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キモイケメンに好感を持ちましたが、何か?

 明け方、バチッと何かに弾かれたような痛みを感じて起き上がると、そこにミル様がいた。


 いや~ん。

 か・わ・い・いぃ~~。


 何故だか僕の中のおねぇキャラが僕と一緒に目を覚ましてしまったようだ。

 不思議だ。


 そんなことより、今は目の前のミル様だ。

 昨日、僕は学んだんだ。

 ミルを起こすと、面倒なことになると。


 そう自分に言い訳して、僕はミルを眺めてた。

 本当は抱きしめたかったけど、起きたら面倒だから、ね。


 侍女が居室に朝餐を準備し始めた音がして、しぶしぶ起こしたけど、それまでずっと眺めてた。


 え?

 こわい?


 何とでも言え。


 

「ミルドレッド。朝だよ」


「ん。あさ? ジョナサン、おはよ。ちゅっ。んじゃ」


 ミルはまたいとも簡単に僕の唇にキスをした。

 転移で自分の居室に戻ろうとするミルの手を僕は思わず反射的にガシッと掴んで、止めた。


 ミルはビックリ顔と怒り顔の混ざった表情で僕を叱った。


「ジョナサン。転移の途中に触れるのは危ないって知っているでしょ? 悪い癖よ!」


 悪い癖?

 なんのこと?


「ミルがまた寝ぼけて神聖国に行くとイヤだから……」


「大丈夫よ。今日はちゃんと起きているわ」


「昔は僕が呼べば出てきてくれたけど、今は本当にどこに行ったか分からなくなるから、不安なんだ」


「昔は? ああ。そうだったわね。召喚魔法をつけていたからよ。またつける?」


「召喚魔法?」


「ええ。真名を呼べば出てくる魔法。でも、わたくしに魔力が半分以上残っていれば、わたくしが寝ていても出てきちゃうわよ? それに真名を呼べば出てきちゃうから普段は略称で呼ばなきゃいけなくなるわよ?」


「そんなのついてたの?」


「貴方が神の家に入る時に外したの。女人禁制だから不都合でしょ?」


「うん。たまに君の名前つぶやいてた。ねぇ、それ、つけて」


 神の家の修行僧は、女性との接触や外泊は、破門だ。


 あぁ、なるほど、そうか。

 ミルは転移で無意識に自分のベッドに戻っちゃうから、おやじはミルは追い出されちゃうかもって言ったのか。



「侍女が来ちゃうから、ぱぱっと、ね」


 ミルはそう言って、僕のパジャマのボタンをいくつか外して、胸元を舐めた。

 舐めた!

 舐めた?

 舐めたぁ!!


「後で詳しく説明するわね」


 そして、僕がドキドキで死にそうになっているのを見て、例のちょっと悲しそうな顔を浮かべた後、頬にちゅっとして、消えた。


 ミル様ぁ~。

 朝から刺激が強すぎるのですが?


 でも、幸せです!


 僕は息も絶え絶えになりながら、シャワーを浴びようとして、慌ててやめた。

 

 危ないところだった。

 ミル様が舌で触れた大事な胸元を洗い流してしまうところだった。


 大事な大事な胸元を注意深く庇いながら身を清めた後、制服に着替え、努めて平静を装って共同の居室に準備された朝餐の席に着いた。


 んで、早速、出掛けに揉めた。


 学園の転移紋を使おうとするミルと馬車で行きたがる僕の仁義なき戦いだ。


 僕はミルとお話がしたいのだ。

 あわよくば、いちゃいちゃしたいのだ。

 朝っぱらからとか、関係ねぇ。


 でも、ミルは馬車での移動などという非効率的なことは嫌がる。

 しかも毎日なんてもってのほか。


 揉めに揉めた結果、ミルが僕に抱き着いて僕ごと淑女科専用の転移紋に転移した。


「あっ。ミル、やったな!」


「無駄なものは、無駄なのです。それでは殿下、ごきげんよう」


 ミルは、他人行儀な挨拶をしてスタスタと教室へ向かってしまった。


 僕は朝っぱらから教官室に呼び出されて、婚約者とはいえ、抱き合って転移するのは学生としては不適切だと注意を受けた。


 目ざとすぎるだろ?


 あとは、何ともつまらん一日が過ぎた。


 あ、でも、なんかちょっとキモい知人ができた。


 側近候補の3人組が高位貴族用のサロンで昼食をとると言っていたので「そこへいけばミルに会えるかな?」と期待して行ってみたところ、側近候補3人と聖女しか見えなかった。


 即時撤収を決めて、回れ右をしたら、いつの間にか目の前に立ってた気持ちの悪いイケメンだ。



「我らが未来の女王陛下は中庭ですよ。未来の王配猊下」


 うわっ。

 イケメンであると同時に、こいつがこの学園で一番のキモ男であることも間違いない。


 我らが未来の女王陛下って、ミルの事だよな。

 新手の自称側近候補か?


 いや、でも、王配に猊下をつけるってことは、僕が神聖国の皇子だってことを知ってるってことだから、手ごわいかもしれない。


「…… 失礼、君は?」

 

「ああ。申し訳ありません。リーズ近衛隊長の嫡男で、ワイケベック侯爵家のアンドリューと申します」


「ああ。それで……」


 いろいろと正確な情報を知っているのは、ダジマット側の正規ルートで聞いたものだと考えた方がいいだろうな?

 ダジマット王配の大魔王は今でもリーズ王太子のままようだからな。


 それでも「未来の女王陛下」は、キモイぞ、お前。

 まぁ「未来の王配猊下」は、悪くない気分だけどね。


 って、僕、危うくキモイケメンに好感を持つところだったよ。

 あぶない。あぶない。


「ご親切に情報ありがとう。それでは失礼す……」


「高位貴族のサロンで聖女と仲良くしていたという噂が立つのを避けるために、私と人目のある噴水前で昼食をとるのが無難かと」


 うえ~っ。

 そうなの?


 キモイケメンもイヤだけど、その噂はもっとイヤだ。


「ありがとう。では、そうさせてもらえると助かるよ」


「それでは、折角なので、少し回り道をして、我らが女王陛下の様子を確認してから教室に戻りましょう、猊下」


 ダメだ。

 このキモイケメン、気が利きすぎて、抗えそうにない。


「それは嬉しいね。でも猊下は差し支えるから、ジョンって呼んで」


「はい。ジョン。それでは参りましょう」


「あと。話し方、少し崩せる? 僕、神聖国が長いから、丁寧すぎると、肩が凝るんだよね」


「はははっ。ジョンは噂通りだね? こちらはアンディーって呼んで。あ、ジョン、あそこ。我らが女王陛下だよ」


 噂通りって、何?

 ミルを見つけるの、早すぎない?

 やっぱ、どっかキモいよ。


 ミルは、なんと、魔法柵の向こうの庭園で淑女科の女性陣と昼食をとっていた。

 ミル様、なんか、妙に馴染んでない?


 初日に懇親会があったって言ってたよな。

 ああいうのって、効果あるのね?



「ああ。魔法柵があるのか。うん。安心だな。よし、戻ろうか?」


「そうでしょ? 昨年姉上がごねて、淑女科しか入れない庭園を準備してもらったんだ」


「すごい、姉君だね。頼もしいな」


「へへ。そういってもらえて嬉しいよ。姉上はリーズで一番聡明なレディーだよ。キリリと美しくて、厳しいけど隠れた優しさが沁みるんだ。あと同じ学年に次期近衛隊長が平民枠で潜入してるよ。貴族ばかりだと小回りが利かないからね」


 キモイケメンは、シスコンと見た。

 僕はライバルが増えなければ、なんでもいいよ。

 うん。

 シスコン、いいじゃないか。

 好感度が上がったよ。


「ところで、ジョン。昨日、君達が休んだことに関する噂はまだ聞いてないよね。あれ、我らが女王陛下が朝からヒステリーを起こして、ジョンが宥めるのに相当苦労したことになってるよ」


「え? ヒステリー?」


「君の胸に顔をうずめて泣きじゃくる姫を膝に乗せて必死にあやして何とか収まったって」


「ほう。あれは泣きじゃくっていたというより、笑いをこらえてたように見えたがな」


「膝の上に乗せてたのは、本当なんだ」


「いいだろう? 夫婦なんだし。まぁ、そのシーンを切り取ることができた人物は特定しやすいから、どこの人間か調べてみよう」


「あとは、明日あたりに神殿に長居した話も出るかもしれないけど、具体的な噂は作れないだろうね」


「ふむ。って、え~。神殿の話も知ってるの? アンディーよ。君、ちょっと、こわいよ?」


「近衛ですから、このくらい普通です」


「あ~。開き直ってる」


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