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嫉妬心に焼かれましたが、何か?

 さて、聖女エアリーがいかにして男子生徒達の視線を取り戻したかについて書いておこうと思う。


 まず、ピーターバラ王立学園は、聖女エアリーのために作られたと言っても過言ではない。

 この聖女が誕生するまでピーターバラには王立学園はなかったからだ。


 つまり、そもそもの話、この学園は、聖女エアリーを監視する、いや、見物するための施設なのだ。

 だから、聖女エアリーが視線を集めることは、施設の正常稼働を示している。



 聖女は王宮に入り込んで、有望な貴族令息たちの将来をぶっ潰して回ることがある。


 そういう聖女は王立学園に収容して王宮への侵入を妨げる方法が効果的だが、今回はそうではない。


 ピーターバラが王立学園を設立したのは、聖女を見学に来る他国の貴族子女達が王宮に入ってこないようにするスパイ対策だ。

 ピーターバラに聖女が誕生した折に計画が始まり、6才の時に創設され、まだ10年ほどの歴史しかない学園だ。


 各国の王立学園を参考に、設立時は男女同数で、貴族子女と平民も同数になるような配分にしたらしいが、今年は聖女見学の外国貴族が押し寄せたことで、貴族8割、平民2割の配分になっている。


 クラス分けは成績順だ。淑女科に抜けた者たちが上位勢ばかりだったので、普通科のSクラスは、男性が多い。


 それでダンスレッスンなど、男女の人数を合わせたい時にだけ、合同授業が組まれることになっている。


 少人数の淑女科とSクラスが合同授業をすれば、男女の数がぴったり合う。

 にもかかわらず、ここに平民が多いCクラスが混ざる。


 既に踊れる貴族生徒が踊れない平民生徒に教えられるようにするためだ。


 つまり、僕とミルドレッドが婚約者同士(実際は夫婦な!)であっても、ペアになることはない。


 いや、今年は貴族の方が多いので、僕とミルドレッドがペアになっても良かったはずだ。

 ピーターバラが僕のことを自国の王子と言い張るならば、そこは上手い具合に手を回すだろ?


 が、実際は、僕のペアは聖女になった。


 側近候補たちが得意げに「殿下は平民の知り合いなんていないでしょう?」と言いながら連れてきたんだ。


 ふざけるな!

 お前ら忖度の仕方が間違ってるぞ!

 とも言えず、王子スマイルを貼り付けて同意するしかなかった。


 

 ミルドレッドのペアは、なかなかの美男子だった。


 すまん。

 嘘ついた。

 ()()()()美男子だった。


 誰だあいつ?


 濃紺の髪に水色の瞳の組み合わせは、聖女伝承の「氷の貴公子」ポジションだ。

 過去の魔王の娘は、あの配色の美男子を好んだ例が散見される。


 一方、僕は「王子あるある」なフツーの金髪にフツーの緑の瞳だ。

 ミルドレッド目線では、父親と似た見慣れた配色だ。

 むしろ、一緒に育った黒髪黒目の養子セオドアの方がセクシー路線で魅力的に感じるのではないか?



 僕がチラチラとミルドレッドの方を見ていたら、聖女も僕の視線を追って、ミルのダンスの相手に気付いて、息をのんだ。


 わかる。

 あいつ、美しいよな。


 マジで何者だ?

 

 しかも、平民のハズなのに、美しい所作で、ミルがダンスも教えるまでもなく、上手かった。武道館中の視線がその二人に集まっていた。


 そして、二人はたった1時間で武道館から姿を消した。


 というのも、最初の1時間は、各々のペアで練習して、次の時間から、教師の前で踊って合格を貰えれば、その課題の以降の授業は免除される仕組みだ。

 武道館は全てのペアが同時に踊れるほど広くないからな。合格したら抜けられること自体は理にかなっている。


 ミルと男は、勇敢にも一番最初に教師の前で踊って、帰宅してしまった。


 二人のダンスはとてつもなく優雅で、自分たちの練習を中断して見惚れている学生たちも多かった。


 なんだこれ。

 ミルは僕の妻だぞ!

 ふざけんな!!



 一方、聖女のダンスは、壊滅的だ。


 まず、最初の課題「ワルツ」の基本のステップすら知らない。

 わざとなのか?


 訝しんでいると「神殿ではダンスはしない」と言い訳していた。


 懸命に頑張っているようには見えるが、果てしなく先が長そうにも見える。


 ただ、3拍子の3拍子目に足を揃えるだけだと言ってみても、上手くできない。


 これが週に1回、最長6ヶ月続くのだ。


 忍耐が必要だ。


 気を抜けばゆがみそうになる表情を隠すために公務用の王子様スマイルを貼り付けた。


 聖女のドジっ子ダンスと僕の忍耐力限界の王子様スマイルは、傍目に微笑ましく映ったようだ。



 そしてこの様子は「王子は聖女とダンスをしているときは楽しそうだった」などと噂されることとなった。


 この頃から、野次馬共が「ジョナエア」などという造語で、僕と聖女エアリーが結ばれることを望むようになるなんて、想像を絶していた。



 なんてことだ……

 入学式に初手をしくじったことがこんなに響いてくるとは……


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