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Leak -Think again-  作者: 冬野柊
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1.5 ダークサイドの目論見

人はどれだけの感情をその心に背負えばいいのだろう。それは何故その人の中に生まれたのだろう。それをどのように命名すればいいのだろう。どうしたらそれは消えていくのだろう。その幾つが嘘で、幾つが真実なのだろう。どんな科学者も、どんな学歴の持ち主も、政治家も評論家も…。おそらくこんなもの、答えを出すことはできない。まず本人が証明出来ない。自分にはこんな感情が今宿っていて、こうすることによってこれは消化できると思います、など説明がつくはずもない。説明がつけばそれに悩むことなどあり得ないわけなのだから…。



「くくく…あははは…」


常夜灯(じょうやとう)だけに照らされた部屋で、1人不気味に笑う。だがそれは喜怒哀楽のすべてが凝縮されているような、そんな表情に見えた。そしてそのそれぞれの感情の原因がどこにあるのかは、おそらくこの本人もわかってはいない。パソコンと向かい合いそこに世界の全てがあるかのように目線を逸らさずに見つめていた。


「人は嘘をつく。誰も信用しちゃダメなんだ。クソだ。クソクソクソ!!!。あはは、人を騙すのはいけないことだよね。少しくらい…そうだ、少し重めの罰があって良いよね。リック、そうだよね。」

狂気に満ちた目でそう言いながらキーボードの上で指を踊らせる。自分の正しさを自分で肯定するための呪文のように唱え、危うく脆い「正しさ」と思しきものを、自分の中で「強固な」正しさに変えようとしていた。


「はははは!もうすぐLeakの完成だ。これが流行ったらこの世界はどうなるかな?リック。まぁ流行らないか。せめて君の元へは届いてほしいなぁ。それだけで別にいいなぁ。」 

世界…いや世間に、何の期待も持っていないような口ぶりは、それの裏返しでもあって、きっと何かを期待しているということなのだろう。もしかしたら自分の中でもこの感情をカテゴライズ出来ないまま、それでもその「何か」としか言えない感情に正直にただ、腐った世の中に絶望しても、自分が諦めなければ、必ず変えられると言うアンチテーゼの様なものを知らずに掲げて、そして自分の中の「正義」の名の下に今、それを振り(かざ)そうとしているのだ。それを「=正しい」と、そう定義して良いのかどうかなどと言うことは神に聞いても答えは出ない。今は自分の中の正しさが、即ち世界の正しさだと思い込むことしか人間には出来ないのだ。だからそのベクトルの違いで争いが生まれることになる。76億人が同じ意見で生きるなんて不可能犯罪の上をいく不可能だ。でも、自分が正しいと思って生きることは人を否定することとはイコールにはならないはずだ、と、それを言いたいのかもしれない。他ならぬ自分に。

「あー。デベロッパー登録なんてあるのかー。何て名前にしよう。んー…あ、そうだ。」

そしてこの人物は世に対して自分自身をこう名乗ることにする。


「Think 登録っと。」


結果としてこのアプリは爆発的に流行ることになるのだが、この時代、本人の意図しないところで、人の本能的なところを刺激してその利用者は増やすこともある。そうだ。物事は何も、自分の知る範囲だけで動いているわけでない。時を同じくして、別の場所で、あなたの知らない場所で思いもよらないことが起きていたり、はたまた、同じような出来事が、同時多発的に起きていたりするものである。鷺宮(さぎみや)柚諳(ゆあん)の学校で起きた出来事も然り、そのひとつにしか過ぎず、その、学校の中だけで繰り広げられていたわけでは勿論無い。そしておそらく、その中だけで解決できることでもない。誰でも手を出せるものが、誰かを苦しめてしまうかもしれないなんて想像もできないものである。とは言えSNS時代の現代日本。拡散されるのに、然程(さほど)時間はかからないだろう。「面白いよ。」この一言を言うなど容易(たやす)い。そうやって広まっていけばあっという間だ。誰も手の施しようもない。景星学院高校での一件は、ほんの一例に過ぎないのだ。極端に言えば同じようなことがきっと他の場所でも起こっている。そうやってこのアプリは普及していった。本人の想像をも飲み込んで。


 簡易制裁アプリと名乗る「Leak」はまるで暗闇が青空を飲み込むかの如く、我々の生活に(いと)も簡単に浸透していったのだ。

それは、犯罪に加担するでもなく、呟く本人は当然匿名、その相手の本名も必須では無いのだ。特定できそうなデータだけで構わない。しかしあまりにアバウトだと無効とされる、というもの。このむしろアバウトなルールは小さなストレスの発散を手助けするにはもってこいだった。それもあって瞬く間に流行り出したというわけだ。手軽というのはどこまでも巧妙で、人の心につけ入る。つまりは呟くもの呟かれるもの、どちらも些細な嘘や裏切りを腹に抱えているのは間違いないということなのだろう。人間など、全員そうであっても驚きはない。表面上、笑顔の仮面で取り繕ったとしても、素顔は笑ってない。世間はいわば仮面舞踏会のようなものだ。素顔を見せずこの世界で踊っている。そして真実を隠し嘘で塗り固め、最終的に真実を見失う。

一見、このアプリ自体は人が隠そうとしてきている醜悪を晒し、ポイントという概念の名の下に制裁をくだす、鬼畜の所業そのもののようにも感じるが、結局のところは心のどこかで人間が感じていたところに手が届いたようなアプリかのかもしれない。


「リック…本当はもうとっくに許してるんだ。許してるんだよ。でもね、どこに「許せてない自分」が生き残ってるみたいなんだ…このアプリを作ったのは多分「そっちの」意志なんだよ…。」


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