 最初、魔王の闇は楽観的だった。

 何故なら魔王の闇は弱いからだ。

 魔王軍最弱の四天王だ。


 強かったら魔王の盾とか、魔王の剣に入ってるだろう?


 最強の長兄・神聖国、卒のない次兄・リーズ、変人の三兄・インダストリアを持つ、非力だけど小回りが利く末っ子ポジションだ。


 聖女はすぐに出現すると思っていた。


 とりあえず言われた通りに国造りでもするか?

 そう思って、いろいろ頑張った。


 正規軍の名前は「魔王の杖」に変えた。

 流石に「魔王の闇」じゃ、体面が悪いよね?


 その代わり正規軍の紋章を「ダジマットローズを守る二本の杖」にして片方を黒の杖、もう片方を白の杖にすることで、闇っぽさを残した。


 そうやって待っていたけど、ピーターバラに聖女は出現しなかった。


 魔王が言ったように、魔王の闇は出来る子で、聖女に付け入られる隙がなかった。

 

 侯爵家だって6家という少数精鋭のスリムで機動力のある体制のままで千年もの間安定した国家運営をした後、ハタと気づいた。


 これじゃ、ダメなんだ。

 聖女に付け入られる隙を作らなくちゃ!


 そして、今度は頑張って国を壊した。


 バカかな?

 待ちすぎて頭が壊れちゃった?


 あ、最後のはリーズ国の公爵でもある父上が言ったんだよ。

 僕じゃないよ。


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